僕と契約して魔竜少女になってよ
……える? ねぇ聞こえる?
何処かからリーファに呼び掛ける声が聞こえて来る。
……誰?
僕は守護竜アルマリオス。
リーファの目の前に光を帯びた小さな竜が現れる。
アルマリオス……それってアルベルト達が言ってた聖剣ロクニオスを守ってる?
そう……僕は邪神の呪いによって魔剣ロクニオスの守護を命じられていたんだ。勇者を陥れる為にね。
邪神の呪い……それに勇者を陥れる? あと、聖剣じゃなくて魔剣?
うん。僕、千年ぐらい前に魔王に捕まって魂を六つに分けられちゃってさぁ……その一つが今話してる僕で、君の命で開いた扉の中で勇者と戦って、勇者が勝てば魔剣を奪われるって役目を担わされてるんだ。それと魔剣ってのは間違いじゃない。あれは邪神が勇者の心に魔を宿させる目的で作った剣だから……。
うぅ、情報が多くてパンクしそう……それより私の命で開いた扉って……そうか、私死んじゃったんだ。
君はまだ死んでいない。僕が力を使って魂を引き止めているからね。
死んでいない?
ああ……君に頼みたい事があって、魂にこの世に残ってもらった。
頼みたい事……何ですか?
僕が呪いから解放されて自由に動けるのは、肉体が滅んだ今しかない。
あと数日もすれば肉体が復活して、再び迷宮に縛られる事になるだろう。
だから僕と契約して魔竜少女になってよ。
それで勇者アルベルトを妨害して、先に魔王を倒して欲しい。
えッ、無理ですよッ!! 私、Eランク冒険者ですよッ、魔王なんて倒せる訳無いじゃないですかッ!! 大体、魔竜少女って何なんですかッ!?
勿論、今のままでは無理だよ。でも君が僕と契約して、魂が融合すれば魔王に勝てる可能性はある。それが魔竜少女さ。
……どうしてアルベルトを妨害しないといけないんです? そりゃあ、騙されて酷い事されたのは絶対許せないですけど、あの人、魔王を倒すとか言ってたし、それって人間側には凄く有難い事じゃ無いんですか? 絶対許せないですけどッ!!
ああ、放っておけば、きっと彼は魔王を倒すだろう。そして次代の魔王として君臨する事になる。
えっ!? 何でッ!?
勇者を陥れる為って言っただろう。
……どういう事です?
魔王は邪神の先兵なんだ。でも魔王になれる力ある魔族は数百年に一度しか現れない。魔族は寿命が長いからね。
でも人間から生まれる勇者は数十年もあれば必ず出現する。そして勇者は魔王を倒す。
そしたらその後、数百年は邪神は魔王という手下を失い、この世界に手出し出来ない。
は、はぁ……。
だから邪神は考えたのさ。勇者の才能を持った若者に夢のお告げという形で助言を与え、神の導きだと思わせ彼に禁忌を犯させる。
何の罪もない、いたいけな乙女を生贄に捧げる事で、人間サイドの切り札である勇者を魔王に堕とし、半永久的に手下である魔王を存在させる。
……私を殺した事でアルベルトが魔王になっちゃうと?
うん……夢のお告げで勇者は悩んだ筈だ。強力な力のある魔剣……勇者は聖剣だと思っているけど……ともかく、力と引き換えに無実の少女を殺すかどうかってね。
一人の少女の命と、魔王を倒す事で救われる多くの命。早く魔王を倒せば倒すほど犠牲は少なくて済む。
力を選んだ事は、彼の中で楔となって魂を拘束するだろう。それにさっき言った様にあの魔剣は使えば使う程、勇者の心に魔を宿す様になっている。
邪神が付け入る隙はいくらでも生まれるさ。
うーん、正直、アルベルト達には文句ぐらいじゃ済まないほど怒りを覚えているけど、アルマリオスさんの話が本当なら、私が魔王を倒せばアルベルトが魔王になる事もないって事だよね……。
その通り、まぁ、さっき話した様に勇者がなんなくても、魔王は何百年か周期で自然に発生しちゃうんだけど、それでも数百年の平和は得られる筈だよ。
あ、そうか、心で考えた事は今は筒抜けなんだ……。
今の君は魂だからね……それでどうする? 僕と契約して魔竜少女になって、魔王を倒してくれるかい?
あの、その契約でアルマリオスさんに何の得があるんです?
