もう嫌だ!
「それで、龍郎。帰蝶は?帰蝶はどうなったのだ!?」
帰蝶ちゃんの不妊治療が終わり部屋から出てくると信長君が俺へ問い詰めて来た。
「施術は成功です(一度言ってみたかった)。傷も残ってない。今は麻酔で寝てる状態だ」
「マスイ?そうか成功か。よかった。それで、帰蝶のところへ行っても良いのか?」
「良いけど起こさないであげてね」
今の帰蝶ちゃんは麻酔で眠っており、意識はあと数十分は起きないだろう。
「龍郎様、ついに倅にも子が出来るのですね」
織田家現当主、信秀君が話し掛けて来た。
「そうですね。まぁ信長君なら他に妻をとって子供を作る事はできたのにねぇ。これは予想外だ」
「それは龍郎殿の未来予知、でしょうか?」
「いや、これは予測だ」
歴史では信長君は帰蝶ちゃんの他の妻をとって子供を作って、信忠君が産まれる。この様子だと信忠君は別の妻とではなく、帰蝶ちゃんとの子になりそうだな。
「んじゃ、俺これから用事があるから」
「利政の所へですか?」
「行ってくる!」
ーードッーン!
俺は庭に出て、跳躍で稲葉山城まで文字通り飛んで向かった。
「また、来ていたのか」
「どうもー、斎藤さん。龍巳、元気にしてます」
「さっさとあいつを連れて帰れー!」
稲葉山城に来て道三さんにあって数秒少し会話をして帰れと言われた。
「何かあったんですか?」
「あの者は何なのだ!動きは見えないし、うちの家臣を何人アイツにやられたと思っておる!力も、どの男よりも、何十人よりも強いと来た。バケモノか!あの女はそれにあの女の何処にあの量の飯が入るんじゃ!」
「要約すると力強いし飯めっちゃ食って恐ろしいから連れて帰れ、とそう言いたいわけか?」
「そういうことじゃ!」
まぁ、龍巳も俺と同じ吸血鬼、それも真祖だから力が強いのは当然だし、スピード特化で俺でも見えない時があるからな。めっちゃ飯を食うのは・・・どうなんだろう?俺も結構食べる方だからあんまり龍巳が多く食べるとは感じなかったな。
「龍巳って、そんなに食います?」
「うちじゃなかったら追い出してたぞ。そもそも追い出そうとしたら抵抗されてしまって兵に被害多数にあの者は全く疲れた様子も見せていなかったぞ」
そんなにですか。確かに美濃は米を多く生産するって聞いたことあるから養う事はできるんだろう。兵に被害多数ってのは、まぁ、無くもないな。
「それで、いつなったら連れて帰ってくれるのかね!?」
「あぁ、前に言ったじゃないですか?『嫌だ』と言っても預け続けるって。期限も帰蝶ちゃんが子供を産んで連れて来るまでって。つまりそういうことです」
「まさか、『嫌だ』というのは私達の事だったのか?あの者ではなく」
「そういうこと」
「もう嫌だー!」
道三さんの悲痛な叫びが部屋だけに響いた。
ーー何故部屋だけ?隔離空間の結界を張っているから。
「龍郎!帰蝶は、帰蝶と子はどうなった!」
帰蝶ちゃんの不妊治療をして、およそ12ヶ月。現在は帰蝶ちゃんが妊娠して、出産の準備をした所だ。
「信長君、安心して。俺達がついてる。母子ともに無事な状態で生存させるさ。おい、俺!今どうなってる!」
「帰蝶ちゃんの血圧が上がってるが、問題ない。行けるぞ、俺!」
「胎児を取り出す準備は出来てる。こちら問題なしだ、俺!」
「そうか。じゃあ信長君は部屋に出ていてね。あとは俺達に任せとけ。行くぞ、俺達!」
「「オー!」」
今の俺は分身を使って帰蝶と胎児の様子を全能力を使って監視して、健康的に出産の準備をしている。
今の尾張では色々な改革を行なっているがまだ準備不足だ。特に衛生管理がまだ徹底されていないので、俺だけでこの場を切り抜ける。
「それでは、帰蝶ちゃんの出産をする。帰蝶ちゃん、呼吸を俺に合わせてね」
「わかりました」
「ひっひっふー、ひっひっふー。だよ。この呼吸だよ」
「ひっひっふー、ひっひっふー」
それからもひっひっふーの呼吸を続け、遂にその時が来た。
「オギャー、オギャー!」
「産まれました。男の子だよ!」
産まれた子の股間を見ればちっちゃなモノがついていた。
「産まれたか!帰蝶!龍郎!」
「はい……。妾は、帰蝶は産みました……!」
「帰蝶ちゃん、あまり喋らない方が良い。信長君、帰蝶ちゃんは気力も体力も尽きかけてるんだ。すぐに眠りにつくから会話は短くね」
「……帰蝶、よくやったぞ。今は眠れ」
「はい……。私はやり遂げました」
そして帰蝶ちゃんは眠りについた。
「あねうえのあかご!いちのめいっこー!」
そこへ信長君の妹、お市ちゃんがやって来た。どうやら誰かに聞いて飛んでやって来たらしい。
「市、今帰蝶は眠ってるから静かにな」
「わかったー……。いち、しずかー……」
まだ5歳くらいの女の子だが、流石に眠ってる人に気遣うこと出来る様になったみたいだ。良い子良い子、と市ちゃんの頭を撫でてあげる。
「市ちゃん、この子が信長兄上と帰蝶義姉上の赤ちゃんだよ」
「しわしわだねー……。お名前はー?」
「そう言えばまだ決めてなかったですね。信長君、この子の名前、どうする?」
まぁ、予想はできてるんだけどね。
