合コン
「ねぇねぇ、朱音!」
4限の授業が終わって
帰りの支度をしていると
なにやら興奮した目をした
友だちに声をかけられた。
「なに?」
「今日さ!将来有望の医者の卵と合コンがあるんだけど行くよね!」
「んー、ごめん。今日はやめとく」
「え~この前のKO大学との合コンもそうやって断ったじゃん!」
「本当ごめん。また誘って」
私はそう言って顔の前で両手を合わせて
少しオーバーに申し訳なさそうな顔をつくる。
ちょっと前までは、
合コンや飲み会に毎回と言っていいほど
参加していたけど
今はどうも気持ちが乗らない。
「もう!次は来てよね!」
「うん。」
だから、最近こうやって私は友達からの誘いをことごとく断っている。
そのせいか、なにやら巷では
私に男が出来たのではないかという
噂が立っているようだが、
残念ながら彼氏なんて出来てないし、
出来る気配もない。
実際、恋人がほしいとは今はあまり思わない。
少し前の自分の姿を思い出すと
必死すぎて笑えてくる。
ふと、スマホを見ると
午後5時に差し掛かった頃
このまま電車で揺られていれば
タイムセールが始まる前につきそうだ。
カバンから今日のチラシを取り出して
頭の中でルートを組み立てる。
タイムセールという戦場に
向かうイメトレが終わった所で
電車のドアが開いた。
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夕方のニュースが終わって
そのまま始まったバラエティー番組を
BGMがわりに
夕食の準備をする。
若手俳優がドラマの番宣をはじめた頃
玄関からカチャっという音が
聞こえた。
彼が帰ってきたみたい
彼と言っても別に彼氏ではない。
一緒にシェアハウスをしている
2つ上の菅井さん。
菅井さんは、優しくて、エリート会社員で、笑顔がかわいい。
そんな菅井さんとひとつ屋根の下で過ごすようになったのは、
2ヶ月くらい前から。
初めて会ったとき
歳が近くて優しそうな
同居人に心が踊ったのとは、
裏腹に生意気な女を
演じてしまったことは
今でも後悔している。
菅井さんは私と2人だということを知らなかったらしく、目をパチパチさせて
驚いている様子だった。
私は事前に入居者は私と菅井さんの2人だけだと聞いていたけど
やっぱり身構えてしまって
それを隠そうとツンケンしていて
嫌な女に見えちゃったかな。
菅井さんは、男女二人という状況で
年下で女の私の心情を察してくれようとしてくれたのに
強がって「広く使えてラッキー」なんて言い放ってしまった。
嫌われてしまうかもと思ったけど。
菅井さんは困ったように笑うだけだった。
そのあと、デリバリーのピザを食べながら
家事の分担や生活する上でのルールなんかを話し合った。
この頃には自然と打ち解けられていた。
いざ生活が、始まると
どうしても私のほうが帰ってくるのが早い
家でジッとしてるのは落ち着かないから
とりあえず掃除をする。
まだ、時間があるから洗濯。次に料理。
時間をつぶすために家事をしていると
菅井さん帰ってくる頃には、すべて終えてしまった。
最初は、困った顔をして「明日は僕がやるから」とか「そんなに気を遣わないで」
なんて言ってくれたけど。
何もしないほうが窮屈で
結局、掃除機を手にとってしまう。
1週間くらいたつと「ありがとう」って
感謝の言葉をかけてくれるようになった。
その言葉がうれしくて明日も頑張ろうと思った。
それに菅井さんは細身なのに結構大食いで
何を作ってもおいしいって褒めてくれて
夕食の献立考えるのも楽しくなっていった。
いつからか洗い物は菅井さんの仕事になっていた。
私がやろうとすると「僕の仕事とらないでよ」と
優しく注意してくる表情が可愛らしくてキュンっとした。
この生活はすごく楽しい。
漠然と、このまま続けばいいなと思っている。
菅井さんも同じことを思ってくれていたら
ちょっと嬉しい。
ただいまという声で我に返る。
おかえりなさいと返してすぐにお鍋の用意をする。
ある程度食べ終えて
そろそろおじやを作ろうかなと思っていると
「今週の金曜は僕の分の夕飯は用意しなくていいよ」
「飲み会ですか?」
「うん。そうなんだ」
「社会人は大変ですね」
「今回は仕事の飲み会じゃないんだ」