いい加減、邪神の悪だくみの片棒を担ぐのは嫌になってきたし、勇者を妨害して先に僕の六つ別れた魂……残り五つに接触、融合出来れば呪いを解く事も出来る筈なんだよ。
なるほど、アルマリオスさんにも益のある事だったか。
…………このままじゃ、アルベルトに騙されて殺されちゃった間抜けのままだもんね。それにアルベルトの邪魔すれば少しは鬱憤も晴れそうだし…………やります。
了解だ……初めての試みだから、色々不具合があるかもだけど、それはその都度修正するから。
えっ、えっ!? 不具合って何ッ!? それに初めてって、大丈夫なんですかッ!?
焦るリーファの声を無視して、アルマリオスは彼女の魂と融合した。
■◇■◇■◇■
「……ウッ、ゴホゴホッ!!」
次に目覚めた時、リーファが感じたのは粘つく口内の血生臭さと、喉の痛みだった。
その次に感じたのは粘つく衣服への不快感だった。
「そうだ、私、アルベルトに胸を刺されて……」
顔を上げて周囲を見回せば、ここは守護竜の間の前、あの時のまま祭壇に鉄の枷で固定されたままだ。
「えー、生き返っても動けないんじゃ意味無いんですけど……」
"大丈夫、今の君なら鉄の枷なんて無いも同然だよ"
唐突に響いた声はアルマリオスと名乗った守護竜の物だ。
ていうか融合ってこういう感じなのか……私のプライベートってその場合どうなるんだろう……?
"ハハハッ、君のプライベートは僕のプライベートでもある。何も気にする事はない"
「いや、気にするでしょっ!!」
ツッコミと同時に振り上げた右手は、何の抵抗もなく鉄の枷を破壊していた。
「嘘……滅茶苦茶、力が強くなってる……てかちょっと待って、ちょっと待って」
振り上げた薄闇の中見える右手は純白の鱗で覆われていた。
「えっ、嘘、もしかして……」
思わず左手と両足の枷も引きちぎり、腰のポーチの中からランタンを取り出し火を灯し、その後、手鏡を取り出して恐る恐る覗き込む。
「……無いわ……これは無い」
手鏡に写っていたのは、ランタンの明かりで照らされた栗色のくせ毛を持つ、角の生えた白蜥蜴だった。
「アルマリオスさん……いえ、アルマリオスッ!! ふざけないで下さい!! これじゃまるっきりリザードマンじゃないですかッ!!」
"だから不具合が出ると言ったろ……ちょっと待って……融合の具合を調整して……"
「なにこれ、かゆっ!?」
リーファの全身にムズムズとしたかゆみが走り、次の瞬間には手は人のモノに戻っていた。
ただ、爪は鋭く尖り肉食獣の様だった。その肉食獣の爪の生えた手でリーファは再度手鏡を覗き込む。
今度は大分、人に近いが瞳はランタンの明かりを受け収縮、その瞳孔は縦長だ。
更に頭部からは捩じれた角が二本生え、歯はギザギザと肉食獣に様に尖っていた。
「完全に人外ですねぇ……」
"それで我慢してくれ、これ以上魂の重なりを放すと融合が解けてしまう"
「はぁ……しかたないですね……街の人には竜人間って事で通しましょうか……」
融合の影響か、人相も元々のリーファとは変わっており、以前のよく見れば可愛いとも思えなくない物から、キリっとした感じに変わっていた。
これならアルベルト達に近づいてもリーファとはバレない筈だ。
"怪我の功名だね。融合具合については今後、試行錯誤していこう"
「なるべく人に近い形でお願いします。トカゲ顔は流石にアイデンティティが崩壊しちゃいそうですから……」
"善処しよう……さて、では……君、名前は?"
「リーファです。リーファ・ブラッド」
"ではリーファ、早速だけど僕の部屋に行って貰える?"
「あなたの部屋に……一体何があるんです?」
"僕の死体と君の武器だ"
武器ですか……そう呟きながら、祭壇に置かれていた報酬の布袋を手にしたリーファは、祭壇を降りて巨漢戦士ゴダックに剥ぎ取られた雑納に布袋を仕舞った。
正直、アルベルトの置いて行った金など手にしたくはなかったが、いつか全てが終わった時、この金をあいつに叩き返してやるのだ。
そうして金を雑納に仕舞ったリーファはアルマリオスの部屋へと足を向けた。
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