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肉体の悪魔

 バッとマントを開けた吸血鬼を見てリーファ達は思わず声を上げる。


「なっ!?」

「えっ!?」


 クライブは困惑しリーファは両手で口を覆った。

 その吸血鬼はマントの下には何も身に着けてはいなかったのだ。


「何で服着てねぇんだよッ!?」

「服? 服など着たら我のこの完璧な肉体が損なわれるだろうがッ!!」


挿絵(By みてみん)


 そう叫びポーズをとった吸血鬼の肉体は、確かに彫刻家が作る彫像の様に逞しく均整が取れており美しかった。


「クッ……リーファ、格好はともかく吸血鬼は血を吸って経験と記憶を奪う。絶対に血を吸われるなよッ」


 クライブは過去の経験からか吸血鬼の変態チックな格好よりも、危険性に注目する事にした様だ。

 確かに怪物に命を狙われているのに、格好を気にしている場合では無いのだろうが……。


「そ、そうなんですね……」

「おい、目ぇ逸らしてんじゃねぇよ!! こいつはイカレ野郎だが、俺のパーティは吸血鬼にやられたんだぜッ!! 油断していい相手じゃねぇッ!!」


 いや、それは分かってるんですけど……直視出来ないっていうか……。


「クックックッ……どうやらそっちの娘は我に怯えているようだなぁ」

「お、怯え……」


 怯えてないですッ!! 恥ずかしがってるだけですッ!! ていうか、ちゃんと服を着て下さいッ!!


 そう叫びたくなるのをリーファはグッと堪えた。

 自分が吸血鬼のアレを注視してた事を、なんとなくだがクライブ達には知られたくない。


 そんな感じで何だかモジモジしながら、視線を彷徨わせるリーファにクライブは、こいつは力はあっても駆け出しだし、変質者に怯えるのも無理ねぇかと気持ちを切り替えた。


「……仕方ねぇこの変態は俺が仕留めるッ!!」


 どうにも裸マントの吸血鬼を直視出来ないリーファに代わり、クライブが聖剣を振りかぶり吸血鬼に切りかかる。


「オラッ!!」

「おっと、その剣は厄介そうだ」


 咄嗟にその身を霧に変え、吸血鬼は虚空を漂いクライブを翻弄する。


「クソ、逃げんなッ!!」


 クライブは懸命に追いかけ剣を振るうが、霧はその斬撃を無効化し漂いつづける。


『ククク、お前はあの娘が我の獲物となるのを黙って見ていろ』

「グッ!? これはッ……」


 拡散した霧は無数のコウモリとなって高周波の音の暴力をクライブに浴びせた。

 蝙蝠から放たれた聞こえない音の波はクライブの三半規管を揺さぶり、強制的に眩暈を引き起こす。

 思わず膝を突いたクライブを確認した無数のコウモリは、リーファの頭上に飛び、人の姿になって襲い掛かった。


「うぅ……リーファ……逃げろ……」

「フハハハッ、久しく味わっていない女人の血、堪能させてもらおうッ!!」


 狂喜の叫びを上げリーファに迫る吸血鬼。

 その吸血鬼の股間でぶらぶらと揺れるアレを見たリーファは、思わず叫び声を上げる。


「ヤダッ!!!! こッ、こっち来ないで下さーいッ!!!!」

「フゲッ!?」


 その切実な思いと叫びは閃光の息吹(ブレス)となって吸血鬼の体を包み込み、死者の街を真っ白に染め上げた。


 リーファの強い思いの乗ったブレスは吸血鬼を一瞬で炭化させた。

 ドサリと地面に落ちた吸血鬼は全身からシュウシュウと白い煙を噴き出している。


「うぅ……まさか……そんな攻撃を……持っていたとはな……この鋼の肉体が無ければ……危ない所だったぞ」


 吸血鬼の体は黒く焼け焦げ、ブレスを浴びた前面は骨が所々露出していた。

 そんな状態にも関わらず吸血鬼は平然と起き上がった。

 そして炭に変わった表皮をボロボロと落としながら、マントを失い完全に全裸となった吸血鬼は、体を再生しつつダブルバイセップスのポーズを決めリーファに歩み寄る。


「さて、お前に……我の肉体の持つ美の全てを……余すところなく……その目に焼き付けた後……その血を味わうとしようか……」


 変質者に襲われる恐怖と再生する筋組織のスプラッターなおぞましさ、さらに異性の局部を目の当たりにする恥ずかしさと、パンプアップされた筋肉の迫力にリーファの心は混乱し、思わず尻もちを突いて後退った。


