信じてもらうためには
組まないか? そう告げた盗賊、クライブに導かれリーファは薄暗い酒場で彼とテーブル越しに向き合っていた。
「さて、それじゃあ詳しい話を聞く前に改めて自己紹介しとこうか。俺はクライブ・ルフト、フリーの盗賊だ」
そう言ってクライブはギルド証を示して見せた。
クライブ・ルフト、種族人族、ランクはB、年齢は二十二歳で登録日は七年前。
一般的にランクBといえば冒険者でも一人前を通り越し、ベテランに足を踏み入れたと言っていい。
また七年間、生き抜いたという事実だけでも、彼が腕利きの冒険者である事が窺えた。
「私はリーファルド・アルマリオス。駆け出しの戦士です」
リーファも新しく作ったギルド証を提示してみせる。
「あ? 登録日は今日じゃねぇか……ド新人なのにゴロツキを投げ飛ばすたぁ、どっかで修行でもしてたのか?」
「修行というか、力を貰ったといいますか……えっと……」
歯切れの悪いリーファにクライブは不満そうに口をへの字にしている。
どこまで話していいものか……。
"取り敢えず、勇者が手に入れた剣が魔剣だという事を話そう。僕達はそれをコッソリ聖剣に変えたいってとこまで"
……分かりました。
「……クライブさんは勇者アルベルトをご存知ですか?」
「知ってるに決まってる。冒険者やってて、アルベルトを知らなきゃモグリだぜ」
「じゃあ、アルベルトが最近聖剣を手に入れた事は?」
「聖剣を? そいつは知らねぇなぁ……」
クライブとリーファは酒場の隅で顔を突き合わせて囁きあう。
「実はその聖剣、邪神が作った使えば使うほど心に魔を宿す、呪われた魔剣なんです」
「邪神に魔剣ねぇ……」
クライブはいまいち信用していないのか苦笑を浮かべ肩を竦める。
リーファはそんなクライブの態度に苛立ちを覚えた。
「信じていませんね」
「まあな。アルベルトはこの一年、魔族が引き起こす問題を解決して来た立役者だ。人間側の英雄である事は俺だって認めてる」
「……ですよね」
「それに仮に魔剣だとして、なんであんたがその事を知ってる?」
リーファは胸に手を置き、鎧に出来た傷にそっと触れた。
自分が殺されそうになったのも、疑う事を知らず無知だったためだ。
クライブは一応自分を助けてくれようとした様だし、経験も豊富そうだ。
仲間になってくれれば、経験不足な自分には願っても無い事だろう。
一瞬、あのゴロツキも、この状況に持ち込む為のクライブの策ではとの考えも浮かんだが、疑っていてはキリが無いとその考えを振り払う。
ともかく信用を得る為には少なからず真実を話さねば。
「……私がその魔剣の入手に関わっていたからです」
「あんたが?」
「はい、私の本当の名前はリーファ・ブラッド。登録して一ヶ月の戦士でした」
「リーファ・ブラッド? リーファルドじゃねぇのか?」
「はい、リーファルドって名前はギルド証が無くなり、身分の保証が出来なくなったので、新たに作った偽名です……私、リーファ・ブラッドはアルベルトに声を掛けられ、一緒にアグニスの大迷宮に潜って、邪神が行った夢のお告げに従ったアルベルトによって、最下層の扉を開く為の生贄として殺されかけました」
リーファの告白にクライブは眉を寄せ黙り込んだ。
「その後、魔王に捕らえられ魔剣を守護していた竜、アルマリオスさんと融合する事で命を取り留めたんです」
「……勇者が邪神に操られてひよっこを生贄にするとか、竜と融合したとかにわかには信じられねぇな」
「……ですよねぇ。私もそんな話をされたらきっと笑っちゃいます」
自嘲気味に笑ったリーファに、クライブは優しい笑みを浮かべた。
「だよなぁ……だが、話してて思ったが、あんたは嘘を吐くタイプにゃあ見えねぇ」
「じゃあ……」
顔を上げたリーファにクライブは右手を突き出した。
「だけどだ。自分の直感だけであんたの話を鵜呑みにするほど、俺も初心じゃねぇ……だからリーファ、何か証拠を見せてくれ。魔剣かどうかの証明とか……は難しそうだから……そうだな……竜と融合したってんなら、なにか特殊な事も出来るんじゃねぇのか?」
特殊な事? そう言われても……。
"ここで変身して見せたらどう? 竜人間は竜の特徴を供えた人種ってだけで、君みたいに変身は出来ないからさ"
えッ、変身ですかぁ? ……クライブさん、引きませんかねぇ?
