両刃の剣と二つ目の魂
クライブによる囮作戦と第四形態を使い脚力を強化したリーファの蹴りによって、大墳墓で邪神の宝を守っていた守護竜アルマリオスは倒された。
なんにしても、これで二体目?のアルマリオスの魂と融合出来る筈だ。
着地に失敗し尻もちを突いたまま、そんな事を考えていたリーファにクライブが歩み寄る。
「リーファ、大丈夫かッ!?」
「ああ、クライブさん、私は大丈夫です……って、立てないッ!?」
リーファはクライブの姿を見て立ち上がろうと足に力を込めたが、竜化から戻した足には全く力が入らない。
「立てないって、やっぱどっか痛めたのかッ!?」
慌ててリーファに駆け寄ったクライブの後ろから、パタパタと羽音が聞こえる。
「心配しなくても大丈夫。第四形態はまだ構想中だったから、調整不足で体内のエネルギー消費が激しかったみたい。栄養補給……ご飯を食べて少し休めば歩ける様になる筈さ」
「栄養補給……そういえばお腹ペコペコです……ご飯……」
リーファは足を投げ出し座り込んだまま、ポーチからパンと水筒を取り出し、もぐもぐと食べ始めた。
「すげぇ力だったが、速攻で動けなくなるなら、両刃の剣だな……」
「ムグムグ……ですねぇ」
「今後、要調整だね」
「ふぅ……まぁ、なんにしても助かったぜ。リーファの蹴りがほんの少し遅かったら、俺は挽肉になってた所だ」
「挽肉……う、上手くいって良かったです」
潰れたクライブを想像して、リーファは齧っていたパンをそっとポーチに戻した。
「ともかく二人ともお疲れ様ッ」
「おう、ホント、疲れたぜ……んで、お前の分けられた魂ってのは?」
「うん、そこにいるよッ!」
アルマリオスが小さな手でスッと倒れた守護竜の上を指差すと、そこにはリーファが以前見た光を帯びた小さな竜が浮かんでいた。
「そこって、見えねぇぞ」
クライブは眉根を寄せ目を細めている。
どうやら彼には光る竜の姿は見えていないようだ。
"……もしかして、他のダンジョンの?"
「うん、僕は聖剣を守ってたアルマリオス。君は何を守っていたの?」
"僕の守っていたのは聖者の衣……分かりやすく言うなら形を変える鎧だよ"
「おおッ、ベストタイミングですッ!! 変形して攻撃するのに一々鎧を脱ぐの面倒だと思ってたんですよッ!」
「おい、お前らだけで話進めんなッ! 俺にも早く分かる様にしてくれよッ!」
「そうだね、先に融合を済まそう……ねぇ、いい加減、邪神の企みに加担してるの嫌じゃない?」
アルマリオスの問い掛けに光る竜は"そうだね"と頷きを返した。
「だったらさ、この子と融合して魂だけでも自由にならない?」
"魂だけ……でもそんな事したら永遠に肉体を失うかもだよ……?"
「えっ、そうなんですかッ!?」
「君が六つの僕らを解放して魂を一つに戻す事が出来なきゃ、そうなる可能性もあるね」
「おい、リーファ。アルマリオスは何て言ってんだ?」
「えーと、六つに分かれた魂が一つになれないと、永遠に肉体を失うって……」
リーファの言葉を聞いて、いつも軽いこの竜も意外と賭けに出ていたのだなと認識を改めた。
「確かにそのリスクはある。でもこれ以上、勇者が何の罪もない少女を殺すのも見たくないし、勇者自身が魔王に変わる終わりのない悪夢が続くのも飽き飽きでしょ?」
"……確かにね。勇者が来るまで部屋でゴロゴロしてるのもいい加減限界だし、邪神にいい様に利用されるのもいい加減頭に来てた……えーっと、君、名前は?"
「あ、リーファです」
"じゃあ、リーファ、僕と契約して君の中にいる僕と融合させてくれる?"
