魔法使い達の墓所
空の青と大地の黄色、二色に塗り分けられた世界を、白い鱗を持った竜が黒髪の男を乗せ飛んでいる。
竜の名はリーファ、竜王アルマリオスの魂と融合し魔竜少女となった女の子だ。
背に乗っている男は事情を全て話し、改めて協力を取り付けた盗賊クライブ。
そしてそのクライブの前には手のひらサイズの白竜、アルマリオスの分体が座っていた。
クライブに事情を話した後、今後の予定について話し合った彼らはともかく最速で各地を巡り、アルマリオスの力を取り戻しつつ、彼が守る武具を回収しようと決めた。
アルマリオスは迷宮に閉じ込められていた間、他の魂の居場所を探り何とか一つに戻ろうとしていた。
その試みは成功する事は無かったが、お陰でどのダンジョンに自分の魂が封じられているのかと、最深部への道のりは把握していた。
アルマリオスの情報を元に出た次なる目的地は、ユーゲント砂漠の大墳墓。
その道行きの為に魂の融合度合いを高め、リーファに第三形態である竜形態になって貰ったのだ。
「まさかただの盗賊の俺が竜に乗る日が来るとはな」
「いくら急ぐ為とはいえ、完全に竜になっちゃうなんて……」
「まぁまぁ、移動の時だけだから我慢してよ。飛べば確実に勇者に先行出来る筈だからさ」
「先行するのはいいとして、どうやって最深部の扉を開くんですか? ……まさかまた私が生贄にッ!?」
胸にナイフを突き立てられた事を思い出したリーファの体がビクリと震える。
「ああ、大丈夫。今のリーファなら少しの血で開けられる筈だから」
「今のリーファってどういう事だよ?」
「扉を開けるのに必要なのは乙女の血に含まれる魔素なんだ。以前は人だったから血が大量に必要だったけど、僕と融合した今なら血中の魔素の濃度も上がっているから……」
「へぇ魔素の濃度ねぇ……」
クライブは右手をワキワキさせながら暫く眺めていたが、盗賊の俺には魔法の事はよく分からんと言って肩を竦めた。
そんな話をしている内に一行の眼に巨石を積んで作られた半円形の建造物が映る。
ユーゲント砂漠の大墳墓。
大昔、砂漠がまだ緑に溢れていた頃、この地域を支配していた古代王国の魔法使い達が作った地下都市群だ。
彼らは死後、魂は天に還るのではなく、大地に、星に還るのだと考えた。
そこで地の底で暮らす時、不便が無いよう地上と同じ都市を巨大な地下空間に作り上げ、自らの遺体をそこに埋葬させた。
そんな地下都市も現在では魔物の巣窟と化しており、冒険と富を求める冒険者以外が立ち入る事はほぼ無い場所だ。
「懐かしいぜ。ここに来るのは駆け出しの頃、第一階層をおっかなびっくり探索して以来だ」
「クライブさんはこの辺のご出身なんですか?」
「まあな」
「じゃあ、大墳墓の探索はお手の物ですね」
「……いや、大墳墓は魔物のアンデッドが多くてな。あんまり金にならねぇから、すぐに引き上げたんだ。だから詳しい事は分からねぇ」
「そうですか……」
少し残念そうに呟いて、リーファは旋回しながら墳墓の入り口近くへと降り立った。
クライブとアルマリオスを背中から下ろしマジックポーチを受け取ると、リーファは服を取り出して第一形態、人型に戻る様アルマリオスに頼んだ。
「お二人は向こう向いてて下さい」
「分かってるよぉ……しかし竜になれるのは便利だが、一々服や鎧を脱がねぇといけないのが面倒だな」
「大昔の魔法の装備の中には、大きさや形状を自由に変えられる物もあったけど……」
「そんなのあるんですか?」
服を着て鎧を装備しつつ、リーファはアルマリオスに尋ねた。
「うん、ものすごく小さなゴーレムの集合体で、それぞれが分解結合する事で形を変えられるんだ」
「へぇ、それがあればわざわざ着替えせずに済みますし、変身しながら戦えそうですねぇ」
ちなみに鎧は聖剣を売ったお金があったので、盗賊用の物とは別に戦士用の物も購入していた。
今回チョイスしたのはその戦士用のプレートメイルだ。
話ながら着替え終えたリーファは「もういいですよ」と二人に声を掛ける。
「……随分重装備だな」
「角が邪魔で兜がかぶれないので、せめて首を守れる物にしました」