「奇妙丸だ」
やっぱり。信忠の幼名をつけるよね。
「きみょうまる〜、大きくなるんだぞ〜」
お市ちゃんが奇妙丸君の頬を突きながら成長を願う、微笑ましい光景が見れた。
奇妙丸君が産まれて数ヶ月。
俺と信長君、帰蝶ちゃんに奇妙丸君、以下護衛の兵を連れ、帰蝶ちゃんの父、斎藤道三がいる稲葉山城に来た。
「本当に来たのか」
「お久しぶりですねー。前に来たのは奇妙丸君が産まれた事を伝えに来た日以来でしたっけ?なんだかここの城の人、貴方も含めて、なんだか老けてません?疲れてます?」
数ヶ月ぶりに稲葉山城に来たのだが、道三さん含め、城内の人みんながなんだか疲れて老け込んでるように見える。
「お前の娘、本物のバケモノではないか。息子の義龍が謀反を起こそうとしていたのを何故か察知して謀反が計画されている段階で謀反者全て捕らえるわ。その功績で義龍を下僕にする様にワシに頼んできたんだぞ?毎日、元嫡男であった義龍があの女に責苦を味合わせ、日毎に奴が責苦に顔を歪めていたのが段々と恍惚とした顔になっていく様を見てこれが疲れずにいられるか!痛み、罵倒を与えられて喜ぶ義龍の顔を見せられておるワシらの気持ちを考えろ!」
「そんな……!兄上がそんなことに……!」
「いや、それは、ごめん。俺も流石にそこまでするとは思わなかった。悪いとは思ってる」
まさか父親を裏切るあの義龍さんがドMだとは思わなくてですね。それにそんなのに、龍巳が関わってると、父として本当に申し訳ないと思えて来る。
「それに加え、ウチの兵共も義龍の様に痛みを与えられ、罵られて幸せを感じる者が続出しているのだぞ?それもあの女によって与えられた痛みと罵倒によってな!」
「本物に!申し訳!ありません!」
俺はその場でジャンピング土下座をした。
いやほんと、龍巳。他所様で何をしてくれてんのー!?
「それで、今帰蝶が抱えておる者が、帰蝶が産んだ子か?」
「はい、父上」
「帰蝶、こちらへ近う寄れ」
「はい」
帰蝶ちゃんは道三さんに近づく。
「子を」
帰蝶ちゃんが抱いてた奇妙丸君を道三さんが受け取り、奇妙丸君の顔を見る。
道三さんが奇妙丸君の顔を見るなら、当然奇妙丸君の顔を見る。お互いで顔を見て、奇妙丸君は道三さんの顔に手を伸ばした。
顔というより道三さんの顎に生えた立派な髭かな。奇妙丸君は道三さんの立派な髭を掴むとキャッキャと笑いながら引っ張る。
それを見ていた信長君と帰蝶ちゃんは顔を真っ青にさせている。
された本人の道三さんは、笑っていた。
「ほう。ふふふ、お主は泣かんのか?ハハハ」
道三さん、顔が怖くて、産まれたばかりの帰蝶ちゃんに泣かれたことがショックを受けて、引きずってたからね。
「帰蝶、この子の名はなんと言うのだ?」
「えっ?……奇妙丸と申します」
「そうか。お主、奇妙丸と言うのか。ハハハ」
そんなに自分の顔を見て怖がらない事がそんなに嬉しいのか。
「それじゃ、帰蝶ちゃん。例の事お願いね」
「えぇ、わかっております。父上、少々。ゴニョゴニョ……」
「ふむ。わかった、小見に見させて来い。すぐにワシにも知らせよ」
「かしこまりました」
そして、帰蝶ちゃんは部屋から出て行った」
「本当に帰蝶には傷一つないのだな?」
「そうだよ。ハムハム。ちゃんと傷は全く残っていない。ズズー、ハァー」
「……お主、何処でそれを出した?」
「ん?これかい?これは俺の能力の一つさ。斉藤さんもいる?たい焼きと緑茶」
「……貰い受けよう」
アイテムボックスから取り出したたい焼きと既に湯呑みに入ったあったかい緑茶を差し出す。
「……毒は入っていないのだな」
「入れる訳ないでしょ?それ、もともと俺が食べる為に作った奴だからね」
「……それにうまいな、この菓子と茶は。それにこのたい焼きとやら、小豆が入ってて甘い」
「そう言う菓子だから。そんな物欲しそうな顔しなくても。信長君のもあるよ」
「そんな顔などしておらぬが貰おう」
「素直じゃないなぁ。でもそこが好きだぞ!」
「龍郎は俺の好みではない」
「俺、男に入れるのも入れられるのもお断りだからね。これマジで」
「まじで?」
「誠、って意味だよ、斉藤さん」
そうして、菓子を食べながら、お茶を飲み、会話をして時間が過ぎた。
「父上、戻りました。帰蝶です」
「うむ、入れ」
そして帰蝶ちゃんが戻ってきた。
「それで、どうであった。小見には確認させたか?」
「はい。身体の何処にも傷はありませんでした。それはきちんと母上も確認しました」
「そうか。……遂にか。遂にあのバケモノをここから追いやる事ができるのだな。ふふふ、ハッー、はっはっはっ!」
道三さんがワナワナ震えたかと思うと急に大笑いし出した。
「遂に、あの者から我らは解放される!もう痛み、罵倒を受けて喜ぶ者はいなくなるのだな!」
そんなに嬉しいのか、と言いたくなるほどに全身から喜びオーラを出す道三さん。その分、今まで苦労していたのがわかるようだ。ホンマ、スンマセン。
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