光る竜の言葉にリーファは静かに頷きを返した。
「はい。契約します」
その言葉と同時に守護竜の死体の上に浮いていた光る竜は、光の粒子となってリーファの体に吸い込まれた。
「ふぃぃぃ……ようやく一体目か……」
目を細め気持ちよさそうに息を吐くアルマリオスの横で、リーファは側頭部に違和感を感じていた。
「かゆッ!? あ、なにこれッ!? 固いッ!?」
「おっ、リーファお前、角の数が増えてるぞ」
「えッ、嘘ですよねッ!?」
リーファはいそいそと腰のポーチから手鏡を取り出し頭を確認する。
「あっ、頭の横にも角がッ!? ちょ、アルマリオスさんッ!! 早く調整して下さいよッ!!」
「はぁ、忙しないなぁ……久しぶりにあった僕自身と記憶のすり合わせをしてたってのに……えーっと……こんな感じかな」
「はわっ、か、かゆッ」
再度、側頭部に痒みを感じ鏡を覗き込むと、頭の横の角は綺麗に消えていた。
「はぁ、よかった…………ともかくこれでアルマリオスさんの力は三分の一が戻った感じですね?」
ホッと胸を撫でおろし、アルマリオスに問い掛ける。
「そうだね。でもまだ勇者に勝つのは難しいね……なるべく早く勇者からは魔剣を取り上げたいんだけど……」
「魔剣……そう言えばさっきリーファが鎧がどうとか言ってたが」
「あ、そうでした。ここのアルマリオスさんが守ってたのは、形を変える鎧だそうです」
「形を変える鎧……探索の時にそんな話をしたな」
「他の僕が何を守っているのかまでは調べられなかったんだけど、まさか話題に出た鎧だったとはね……鎧の呪いを払えばきっと、使える様になるよ」
呪いを払う。鎧にも剣と同じく心を魔に変える呪いが掛かっているのだろうか?
「えーと、ここの僕の記憶によると鎧に掛けられた呪いは、肉体の魔族化だね」
「肉体の魔族化って、着ると人間じゃ無くなっちまうって事か?」
「うん、変形する鎧は小さなゴーレムで出来てるって話したよね?」
「はい、それが繋がったり離れたりする事で形を変えるんですよね?」
「そう。それでその小さなゴーレムが体に入り込んで、君達の体を形作ってる設計図を書き換えるんだ」
体を形作る設計図? アルマリオスの言葉が理解出来ず、リーファとクライブは同時に首を捻る。
「えーっと、生き物は皆、体の中に設計図を持っているんだ。その設計図は君達の両親から半分ずつ集めて作られる。だから生き物は親に似た容姿や能力になるのさ。まぁ、設計図には揺らぎがあって絶対そうなる訳じゃ無いけどね」
「よく分からんが、鎧のゴーレムはそいつを書き換えて人を魔物に変えちまうんだな? ……呪いを払うって当てはあんのか?」
「うん、この近くに不死鳥がいるから、彼に頼めば呪いを浄化できる筈だよ」
「あの、ガーネットさんじゃ駄目なんですか?」
以前、ガーネットは各地の神を頼れとは言っていた。
しかし、不死鳥とか不老不死を求めた人に狙われていそうで、またやさぐれている様な気がする。
「ハハハッ、リーファは心配症だなぁ。不死鳥は自在に炎を操る神の鳥だよ。狙ってくる奴らは全員丸焦げさッ」
「……それって私達も丸焦げにされませんか?」
「よぉ、リーファ。ずいぶんとごねるが、何かあったのか?」
泉の女神との経緯を知らないクライブは、不死鳥に会いたく無さそうなリーファに困惑気味に尋ねる。
「えっと、魔剣の呪いを清めてくれたのは泉の女神様なんですけど、彼女、お家のある泉に色んな物を投げ込まれれて、それでグレちゃってて……」
「……女神ってグレるのか?」
「はい、引き籠って異界の音楽と文化に癒されていたそうです」
「まぁまぁ、二人とも話すのは後でもできるし、今は僕の部屋にある予備の鎧とこの部屋に置いてある鎧を全部回収して、さっさと引き上げるとしようよ」
クライブが予備の鎧と首を傾げたので、リーファは今いる円形の部屋には隠し部屋があり、アルマリオスは普段はそこで生活していて扉が開く時だけこの円形の部屋に移動する事、そして隠し部屋には勇者に渡す為の武具の予備が置かれている事を説明した。
「ボスの生活部屋か……なんか一気に現実に引き戻される話だな」
「ですよね…………鎧、回収しましょうか」
「……そうだな」
ダンジョン探索、死と隣り合わせの冒険とロマン。生活部屋の話はそんな物を吹き飛ばしリーファ達を妙に冷静にさせた。
どちらともなく苦笑いを浮かべ顔を見合わせた二人は、ともかくとして円形の部屋の中央にいつの間にか出現していた宝箱を探る事にした。
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