「お友達ですか。楽しんできてください」
「うん、ありがとう。」
何故か、もじもじしだした菅井さんにどうかしましたかと聞くと
「朱音ちゃんって合コンって行ったことある?」
予想外な菅井さんの質問になぜか動揺して
持っていた菜箸を落としてしまった。
「急にどうしたんですか?」
「実は今回同僚に誘われてさ」
「あぁ金曜の飲み会ですか」
何故か胸がざわっとする。
「そう。せっかくだから行ってみようと思うんだけど。 僕そういうの今まで行ったことなくてさ」
「そうなんですか」
「なんか緊張しちゃうな」
そう言ってハニカム菅井さんを見て
改めて私たちの関係はただの同居人だということを感じる。
別に合コンに行ってほしくないとか
そういうことじゃなくて
私は、菅井さんのこと何も知らない事を実感した。
今まで恋愛の話もしなかったから
菅井さんに彼女がいるのかも知らない。
まぁ合コンに行くということは
いないのだと思うけど。
ここで生活している以外の菅井さんの姿を知らなかったし、
知ろうとも思わなかった。
それでもよかったのはただの同居人だから。
私たちの距離は近いようで遠いのだ。
菅井さんに恋人が出来たら
今まで通りに生活できないな。
この楽しい日常が終わっちゃうのか。
それってなんか寂しいな。
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次の日学校にいくと
友だちがまた目を輝かせて近づいてくる。
「朱音!金曜空いてる?」
「空いてるよ」
「今回は、読モの人達なんだけど」
「行く」
「またそうやって断....来るの!!」
「うん。行く」
「やったー!!ドタキャンは無しだからね!」
「わかってる」
テンションの高い友だちに手を振りながら
タイミング良すぎでしょって心の中でつぶやいた。
瞬く間に時間は過ぎていき
すぐに金曜日になった。
あの日以来合コンの話をしていないから
菅井さんは、今日私が合コンに行くことを知らない
何故か罪悪感を感じた。
最後の授業を終えて
駅のトイレで化粧を直したら
5つ先の駅にあるお店に向かう。
電車を降りてスマホの地図を見ながら探しているとひとつのおしゃれな外観のお店についた。
近くでこっちに向かって
大きく手を振っている友だちを
発見して、一緒にお店に入ると
相手の人たちはすでに席についていた。
こちらに気づくと全員席を立って
出迎えてくれた。
正面で見るとみんな身長が高くて顔が整っている。
男3人女3人で
まず、自己紹介をして
各々お酒を注文して
会は、始まった。
男の人はみんな盛り上げ上手で
それなりに楽しいけど
特別気になる人はいない。
いつもならどこかで
ソフトドリンクや烏龍茶に替えていたけど
今日は何故かいつも以上に飲んでしまって自分でも酔っているのがわかる。
時計の長針が2回転半くらいした頃
場所を近くのカラオケに移そうという
話になって、立ち上がると
足がフラついてしまった。
さすがにヤバいなと思って
すこし休んで酔いを醒ますために
友だちにお手洗いにいくと言って
先にカラオケへ向かってもらった。
落ち着いてきて歩けるように
なったけど。
今からカラオケで盛り上がろうって
気分になれなくて
このまま帰ろうと思って
カラオケとは逆方面の
駅の方に向かう。
スマホを開いて
友達に送る言い訳を
考えながら歩いていたら
それに集中しすぎてしまって
前から歩いてきた人達に
気づかなくてその中の1人に
思いっきりぶつかってしまった。
スローモーションで身体が後ろに倒れてゆく。
いつもなら持ち堪えられるけど
酔っているせいで
下半身の踏ん張りがきかない
地面にぶつかると思って
ギュッと目を瞑る。
うん?
何故か私の頭と地面が
ぶつかる事はなかった。
不思議に思って目を開けると
男の人が私の顔を覗き込んで
申し訳なさそうな顔を作っていた。
私がぶつかってしまったスーツ姿の
男性が転ぶ前に私の体を支えてくれたようだ。
私の口からお詫びとお礼の言葉が発せられる前に予想外の言葉がかけられた。
「あれ?朱音ちゃん?」
「え?なんで私の名前…え?菅井さん?」
to be continued…
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