3話
仄かに青くなる地平線、静粛なこの世界、遠くから僅かに銃声が聞こえる
それが私が戦場にいることを自覚させてくる
トオルはまだ横で寝ている。たまにする荒い息が気になり額に手を当ててみると、すごい発熱だった。だから今日はトオルのために特別なシャワーを作ることにした。
私が人のために動く日が来るとはな…
朝、それは満腹の犬は健やかに寝て、空腹の犬たちが徘徊する時間だ
耳を傾ければ銃声と犬のうめき声が聞こえてくる
うめき声がする方向を頼りに進む
銃声が昨日と比べて大きくなっていることに疑問を感じながら
いた!おぼつかない足でゆっくりとこっちに近づいてくる、幸い気が付かれていないようだ
物陰に潜伏する
ゆっくりだが確かに近づいてくる
何も知らない哀れな犬は物陰の前を通過する
「わふん!」
タックル
肩で犬を掴み突撃、壁にぶつける
脳震盪を起こす犬
顔面を蹴る、蹴る、蹴る…
抵抗なく命を刈り取る
「よいしょっと」
掛け声と共に死体をおんぶする
よろよろとした足取りでトオルのところまで戻る
できるだけ血を流さないように食道、及び消化器官を抜く
「さーこれで元気になーれ」
母親との良き思い出が頭を通過する
トオルの頭上に持っていき大動脈を切り開く
吹きあがる血
トオルを包み込む
だが足りない…これではトオルの活力は復活しないだろう
血の匂いにおびき寄せられる犬
左側から口を大きく開けて吹っ飛んでくる
血の出ななくなった肉片を口の中に無理やりねじ込む
減速する犬
ステップを踏み犬の右側へ出る
エルボーを無防備の頭に入れる
脳震盪を起こして倒れる
止めを入れない…いや入れられない
過度の空腹に襲われた犬は通常は弱いがアドレナリン分泌量が高く容易く狂気に飲まれてしまう
次々と集まる犬
背後から爪が背中を掻き切らんと襲い掛かる
だが見える
振り向きながら一歩左にづれる
思いっきり振りかぶった拳で爪の側面を叩く
僅かにづれる
虚しく空を掻く爪
腹に膝蹴りをお見舞いする
口から血が零れ出る
片足状態になったのが好機と思ったのか一匹の犬が口を開けて吹っ飛んでくる
だが甘い
顔面に回し蹴りを食らわせる
膝に犬をのせて
様子見を始める犬たち
転がっている一匹を持ち上げる
見せしめのように腹を開き食道、及び消化器官を抜く
トオルの上に持っていき大動脈を切る
「3匹分の血を浴びたんだ、体調も良くなっただろう」
様子見していた犬達が距離を詰めてくる
全方位から一斉に仕掛けるつもりらしい
さすがにまずい
だが本当に全方位から仕掛けた場合、犬同士がぶつかりあって終わる。だがそんなことをするはずがない。一筋の光が見えた
トオルを担ぐ
一斉に吹っ飛んでくる犬
左目が充血する
視野が広がる、より鮮明に、より精密に
一歩後退する
眼前に風が吹く
揺れる髪
半歩左へ動く、共に体を45度曲げる
左右を通過する影
大きく前進
後ろを交互に3匹通過
感覚に合わせて左にエルボーを入れる
顎を打ち上げられうめき声とともに血が歯と歯の間から滲み出る
だがエネルギーは止まらない
吹き飛ばされる私
バク宙、姿勢を制御し確実に着地
私の意思など反映されていない、ただ感覚のままに
劇のように目の前で交差していく犬
だがこれで終わるはずがない
次々に飛び掛かってくる
接近する爪
側面を叩き軌道をずらす
反対の爪が切り払う
半歩後退し射程が外れる
接近
顔を膝で打ち上げ、肘で撃ち落とす
血を噴き上げながら地面にキスをして動かなくなる
血の花が咲く
その背後から2匹が飛び出る
片方に肉薄
体を反転、背中を向ける
延ばされた爪をつかみ、一本投げ
地面すれすれで腕を回しもう一匹にぶつける
筋肉が悲鳴を上げ、裂ける
相対するようにアドレナリンが分泌される
左目から血が垂れる
限界が近い
集団に向かって大きく飛躍する攻撃は最大の防御なり
驚き開ける口に右腕をねじ込む
胴体の回転に合わせて腕も回る
遠心力で吹き飛ぶ犬
肩が脱臼するが即座に入れなおす
ボーっと突っ立ている犬に目をつける
大きく踏み込む
接近と同時に膝蹴り
速度と相まった一撃は正しく一撃必殺
血を噴き上げながらゆっくり倒れた
次の獲物を定める
左に大きく踏み込む
両手を握り振り落とし、振り上げる
持ち上がった犬に蹴りを入れ吹っ飛ばす
ほかの犬とぶつかり生き途絶えた
何かが吹っ切れたのか誰彼構わず向かってくる
目尻から耳へかけて赤い模様が浮き出る
一回踏み込む
それだけで骨にひびが入る
代償は大きくも速度は折り紙付きだ
間合いなんて無いようなものだ
一瞬で0になる間合い
首を掴み隣の犬にぶつける
持つ犬から悲鳴と血が上がる
皮膚が切れたようだ
だが構わぬ
近くにいる犬に頭をぶつける
吹っ飛ぶ犬
だが止まらない
逆手に振り背骨で強打する
対象、持つ犬ともに粉砕される背骨
使い物にならない犬を捨て、新たに一匹掴む
勇敢にも口を開け向かってくる犬、だが蛮勇というものだ
右に半歩ずれ、前進
すれ違いざまに開いた口に持つ犬の足を入れる
捉えたと思ったのか勢い良く締まる顎
だがそれは同胞の足だ
後ろから背骨で強く強打
吹きあがる血が私の顔を汚す
次の獲物を狙いを定め…
揺れる視野
左目が流血しだす
全身を襲う痛み、アドレナリンを制御できないようだ
膝をつき、そのまま倒れる
敵の異変に気が付いたのか、じりじり近づき始める犬を横目に自分の最期を悟った
徐々に薄まる意識
「ルファー!…」
トオルの声が聞こえた気がするが、意識を維持できない
今回の戦闘で色々勉強になった。もし次があるなら、自分の意思をもって戦いたかったな…