5.ゲットだぜ。
皆の注意が水木さんや叫び声をあげた人に向かっている中、周囲を包囲するようにして生い茂る紫色の花に異変が起きていた。
一直線。その一直線上にある花が潰される。まるで何かが這って近づいてくるかのように・・・。
「ねえ!?!?何か近づいてるよお・・・・!!!!!」
悲鳴。
悲鳴。
悲鳴。
周囲は得体のしれない存在にまともな思考ができないでいた。そんな中ある一人の生徒が顔色を真っ青にして皆に訴える。恐怖の波に飲み込まれながらも理性を保っていた生徒が周囲を見渡す。
「ほ、ほんとだ。何かいるぞ!!」
「なんだあれ!?近づいてくる!?」
生徒の数人はその子と同様に何かが見えているようだ。
「なななななにいってんだよお!!なんもいねえよお!!」
「そっそそうよ!変なこと言わないでよお!!」
「花が・・・・」
しかしほとんどの生徒はその姿を確認することができないでいた。見えない恐怖、だが、潰された花がそこに何かがいると証明していた。一直線。まっすぐにこちらに近づいていた。
呼吸はできている?
何かが来る。
自分には見えない。
自分が異常なのか??
ザザ・・・・・・ッ
一瞬花がざわめき立ったような気がした。
油留木 薫。性格は優しく人当たりよい。親は”土”を生み出す羅劫持ちであるためかなりの金持ちである。日本・東京にいる財閥はおよそ100。土地の上に立つビルに住む世帯とほぼ等しい。その中でもトップ10に入るほどの金持ちな家のご令嬢だ。
彼女の前にそれは姿を現す。紫色の形容しがたい姿をしていた。最初は形を持たず靄のように見えた。しかしそれは秒単位で姿を変化し続ける。
どうやら人の姿を真似しようとしているらしい。時間がたつにつれ人型になり目と鼻・・・手・・足ができた。最後に透明なガラス玉のような目玉が生成され、自分の姿を確認するように手足を見つめた。
自分の姿に満足いったのか、視線をあげる。
「な・・・・・何でしょうか・・・???」
油留木 薫が震えた声で羅劫と思わしき人に尋ねる。それはゆったりとした動作で彼女に顔を向けた。しかし、何も言わずにただ彼女を見つばかりで反応がない。
しばらくするとそれに対する警戒がうすまり、油留木 薫は話しかけ始める。
「あの・・・・。羅劫さまとお呼びしてもいいでしょうか?」
「ここにお住まいなのですか?」
「なにか反応してくれないでしょうか・・・?」
なんの反応も示さない。小さなころから礼と義を重んじなさいと言いつけられてきた彼女にとってそれの態度は気に障るものであった。普段であれば相手に考えを読ませるようなへまはしないのだが、異常な環境が彼女の感情を表に引っ張り出す。ささくれ立っていた心の状態が声に表れ始めた。
「あの・・・契約してくれるんですか?それともしてくれないのでしょうか?」
このままずっと反応しないのかと思われたそれは初めて反応を示す。
「「「「頷いた・・・・」」」
思わず周囲の人も反応してしまっていた。皆も驚いたが一番驚いたのは会話を試みていた油留木 薫本人だろう。え・・・!?どうしたらいいんでしょうか!?と思わず声が出てしまっていた。周囲にいた生徒もどうしたらよいのか分からず、彼女と一緒にあたふたする。
「あ・・・あの・・。契約・・していただけるんでしょうか???」
今度ははっきりとそれは頷いた。契約をしてくれるらしい。会話が通じると安心した次の瞬間。
突然赤色の文字が2人の足元からあふれ出し、彼女と羅劫の周辺を荒れ狂うように飛び回り始めた。再び混乱があたりに広がる。
文字は徐々に2人を包み込み周囲から見えないようにしてしまう。早すぎてその文字が何を意味しているのか読み取ることはできない。しかし最初は血のように真っ赤だった文字が色を変え、紫に発光し始めていた。
荒れ狂うように飛ぶ文字が生み出した風に花弁が煽られ、宙に浮かぶ。花弁が光を反射し、幻想的な空間があたりに広がっていた。
しだいに発光によって2りを直視するのが困難になる。近くにいた人も少し離れていた人も手で目を覆い隠した。
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「あ・・・あの・・・。皆さん・・・。」
しばらくして油留木 薫が周囲に呼びかける。どうやら風も止まっているらしい。
「あ・・・あの・・。どうやら契約は終わったみたいです・・。」
目を開けるとそこに紫の花は一輪も咲も残っていなかった。あるのは溶岩が冷えて固まった大地。何事もなかったかのように立つ1人のクラスメート。周囲を見渡すが、先ほどの幻想的な風景はかけらも残っていなかった。
自分は羅劫に選ばれなかったのだという事実がじんわりと胸に広がる。
パンッパンッ
「は~い。皆さん大丈夫ですか?立てますか~?油留木さん。素晴らしいですね。契約できると思いませんでした~。お疲れさまでした~。他の生徒の皆さんは残念でしたけど、めったにあることではないですからね。落ち込む必要はないですよ~。」
手を叩きながら先生が近寄ってきた。
「今日はもう授業は終わりですよ~。といってももう13時ですからねえ。お昼抜きになってしまいましたねえ。バスにのっていったん学校に戻りましょうかあ~。人数確認してバスに乗ってくださいねえ~。」
一同は、あまりのあっけなさに戸惑いを隠せない。なぜ目の前の衝撃をそんな言葉でかたずけてしまえるのか。もっと他に言うことはないのか。なぜ出てこなかったのか。言いたいことがありすぎて、うまく言葉が選べなかった。
初めて見る羅劫への興奮か、選ばれなかったことへの落胆か。
立ち直りには少し時間がかかりそうなので、バスに戻るのはもう少し後になりそうだ。
情景描写書くの難しいな・・・