お姫様だっこかおんぶか
まずはボス部屋に出現した宝箱を探る事にしたリーファ達。
クライブは部屋の中央の宝箱に目をやり、次いで視線をリーファに移した。
「リーファ、もう動けるか?」
「ん……駄目です。まだ足に力が入りません」
「そうか……お前もお宝見たいよな?」
「お宝……見たいですッ!」
「よし。じゃあおぶされ」
そう言うとクライブはリーファに背を向けしゃがみ込んだ。
「えっ、おんぶですか……」
ここはお姫様だっこじゃないの。おんぶって何となく子供っぽいような……。
それにアンデッドと戦って臭いも付いてる筈だし……。
「なんだ、見たくねぇのか?」
「……見たいは見たいんですけど……」
「だったら早くおぶされ、俺もどんなもんか見たいからよ」
「リーファ早く」
「……分かりました」
気恥ずかしさを感じつつリーファはクライブの肩に手を伸ばし、腕の力でその身をクライブの背に乗せる。
足に力が入らないとこうまで動けないのか。
そんな事を考えていると、クライブがその動かない足を両手で抱え立ち上がった。
背負われるといつも自分が見ている視界よりも随分と高い。
その事とクライブの首筋から香る男の匂いがリーファの鼓動を早くした。
お姫様だっこにも憧れがあったけど、おんぶも悪くないかも……。
リーファが心の中で前言撤回している間に、クライブは宝箱に歩み寄り彼女を宝箱から少し離れた場所に下ろした。
「ボス部屋の宝箱に罠が仕掛けられてたってのは聞いた事はねぇが……まっ、一応な」
「ありがとうございます……あ、クライブさん、開ける前には近くに運んで下さいね」
「分かってるって」
こちらを見上げ両手を握るリーファに苦笑を返し、クライブは宝箱に罠が仕掛けられていないか確認した。
その後、リーファを抱え(今度はお姫様だっこだった。リーファ的には甲乙つけがたしと感じていた)宝箱の前に座らせる。
「開けるぞ」
「は、はい」
大墳墓で宝箱は何回か開けたが、中身が分かっていても何だかドキドキしてしまう。
クライブが慎重に蓋を開け、二人は中を覗き込んだ。
宝箱の中には純白のブレストアーマーの他、宝石や金貨が収められていた。
「……なんで宝石やお金まで」
「武器防具だけじゃ勇者の仲間のテンションも下がるだろうしね。邪神の指示で魔王アグニスがそうしたのさ」
「魔剣の話を聞いた時も思ったが、邪神ってのは回りくどい事が好きなんだな」
「直接は知らないけど、策謀を巡らせるのが趣味らしいよ」
「策謀……ねちっこくて、ダチにはなりたくないタイプだな……まっ、貰える物は貰っとくが……」
クライブは苦笑を浮かべつつ、宝箱から鎧と宝石と金貨を回収し腰のポーチに入れた。
「報酬は後で山分けだ。後は隠し部屋にあるっていう残りの鎧を回収しようぜ。リーファおぶされ」
「了解です……」
クライブがリーファをのぶって立ち上がると、アルマリオスがパタパタと飛んで壁を構成する石の一つを指差す。
「クライブ、この石、押し込んでもらえる?」
「押し込みゃいいんだな?」
壁に歩み寄るクライブの背でリーファが口を開く。
「あのクライブさん、ゾンビとかと戦って臭いが気になるので、足が動く様になったらお風呂に入ってもいいですか?」
「風呂って、こんな迷宮の中でどうやって……」
アルマリオスの示した石を押し込み隠し扉を開けながら、眉を寄せたクライブは現れた部屋を見てあんぐりと口を開けた。
「なんじゃこりゃああッ!?」
迷宮の中とは思えない豪華で快適そうな部屋にクライブが叫びを上げるのを聞いて、リーファとアルマリオスは生暖かい微笑みを浮かべる。
「なっ、なんでダンジョンの中にこんな快適そうな部屋がッ!?」
足の萎えたリーファをソファーに座らせたクライブは、迷宮内に似つかわしくない豪華で快適そうな部屋に目を丸くして部屋の丁度を見て回った。
その間にリーファはテーブルに置かれていたチーズとパン、それにワインをアルマリオスの許可を得て口に運んだ。
食事を取った事で萎えていたリーファの足も、本調子とは言えないが力を取り戻す。
「ふぅ……ようやく動く様になってきました……クライブさん、鎧を回収お願い出来ますか? 私はお風呂に入ってきますので」
「そいつは構わねぇが……」
「あっアルマリオスさん、間取りは一緒ですか?」
「うん、記憶を見たら一緒だった。やっぱり僕は僕だね」
アハハと笑うアルマリオスにクライブが詰め寄る。
「おい、アルマリオスッ! これはどういう事なんだよッ!?」
「どういう事って何が?」
「この快適空間の事だよッ!?」
「いやぁ、ずっと引き籠りだと気持ち的にナーバスになるでしょ? だから……」
「それにしたって、貴族でもこんな暮らしは……うぉッ、これ何処だよッ?!」
魔導鏡に写った絶景を食い入る様に見つめるクライブに苦笑を浮かべると、リーファは部屋の奥に進み、廊下を進んだ二番目の扉を開いた。
アルマリオスの言葉通り、そこには脱衣所と服を洗濯してくれる壺が設置されている。
ダンジョンの最深部じゃなければ、やっぱりここを拠点にしたいなぁ。
そんな事を思いつつ、ゾンビの体液で臭う汚れものをポイポイと壺に投げ込み、リーファは浴室へと足を進めた。
シャワーで体を流し、石鹸を泡立て体を洗う。
ああ、やっぱり気持ちいい……あっ、これってアルマリオスさんが作ったなら、地上でも再現可能なのではッ!?
