狙いは私ッ!?
魔道具屋で魔法のポーチを購入したリーファは早速、背負っていた雑納や財布をポーチに入れ、腰のベルトに装着した。
想像していた以上にポーチは便利で、雑納に入れていた道具を自動的に区分けし蓋部分にリスト表示してくれた。
その浮かび上がったリストの文字を素早く二度押しすれば品物を取り出せるようだ。
道沿いのベンチに座り取説を読みながら、その事を確認していたリーファの前に三人の男が近寄って来た。
「よぉ、竜人間の姉ちゃん。随分と羽振りが良さそうじゃあねぇか?」
「俺達にも少し恵んでくれよ」
「へへ、そんな高価なマジックバッグを即金で買えるんだ。金は余ってるんだろう?」
「……え、あの……」
突然の事にリーファはどう対応すべきか戸惑いを見せた。
Eランク冒険者として赤貧生活を送っていた彼女に、こんな風に声を掛ける者は当然いなかったのだ。
そんな訳で恐らく冒険者だろう戦士、盗賊、魔法使いのガラの悪そうな三人の男達に、リーファは困り顔をするしか出来なかった。
「おう、なんか言えよッ」
「みっともない真似はよせよ、おっさん」
凄んだ戦士に、軽装鎧を来た黒髪の青年が皮肉げな笑みを浮かべ声を掛ける。
「ああッ!? 関係無い奴は引っ込んでろッ!! これは俺達とこの姉ちゃんとの話し合いだッ!!」
戦士はそう言ってベンチに座っていたリーファの左腕を掴んだ。
「さっ、触んないで下さいッ!!」
「いてて!! てめぇ何しやがるッ!? ぬぉ!?」
掴まれた瞬間、不快感を感じたリーファは戦士の手首を握り締め上げ、腕から外すと思い切り壁に向かって投げつけた。
「グガッ!!」
投げられた戦士は真っすぐに飛び壁に叩き付けられ、大の字のまま壁からずり落ちる。
「「「え?」」」
盗賊、魔法使い、そして割って入った青年も、小柄なリーファがみせた怪力に思わず目を点にしていた。
「あ、ご、ごめんなさいっ!!」
やり過ぎたと顔色を変えたリーファは謝罪を口にして走り去った。
そんなリーファを盗賊達より一足先に我に帰った青年が追いかける。
「ちょっと待てよ!」
「えっ、えっ!? なっ、何であなたが追いかけてくるんですかッ!?」
「少し話がしたいだけだッ!!」
「こっちにはお話したい事はありませんッ!!」
あの三人の仲間という訳では無いのだろうが、青年はサラサラ黒髪のイケメンだった。
近々で同じくサラサラ金髪イケメンのアルベルトに騙されたリーファは、そのトラウマから暫くイケメンには関わり合いになりたく無かったのだ。
そうだ。どうせ関わるなら全く違うタイプ、モジャモジャのゴリマッチョにしよう。
そんな事を考えながら街を全力で駆け抜ける。
もうそろそろ撒いただろう。スピードを緩め振り返ると、そこには汗を払いつつ爽やかな笑みを浮かべる青年の姿があった。
「はぁはぁ、ようやく止まったか……ふぅ、戦士の割に足の速いやつだ」
「…………な、何の用です?」
立ち止まり青年に向き直ったリーファは眉根を寄せて問い掛ける。
「つんけんしてるなぁ、あんた」
「最近酷い目に遭ったので、ハンサムさんには条件反射で疑いの目を向けちゃうんです」
「ハンサムさんか……ありがとよ。それで酷い目ってどんな目に遭ったんだ?」
「……言いたくありません。それより何の用ですか?」
再度問い掛けたリーファに青年は苦笑を浮かべる。
「あんた、これからの予定は?」
「買い物ですけど」
「そうか。だったらその買い物、俺も付き合ってやるぜ」
「結構です」
そう言ってリーファは踵を返し歩き出す。
だがそんなツンツンしたリーファの態度にめげる事無く、青年はその後も隣を歩きながら話しかけ続ける。
「俺と一緒にいれば、さっきみたいな連中に絡まれる事は無くなるぜ」
「どうしてあなたがそんな事をしないといけないんです? 狙いは何ですか?」
ジトッとした目を自分に向けるリーファに、青年は再度苦笑を浮かべた。
「狙いか…………ハッキリ言おう。狙いはあんただ」
人差し指でリーファを指差し片目を瞑った青年の姿に、警戒はしていても初心なリーファのハートは揺さぶられる。
狙いは私!? えっえっ、ヤダッ、それって私に一目惚れって事ッ!?
先走りした脳内に青年とのアレやコレやが思い浮かぶ。
「えっと、えっと、私って、そ、それはどういうッ!?」
美青年に狙いは自分だと言われたリーファの心臓は早鐘を打っていた。
それも続く青年の言葉を聞くうち音を潜めていく。
「さっきも言ったが、その鎧と剣から見てあんた戦士だろう?」
「ま、まぁそうですが」
「最初はひよっこがゴロツキに絡まれてると思って声を掛けた。だがあの力、唯のひよっこって訳じゃ無さそうだ」
青年はそう言ってニヤッと唇を曲げた。
いやいやいや、あれはアルマリオスさんの力のおかげで、私自身は登録一ヶ月のひよっこで間違いないんですけど……。
そんなリーファの思いを他所に青年は話を続けた。
「俺はクライブ、職業は盗賊なんだが、この前の仕事でパーティが半壊してな……パーティは解散、今はフリーなんだ。そこでだ……あんた俺と組まないか?」
「あなたとですか?」
「おう、あんたの力なら十分前衛として戦える。それにあんたも俺と組めば迷宮の罠に惑わされる事は無くなる。二人なら取り敢えずの仕事は出来る筈だぜ」
惚れた腫れたとかそういう方向では無くビジネスのお話だった。
それが分かったリーファは冷静さを取り戻し、ふぅとため息をついてクライブと名乗った青年を改めて観察した。
自分よりも頭二つ高い身長、爽やかなルックスで身に着けた黒革の装備も似合っている。
見た目だけならかなりの高得点だが、果たして実力は……。
"リーファ、取り敢えず今はイエスと答えておこう"
えっ、なんでですか?
"彼は盗賊。なら勇者の所へ忍びこむのに協力してくれるかもしれない"
会ったばかりで犯罪まがいの事に手を貸してくれるますかねぇ……?
"手は借りれなくても、組む事で盗賊の技術を教えてくれるかもだよ"
いや、教わるといっても一朝一夕に習得できる物じゃないですよ、それ……そうだ!
「組むなら一つ条件があります」
「条件? なんだ?」
「私の仕事に協力して下さい」
「組むんだから仕事に手を貸すのはやぶさかじゃねぇが……どんな仕事だ?」
リーファは腰のポーチから聖剣を一本取り出し、クライブに翳して見せた。
「剣?」
「これをある人物が持つ剣と挿げ替えたいんです」
リーファの言葉にクライブは目を細める。
「……その剣、なんか仕掛けでもしてあんのか?」
どうやらクライブはリーファが言ったある人物を、彼女が陥れたいと勘違いした様だ。
「いえ、仕掛けがあるのは挿げ替えたい方です」
「……詳しく話せ。話を聞いて納得出来たら手を貸そうじゃねぇか」
クライブは先ほどまでの軽薄な印象を一変させ、切れ味の鋭い刃物を思わせる顔つきでリーファに答えた。
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