"彼の信頼と協力を得たいんでしょ?"
はぁ、分かりました。なるべくリザードマンは無しでお願いします。
"どうせやるなら、思いっきりやった方がいいと思うけど……了解だ。じゃあいくよ"
「えっと、今から変身して……かゆっ!! アルマリオスさん、タイミングッ!!」
言い切る前にリーファの全身にかゆみが走り、顔も含めた体の殆どが白い鱗で覆われる。
一瞬で姿を変えたリーファを見て、クライブは驚き目を見開いた。
「……それが竜と融合して得た力か?」
「はい、私にはよく分からないんですけど、魂の融合の具合によって竜に近くなったり人に寄せたり出来るみたいです。いつもは私の精神衛生上の問題でなるべく人に寄せて貰ってるんですけど……」
"僕的にはもっと融合の度合いを深めて貰った方が、力も強くなっていいと思うんだけどね。翼を生やして空も飛べるし……いや、翼だけなら調整すれば……"
「止めて下さい」
「止めてって、いきなりなんだよ?」
「あ。アルマリオスさんが翼を生やすなんて言うもので……」
「あん? もしかしてあんた、その竜と話してんのか?」
「ええ、頭の中に声が響くんですよ……」
消沈した様子でとほほとため息を吐くリーファを見て、クライブはどうすべきか考える。
彼女にも言った様にリーファは嘘を吐くタイプには見えない。
どちらかというと人を信じて騙されるお人好しだろう。
実際、勇者にも騙された様だし……。それに目の前で皮膚から鱗が生えるのを見た。
明らかに普通の竜人間で無い事は確かだ。
そんな事を考えていたクライブにリーファは問う。
「信じられないですよね。でもホントに私はアルベルトに騙されて殺されそうになって……」
そう言ってリーファが触れた鎧の胸には確かに刃物で出来た傷が刻まれていた。
「リーファだったな」
「はい、今はリーファルド・アルマリオスです」
「前の名前はリーファ・ブラッド」
「そうです」
「……よし、取り敢えず俺はギルドに行ってあんたの話の裏を取って来る。それで聞いた話に間違いが無ければ改めて組むとしようぜ」
「あっ、多分アルベルト達はギルドに嘘の報告をしてますよ」
自分のギルド証を持ち去ったのは恐らくアルベルト達だろう。
そう考えていたリーファは、そこから推測されるアルベルト達の行動を考えていた。
あんな風に騙す形で自分を迷宮に導いたのだ。絶対に真実は語らないだろう。
きっと魔物に殺されたとか何とか、適当な話をでっち上げている筈だ。
そんなリーファの考えを悟ったのか、クライブは優し気な笑みを浮かべた。
「そんな事は分かってるさ。冒険者への依頼は真っ当な物ばかりじゃない。裏の裏を読むぐらいじゃ無いとランクの高い依頼はこなせねぇ」
「そうなんですね……」
さすがBランクの冒険者だ……そんな冒険者が自分に声を掛けるとは……能力を認められた事は嬉しかったが、あの力はアルマリオスからの借り物である事を考えるとリーファは少し複雑な気がした。
"僕は君の肉体に入り込まないと自由に動けなかったからね。ギブアンドテイク、気にする事ないよ"
それでいいのかな……まぁ、いいか。
アルマリオスの言葉で気持ちが軽くなり、顔を上げたリーファにクライブは笑みを返す。
「んじゃ、一時間ぐらいで戻るからここで時間、潰しててくれ」
「あっ、それなら私、装備を新調して来ます」
「了解だ」
クライブはそれじゃ、一時間後とリーファ達と別れ冒険者ギルドへと足を向けた。
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