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裏どり

「新人冒険者で戦士のリーファ・ブラッドさんですか?」


 首を傾げたギルドの受付に「ああ」とクライブは頷きを返し微笑みを浮かべた。

 その笑みで対応した女性は頬を染める。

 クライブは自分の容姿を自覚しており、その活用法も知っていた。

 特に街中での仕事では大いに活用させて貰っていた。


「お待ちください。リストを確認してまいります」


 受付の女性はそう言うとカウンターを離れ、書類保管庫だろう部屋へと姿を消した。

 そして待つ事暫し、抱えた一冊のファイルをカウンターへ置く。


「お尋ねのリーファ・ブラッドさんですが……残念ながら既に死亡が報告されています」

「死亡……よかったらどんな状況で亡くなったか教えてもらえるかい? ……実はリーファとは何度か迷宮ですれ違った事があってな。危なっかしいなって少し気になってたんだ……」


 そう言うとクライブは悲し気に瞳を伏せる。

 そんなクライブの様子に、受付女性も気の毒そうに眉を寄せた。


「……報告者はSランク冒険者パーティ、聖王冠(ホーリークラウン)の面々です。彼らが見込み有と声を掛けた新人冒険者リーファ・ブラッドさんは、ダンジョン探索へ出かけメンバーの制止を押し切り先行。魔物に攫われ最下層の祭壇で遺体として発見されたそうです。恐らくはその祭壇で行われた生贄の儀式によって、最深部の扉が開いたのではないかと、聖王冠は推測しています……彼らは犠牲になったリーファさんの為にも、迷宮最深部で手に入れた聖剣ロクニオスを使い魔王打倒を改めて目指すそうですよ」


 リーファ・ブラッドは確かに存在していて、聖王冠と共に迷宮へ潜ったようだ。

 その後、生贄として祭壇に捧げられた事もリーファの話と符合する。

 クライブは冒険者としては少し抜けたリーファの反応から、彼女の話に嘘は無いとは思っていたが、ギルドへの聖王冠の報告を聞いて彼らが黒だと確信めいた物を感じていた。


「そうか……もっと話しておけばよかったぜ……そうだ、今、聖王冠はどうしてる? 直接話を聞きたいんだが?」

「彼らなら一番街の宿、エルフの泉亭で体を休めている筈です。ただ会ってくれるかどうかは……」


 相手はSクラスの冒険者だ。Bランクの自分といえど簡単には会えないだろう。

 まぁ、正面から会うつもりは既にないが……。


「だよな……色々教えてくれてありがとな」

「いえ、仕事ですから……あのクライブさん、あまり気落ちなさらず」

「……ああ、ありがとよ……それじゃあ」


 カウンターから離れたクライブは、次にギルドが運営する酒場へと向かった。

 酒場といっても飲む事がメインでは無く、情報収集と冒険者のパーティ結成が主な目的の冒険者達の社交場だ。


 クライブはその酒場の隅、静かにグラスを傾けていた男の前に腰を下ろした。

 チラリを視線を上げ、クライブを見た男の前に彼は静かに銀貨を置く。


「何が知りたい?」

聖王冠(ホーリークラウン)の評判について」

「そんな事は俺に聞かなくても知っているだろう?」

「あんたしか知らない情報が欲しい」

「……聖王冠について、あまり多く語れる事は無い。精々が奴らはリーダーのアルベルトの見る夢を基準に、動いているって噂だけだ」

「夢を?」


 首を傾げたクライブに男は頷きを返す。


「何でも、アルベルトの見る夢は予知夢らしくてな。奴らはその夢に従って急成長を遂げたそうだ」


 リーファが言ってた邪神の見せる夢か……その夢に従い成功してきたなら、駆け出し冒険者を騙し殺すなんて夢も無視出来ねぇかもな……。


「……ありがとよ」

「聖王冠と何かあったのか?」

「いや、なにも」


 これからあるけどな。心の中でそう呟いてクライブは席を立ち、ギルドの酒場を後にした。



■◇■◇■◇■



「あっ、クライブさん、お帰りなさい」


 待ち合わせの酒場に戻ったクライブを見て立ち上がったリーファの姿に、クライブは額に手を当て首を振った。


「なんだその格好は?」

「え、変ですか? 動きやすい物の中で一番いい装備を買ったんですけど……」


 そう話すリーファが着ていたのは黒装束と呼ばれる、いわゆる忍び衣だった。

 確かに動きやすいだろうが、戦士が着る物ではないだろう。

 それに街中で黒づくめで角の生えた覆面姿は目立ち過ぎる。


「はぁ、目立ち過ぎだ。せめて忍者装備じゃなくて盗賊装備にしてくれ」

「えー、せっかく買ったのにぃ」

「もう一度防具屋に行くぞ。そいつは返品して別のにするんだ。じゃないとやりづらくて仕方ねぇ」

「やりづらい……あのそれじゃあ、仕事は手伝って貰えるんですか?」

「ああ、お前の推測通りアルベルトはギルドに報告をしてた。その報告じゃリーファ・ブラッドは魔物によって生贄にされてたそうだ」

「魔物……私を刺したのはアルベルトなのに……」


 覆面から覗く眉がギュッと寄せられる。


「お前の話とギルドの報告、仕入れた情報を合わせてみるに、アルベルト達が黒ってのは俺も感じた」

「信じてくれるんですか?」

「あまりにも聖王冠に都合がいいからな。たまたま連れてた新人が魔物に攫われ生贄にされて、それで扉が開いて聖剣が手に入る……魔物がわざわざボス部屋の扉を開ける為に、祭壇まで人間を連れてく事もおかしいしな。お前の話の方が整合性は取れてる」

「えへへ、私の話に嘘はないですから」


 嬉しそうに笑うリーファを見て、脇の甘いこいつを放っておくのはまずそうだと苦笑を浮かべた。

お読み頂きありがとうございます。

面白かったらでいいので、ブクマ、評価等いただけると嬉しいです。

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