戦闘開始
「よし、作戦は決まったな……お前らもう言い忘れている事はねぇよな?」
「無いと思います」
「大丈夫……だと思う」
今一つ信用出来ないアルマリオスの言葉に、ため息を吐きつつクライブは腰を上げた。
「リーファ、今回は短期決戦だ。最初から全力で頼む」
「了解です」
クライブに頷きを返したリーファは上半身の鎧と鎧下を脱いでポーチに入れた。
代わりに取り出した背中部分を取り外した黒革の鎧を身に着ける。
防御力は下がるが無いよりはましだろう。
最後に腰に下げていた聖剣の柄に、クライブから手渡されたフック付きのワイヤーを結びつける。
「アルマリオスさん、第二形態と翼を……かゆっ!! これ何とかならないんですかッ!?」
変形時に全身に走るむず痒さにリーファは思わず苦情をぶつけた。
「我慢してよ。肉体が変化してるんだもの、多少の痒みや痛みはあるよ。対策は考えてみるけどさ」
「……なるはやでお願いします」
痒み自体は一瞬で、耐えられない訳では無いが、今後、戦闘中に変身して戦う場合、痒みで隙が生まれる可能性もある。
出来るなら違和感を感じず変身できた方が良い筈だ。
全身に鱗、背中に羽根を生やしたリーファがそんな事を考えて歩くうち、一行は神殿の奥、巨大な扉の前に辿り着いた。
扉の脇には見覚えのある祭壇が設置されている。
「こいつが生贄の祭壇か」
「はい、私はこれと同じ物に手足を固定されて、アルベルトに胸を……」
祭壇を見て目を伏せたリーファの頭にポンと手が乗せられる。
「……胸糞悪い事は思い出さなくていい」
「……はい……アルマリオスさん、ここに血を数滴たらせばいいんですね」
「うん、きっとそれで開く筈」
リーファは聖剣を抜き放ち、鱗に覆われた指に刃を走らせた。
鱗と皮膚が裂かれプックリと鮮血が玉を作る。その血を祭壇へ上り中心へと落とす。
数滴、アルマリオスはそう言っていたが、実際は三滴、血が祭壇で弾けた所でゴゴゴゴッと巨大な扉が開き始めた。
「開いたな……」
開いた扉の向こう、十メートル程の大きさの白い鱗の竜がこちらを睨み牙を剥いている。
アルマリオスの話では肉体に刻まれた呪いによって、扉を潜る者には衝動的に攻撃を加えてしまうらしい。
また、呪いによる衝動で理性が吹き飛ぶ為、戦闘時には動物的な反応しか出来なくなるそうだ。
リーファは祭壇から降りるとクライブと並び、ワイヤーを結んだ聖剣片手に守護竜を仰ぎ見た。
「……行きます。すうううう、閃光よッ!!!!」
「グオオオオオンッ!?」
叫びと共に放たれた息吹が視界を真っ白に染めると同時に、リーファとクライブは部屋に駆け込み守護竜に肉薄する。
リーファはその勢いのまま床を蹴り翼を広げ宙に舞う。
融合によって強化された脚力と翼は一瞬でリーファを竜の頭上に躍らせた。
「えいッ!!」
彼女は翼を羽ばたかせ急降下、右手のロクニオスを竜の鼻面に突き立てた。
聖剣は竜の鱗を貫き、上顎と下顎を縫い留める。
その後リーファはワイヤー片手に竜の長く伸びた顎の周りをグルグルと縦に旋回し、顎をワイヤーで締め上げ、手にしたフックを突き立ったロクニオスの柄にカチリとハメた。
「やりましたッ!!」
「でかしたッ!! これでブレスは吐けねえなッ!! 後はッ」
一方のクライブはブレスで怯んだ竜の首に登攀用のワイヤーを絡ませ、それを支えに竜の体を駆け上っていた。
「フンッ!!」
クライブは登攀用のワイヤーにぶら下がりながら、人でいえば喉仏、一枚だけ逆に生えている鱗目掛けロクニオスを突き入れる。
「ブシュウウウッ!?」
縫い留められた口の端から熱い吐息が吐き出される。
「やったぜ!! 何ッ!?」
「キャッ!?」
口を縫い留められ声にならない叫びを上げた守護竜は、両手でリーファとクライブを掴み、怒りに任せ壁に投げつけた。
「クッ!!」
「グッ!? いった~い!!」
クライブは何とか壁に着地する要領で受け身を取り衝撃を和らげたが、リーファは羽ばたく事も出来ず派手な音を響かせ背中から壁に激突した。