"出来なくはないけど、水源とか動力に使う魔力とか、そういうのが豊富な場所じゃないと無理だね"
「うっ、また心を……はぁ、じゃあそういう場所が見つかれば拠点に……」
"うーん、どうだろう? そういう場所って大体、昔から聖地にされてたり、人間の偉い人が独占とかしてない?"
うっ、そう言えば実家の近くにある魔力の濃い場所は、貴族の避暑地として一杯屋敷が建っていたような……。
クッ、いい場所はもうお金持ちなお偉いさんが押さえているって訳ですかッ!!
"まぁ、そんなに憤らなくても、旅の間にいい場所が見つかるかもだよ"
「いい場所って言っても、貴族さんやお金持ちが見向きもしない辺鄙な場所ですよ、きっとッ!!」
むふぅッ!! 結局世の中、お金と権力なんだッ!! くそぅ、魔王を倒したら思いっきり喧伝して、王様達に最高の土地を下さいって言ってやるッ!!
住む場所も暮らしも出自が左右する、その事に憤りながら、ガシガシと髪を洗いシャワーで泡を洗い流す……。
ふぅ……やっぱり気持ちいい……なんとかコレを自室に……。
ボンヤリとそんな事を考えながらリーファはシャワーを止め、湯舟に浸かると「あ――――」とうめき声を浴室に響かせた。
■◇■◇■◇■
一方、豪華な部屋を一通りアルマリオスに案内してもらったクライブは、魔力というのは凄いもんだと改めて感心していた。
「うーん、冒険者になった時、俺には魔法の才能はねぇって言われたんだが、これだけの部屋を作り出せるんなら、どうにか使ってみてぇな」
「この部屋も一気にやった訳じゃなくて、少しづつ整備したんだけどね……それで回収して欲しい鎧はその壁際に置いてある奴だよ」
小さなアルマリオスが指差す先、壁の傍に数体の純白の全身鎧が置かれている。
宝箱に入っていたのはブレストアーマーだったが、アレも形を変えればこうなるのだろう。
「これがゴーレムで出来てるとは思えねぇな」
「ものすごく小さいゴーレムだからね……これが作られた目的は勇者の体を魔族に変化させる事だけど、こういう全身鎧ってサイズの問題があるじゃない?」
「確かにな。部分鎧ならベルトで調整すりゃ何とかなっても、こういう甲冑はタッパとか、胴回りとか調整しようがねぇもんな」
「うん、せっかく勇者の手に渡っても、着てもらえないんじゃ意味が無いからね」
「……ほんと邪神って回りくどいな」
ほんとにね、クライブに相槌を打ちながらアルマリオスは苦笑を浮かべる。
「ふぅ……ともかくこいつも回収するぜ」
クライブは部屋に置かれた数体の甲冑を腰のマジックポーチにしまい込み、再度部屋を見回した。
豪華で快適な部屋ではあるが、ずっとここに閉じ込められているのはどうだろうか。
自分ならきっと一週間もしない間に飽きて冒険に出たいと思うだろう。
あの大扉で閉じ込められるのもゾッとしないしな……扉……。
「そうだ。ここのお宝は回収したから良しとして、アルベルトもいずれここに来るんだよな?」
「うん、多分、僕がいた迷宮から一番近いのがここだから、邪神は夢で大墳墓を示すと思うよ」
「んで、そん時にはまたリーファみたいな娘を生贄にするんだよな?」
「多分、そうだと思うけど……」
「……なんとかそいつを止められないか?」
アルベルト達が少女を生贄に捧げるのを止める。その為には扉の奥には何も無いと認識させる必要があるだろう。
扉は一日で閉まってしまう。リーファの血を注げば開く事は可能だが……。
アルマリオスが方策について頭を巡らせていると、風呂から上がったリーファが二人に声を掛けて来た。
「何の話をしているんですか?」
「……ホントに風呂が付いてんだな」
バスローブ姿のホカホカなリーファを見てクライブはハハハと乾いた笑いを上げた。
「凄く気持ちいいですよ。クライブさんも入ってきたらどうですか?」
「あ、ああ……」
「それで何の話をしてたんです?」
「いや、アルベルト達、聖王冠が連れて来る、生贄の娘をなんとか救えねぇかってな」
「生贄の…………」
クライブの言葉を聞いてリーファは眉を寄せ「そうですねぇ」と唸りながら顎に手を当てた。
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