クラウドファンドゲーム 開幕
「ああ。つまらないわ。」
年季が入ったオフィスビルから一人の少女が都会の街道を見下ろしていた。
曇り空の下でスーツ姿のサラリーマンが忙しなく走り回るありきたりな光景に少女は辟易していた。
西洋のお姫様のような黒いドレスを着たあどけなさが残る少女が覗いている窓にうっすらとソファーに腰掛けた青年の姿が映っていた。天然パーマで眼鏡をかけた身体の線が細い青年はテーブルに広げられたお菓子を気だるげにつまんでいた。
「ツヅキ。何か面白いことはないのかしら?」
少女はカーテンを閉めてツヅキと呼ぶ青年に声をかける。
「もうすぐお客様が来ます。それまでの辛抱ですよ。死花お嬢様。」
「ツヅキは冷たいよ!未来の夫として妻の私にもっと構ってよ!」
死花と言う不吉な名前の少女がふてくされれながらツヅキの隣に大きな音を立てて座った。自分の肩に頬をすり寄せてくる少女の機嫌をとるためにツヅキはスマフォで動画を検索した。
「これとかどうですか?アイドルの熱愛報道の釈明会見。生中継ですよ。」
ツヅキは悪びれる様子もなく少女に動画を見せた。
「陽炎綴木!」
少女はスマフォを取り上げてソファーに投げ捨てると、ツヅキの頬を握って少女の方に顔を向けさせた。
「私は人の色恋沙汰に興味がないのは知っているだろう?わざとか?」
あらゆる色を混ぜ合わせたようなドス黒い瞳が困惑する青年の瞳を捉えた。
「すみません。」
一言で謝るツヅキの鼻を少女はつまんだ。
「私はツヅキの事をこんなにも愛しているのに、ツヅキは私のことを少しも理解しようとしない!私はとても悲しい!」
ドス黒い瞳を向けて甘え声で詰め寄る少女とそれに辟易する青年の間に割り込むかのようにノックの音がオフィスに響いた。
「お客様がお見えになったようです。」
青年の頬をつかむ少女の手を優しく解くと、青年は乱れた服のシワを伸ばして扉に向かった。不満げな少女の視線を余所に青年はゆっくりと扉を開ける。
「いらっしゃいませ。デスゲーム企画へようこそ。弊社では人狼、イベント、SNSなど様々なジャンルのデスゲームを取りそろえております。本日はどのようなデスゲームをご所望でしょうか、ゲームマスター様?」
ゲームマスターの要望を叶える安心で安全なデスゲームを企画・運営するデスゲーム企画株式会社の一日が幕を開けた。