「リーファ大丈夫かッ!?」
「は、はい、何とか……」
リーファにチラリと視線を送り、怪我が無い事を確認したクライブはこちらに怒りの眼差しを向ける竜を見上げた。
守護竜は剣を抜く事も忘れ、爛々と目を輝かせている。その姿に弱った様子は見受けられない。
「クソッ、首の鱗が弱点じゃねぇのかよッ!?」
「あれじゃ浅い!! 倒すにはもう一押し必要だよ!!」
扉の外でアルマリオスが叫び声を上げる。
「チッ、俺じゃ力が足りなかったか……」
クライブの立てた作戦はこうだ。
守護竜の攻撃で一番恐ろしいのは息吹だ。
そこで部屋の外からリーファにブレスで攻撃してもらい視界を奪って、その隙に接近してワイヤーでブレスを封じる。
同時にクライブも接近し弱点である逆鱗を攻撃する。
リーファが最初から逆鱗を攻撃するという案もあったが、失敗した場合、ブレスによって攻撃される危険がある。
その場合、二人とも焼き殺されてしまうだろう。
そういう訳で飛べるリーファにブレスを封じて貰い、クライブが止め役に回ったのだが……。
「いてて……どうしますクライブさん?」
打ち付けた背中を摩りながら、リーファはクライブに駆け寄り眉を寄せた。
「俺が竜を引き付ける。お前は隙を見て喉元の剣を押し込め」
「了解ですッ! クライブさん、気を付けて下さいねッ!」
頷きを返しリーファは守護竜の死角に回り込むべく駆け出す。
「お前もなッ!! さて……」
リーファを見送ったクライブはマジックポーチから火薬玉を取り出した。
火薬玉。錬金術師が作り出した金属片を撒き散らす手投げ爆弾だ。
ただ、その爆発力は弱く、全身甲冑を着こめば人でさえ耐えれる程度の威力しかない。
当然竜には通じないだろうが、それでも目を狙えば注意は引けるだろう。
「オラよッ!!」
紐を引き抜き竜に向かって投げつけると、ドンッという爆発音と共に火薬玉は痛みで暴れる竜の目の前で爆ぜた。
その爆発は竜の右目を焼き、怒りの矛先を投擲した黒髪の盗賊へと向けさせる。
守護竜は呪いによって湧き上がる攻撃衝動のまま、爪と尾を振りクライブを執拗に攻撃した。
「ほッ、ふっ、よっ」
当たれば即死な攻撃をクライブは短く息を吐きながらギリギリで躱していく。
一方でクライブに気を取られている竜の背後に回ったリーファは、アルマリオスに向けて囁く。
「アルマリオスさん、足だけ完全に竜に出来ますか?」
"第四形態だね……いけると思うけど、脛当とブーツは外しといた方がいいね"
「了解です」
リーファ達がそんなやり取りをしている間にも、竜は歩を進めながら攻撃を続けやがてクライブを壁際に追い詰めた。
「ブシュウウウッ!!」
呪いによる攻撃衝動と怒りによって、目の前の獲物しか見えなくなっていた守護竜は勝利を確信し、クライブに向けて大きく右手を振り上げる。
「クッ!!」
「させませんッ!!」
絶体絶命のクライブに向けて小柄な人影が猛烈な勢いで迫った。
「リーファ何をッ!?」
人影は思わず声を上げたクライブの手前で跳躍、壁を蹴り守護竜に向かって飛ぶ。
「魔竜疾風脚ッ!!!!」
小柄な人影、足を完全に竜化させたリーファは、叫びと共に竜の逆鱗に刺さった聖剣の柄頭に思い切り蹴りを叩き込んだ。
完全に竜化した脚の力は凄まじく聖剣が逆鱗を貫いただけでは収まらず、その勢いのまま竜の喉を抉り大穴を開けた。
「ブッ、ブッ、ブッ……ブシュウウウッ!!!!」
喉に風穴を開けられた守護竜はビクリと体を震わせると、ズズーンと轟音を響かせてゆっくりと仰向けに倒れ、床を血で染めていく。
「ドラゴンを一撃で……」
「ふぁッ!? いった~いッ!!」
茫然とその様子を眺めていたクライブを、着地に失敗し尻もちを突いたリーファの声と、カラーンと響いた聖剣が床に落ちる音が我に帰らせた。
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