「アンデッドは首を狙う相手も多いから、いいチョイスかもね」
「重そうだが動けるのか、それ?」
「はい、見た目よりも大分軽いので」
リーファがそう言うならいいのか。
そう考え苦笑を浮かべたクライブは遺跡を振り返る。
「んじゃ早速潜るか」
「ですね」
「一応、最深部への道のりは覚えてるけど、魔導鏡で見たのは大分前だから崩れて変わってるかもしれない。気を付けていこう」
「了解です」
「先頭は俺が歩く。アルマリオスは案内を、リーファは敵が出たら対応してくれ」
「オッケー」
「はいッ!」
そんなこんなで二人と一匹は円形の墳墓の斜面、大昔の冒険者達が開けただろう穴から地下都市へと侵入した。
■◇■◇■◇■
大墳墓というだけあって、クライブの言葉通り魔物はアンデッド系が多かった。
もともと埋葬された者以外にも、盗掘者や冒険者の死体も混じっており、完全に白骨化したスケルトンから、腐肉の付いたゾンビまで様々だ。
中にはマミーの様な包帯の巻かれた死体も存在したが、種類に関わりなく二人の手にした聖剣は魔物を切り裂いていく。
「確かにスゲェ威力だ。鎧を着こんだゾンビでも紙みたいに切れるぜ」
「ホントですねぇ……ただ、臭いがキツイのが辛いです」
「へへ、確かにな」
アルマリオスの力で身体能力の増したリーファ。
元々、Bランクの実力を持つクライブ。
二人は手にした聖剣ロクニオスの力もあって、順調に探索を続けていた。
「えーっと……ここを右に行けばさらに下に降りられる筈」
「おっと、そこの床、罠があるぜ」
石造りの街並は延々と続いており、死後の生活の為か魔法の明かりが街灯として街を照らしていた。
その魔力の源は何なのだろう。リーファはクライブが見つける罠を避けて死者の街を歩きながら、不意にそんな事を考えた。
「魔力の源は古代の魔法使いが作った魔導炉だよ。地熱を魔力に変換して街全体に魔力を送ってるんだ」
「だからナチュラルに心を読むのは止めて下さい」
「不思議がってたから……」
「地熱を魔力にか……死人しかいねぇのにご苦労なこった」
「……それだけ死が不安だったんだろうね」
死か……私も死にかけたけど、死んだらどうなるんだろう。
アルマリオスさんは魂を引き止めたとか言ってたけど、引き止められなかった魂は何処に還るのだろうか。
「それは永遠の謎だね。魂の存在は魔法によって確認されているけど、その行く先までは僕も追えていないんだ」
「だから……はぁ……もういいです……」
「魂か……なぁ、アルマリオス、魂が存在するなら行先さえ分かれば死んだ奴と話せんのか?」
「どうだろう……ゴーストみたいに地上を彷徨っている魂なら、自我を保っていれば会話出来るとは思うけど……」
「そうか……」
「誰か話したい人がいるんですか?」
小首をかしげたリーファにクライブは「まあな」と答え、悲し気な笑みを浮かべた。
その顔を見てリーファは質問した事を後悔した。
クライブのパーティは半壊したと聞いている。きっと亡くなった仲間と話したいのだろう。
力は強くなっても自分はやっぱり駆け出しなんだな。改めてその事を認識出来た。
そんな事を考えつつ地下都市を進むうち、一行は広場の様な場所へ辿り着いた。
「二人とも気を付けて、ここには番人がいる筈だから」
「番人って中ボスかよッ!?」
「うん、僕はやられた冒険者の死体しか見てないから多分だけど……」
アルマリオスが魔導鏡で見た情報をクライブに伝えていると、周囲に冷たい空気が漂ってきた。
「ここは死者の住まう安楽の街、生者の居場所は何処にもない」
ユラリと広場の奥から現れたのは、黒いマントを羽織った青白い肌の美青年だった。
その瞳は血の様に赤く、喋る口元には鋭い牙が覗いている。
「吸血鬼……中級だけど気を付けて」
「クッ、よりによって吸血鬼かよッ!!」
過去を思い出し顔を歪めるクライブに吸血鬼は笑みを浮かべながら、マントをバッと開けた。
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