「いや……いやぁ……」

「フハハッ!! 我の鍛え抜かれた大胸筋に包まれて果てるがいいッ!!」


 吸血鬼は怯えた様子のリーファに鼻息も荒くにじり寄る。


「いい加減にしろ、この変態がッ!!」


 そんな声と共に吸血鬼ご自慢の大胸筋の中央から、輝く刃が突然突き出される。


「グホッ!? ググッ……もう回復……するとは……ブフッ……」


 盗賊の真骨頂であるバックスタブにより、クライブは吸血鬼の胸を背後から貫いていた。

 女神の血で呪いを払われ清められた刀身は、呪いにより生まれた血を吸う悪魔の肉体からその呪いを消し去っていく。


「ひ……日々の……プロテイン……摂取と……トレーニング……により……作り上げられた……我の……我の完璧な……肉体が……」


 吸血鬼の体は突き立てられた剣を中心に崩壊していき、僅かな灰を残し消滅した。


「大丈夫かリーファ?」


 剣を血振りして鞘に収めたクライブが、リーファに駆け寄りながら問い掛けた。


「は、はい……」

「いやー、危なかったね」


 クライブに続きアルマリオスもパタパタと羽根を羽ばたかせリーファの側に飛んでくる。


「しかし、さっきのはなんなんだ? 口から閃光を吐いた様に見えたが……?」


 クライブが問いかけながら差し出した手を握り返しながら、リーファは口を開く。


「あれは息吹(ブレス)です」

「ブレス……そんな事も出来るのか……」

「ブレスの強さは込める思いによって変わる……あの威力から見るに、リーファはよっぽどあの吸血鬼が嫌だったんだね」

「そうか、そんなに怖かったのか」


 クライブはリーファに歩み寄り、ポンポンと頭を撫でてやった。


「いや、怖かったというか、なんというか……気持ちが複雑過ぎて言葉に出来ません」

「しかしさっきは一瞬、肝を冷やしたぜ。言っとけよな、あんな事が出来るんならよ」

「……はい、すみません」

「まぁ、血を吸われなくてよかったよ。それじゃあ先に進もうか?」


 相変わらず軽いアルマリオスの言葉に促され、一行は広場を後にしたのだった。



■◇■◇■◇■



 他の迷宮同様、大墳墓も奥に進むごとに敵は強さを増していった。

 敵の強さに比例して落とすアイテムもレアになっていく。


「へへ、アンデッドは倒しても実入りが少ないが、このクラスになると流石に美味しいな」

「ですね。手に入れた物を売れば結構な収入になりそうです!」


 クライブとリーファはホクホク顔でリッチが落としたネックレスや指輪をマジックポーチに放り込んでいく。

 恐らく宝飾品には魔法が掛かっている筈、鑑定して有用なら売らずに装備するのも良さそうだ。

 道中見つけた宝箱もクライブが開けていたので、未鑑定だが武器や防具も幾つか手に入れていた。

 これらも今後の冒険の助けになるだろう。


「私、こんなに収穫があるの冒険者になって初めてです!」

「駆け出しの頃は生きて帰って来るだけで一杯一杯だもんな」

「ですよねー!」


 そんなこんなで中ボスだろう吸血鬼を倒したリーファとクライブ、そしてアルマリオスの二人と一匹は更に探索を進め、程なく目的地である魔王に分割された守護竜アルマリオスのいる最下層へと辿り着いていた。


「最下層は基本、一本道だから迷う事はない筈だよ。罠も無いし」

「ここは一体なんなんだよ?」


 クライブはそう言うと、幅百メートルはあるだろう巨大な石造りの坑道を見上げた。

 壁には神話だろうか壁画が描かれ、天井の魔力灯がその壁画を照らしている。


「元はここを作った魔法使い達が崇拝してた神……というか星を崇める神殿だったみたい」

「神殿ねぇ……」

「うん、それを僕を捕まえた魔王が改造したみたいだ」

「あの、アルマリオスさんのそういう知識はどこから……?」

「ああ、大体が本だよ。ほら僕、なんせ暇だったから」


 リーファの脳裏に快適な部屋でソファーに寝そべりながら本を読む、アルマリオスの姿が浮かぶ。

 そういえばこの先にいるアルマリオスも同じような部屋を作っているのだろうか。


「多分、作ってるんじゃないかな? ほら、元が一緒だし」

「んで、その分割された奴と会えば、融合出来るんだな?」

「うん、リーファの血で扉を開いて、それで守護竜化してる僕を倒せば」

「え゛っ、アルマリオスさんを倒さないと駄目なんですかッ!?」

「守護竜の呪いは肉体に刻まれてるからねぇ……肉体から魂が離れる事で僕はリーファの中に逃げ込む事が出来たんだ」

「はぁ……二人で竜狩りかよ……おい、アルマリオス。それにリーファも」


 話を聞いていたクライブがため息を吐き、床に座り込み二人に声を掛ける。

 それに反応しリーファ達が視線を向けると、クライブは「座れ」と言って床を指し示した。


「なんです休憩ですか?」

「急がないと勇者と鉢合わせしちゃうかもだよ」

「いいから座れ」

「……分かりました」

「いったいなんだろね」


 リーファはガシャッとプレートメイルを鳴らして座り、アルマリオスもパタパタとその横に飛び、床に尻をつける。


「あー、これから竜、つまりドラゴンと戦う訳だが、その前にリーファに何が出来るのか確認しときたい」

「出来る事ですか……私にも全部は分かってなくて……変身はクライブさんも知ってますよね」

「ああ、他は息吹(ブレス)に魔法。他には何かあるか?」

「そうだなぁ……体の一部を完全に竜化させて、人サイズのままより肉体を強化するとか、今、構想してるけど」

「グッ、そんな事考えてたんですか」

「うん、第四形態(フォースフォーム)だね。完成すれば魔法やブレスの力を拳に乗せて放ったりできる筈だよ」

「うぅ……なんというか、強くなるのはいいんですけど、段々と人から離れていく様な気がします」


 果たしてそれでいいのか? そんな事を思うリーファを他所に、クライブはアルマリオスに彼女に出来る事の詳細と、守護竜アルマリオスの特徴や弱点を尋ね戦略を練って行った。

お読み頂きありがとうございます。

面白かったらでいいので、ブクマ、評価等いただけると嬉しいです。

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[一言] ぷ、ぷろていぃぃぃーん!! 日々の努力(笑)
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