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第90話 さあ、狩りを始めよう

 第90話 さあ、狩りを始めよう


 翌日すっきりお目ざめしたのはやはりお風呂のせいだろうか。

 日本人としてやっぱりお風呂は素晴らしいと思う。


 俺が風呂好きだからネムも最近はお風呂が気に入っていて、一緒に入っているからなかなか楽しい。


 だが今回よかったのはシアさんとマーヤさんに絶賛されたことだろう。


 やはり自分の好きなものが、手間暇かけて作ったものが、自信のあるものが、賞賛されるのはとても良いものだ。


 シアさんもマーヤさんが風呂好き、清潔好きということで結構感化されているみたいだ。


 さて賞賛されるべきものは他にもある。

 それがこの石の木の家。


 狼たちはあの後、執拗に攻撃を繰り返したようだが全く歯が立たず、すごすごと撤退していった。

 外に出て確認するとほとんど傷もついていない。

 まるで鋼鉄の板のようだ。厚さ一〇cmの。


 あのレベルの魔物程度、こぞって襲ってきてもびくともしないことが実証されたのだ。これで魔境でも安心して眠れる。


 奥に行くと魔物が強くなるそうだから確証はないが浅層は問題ない。

 後はおいおい検証しよう。


 ◆・◆・◆


 俺たちはそのままさらなる奥地に進む。

 とはいっても浅層より奥に進むつもりはない。


 この魔境はまず最初に境界域と呼ばれるところがある。

 俺がいろいろやっていたあたりだな。


 魔物の領域だか人間の領域だか微妙なところ。だから境界域だ。


 そこから北に進むと浅層と呼ばれるエリアに入る。ここからは魔物の領域という認識になるようだ。


 さらに二、三日進むと今度は中層というのがある。


 で、この浅層と中層の違いが何かというと生息する魔物の違いと考えていい。いや、魔物の性質というべきか。


 例えばこの浅層。狼のように襲ってくる魔物もいるわけだが、ハムハムネズミのように人間を見ると逃げる魔物もいる。

 地球でいうところのワイルドライフと何も変わらないわけだ。


 生態系もふつうにできていて、草食動物がいてそれを捕食する肉食動物がいて…といった具合に。


 だから警戒が必要と言ってもある程度の安全はある。


 ところが中層に踏み込むとこれががらりと変わる。


 地球では見たこともないような生き物がたくさんいて、しかも出てくる魔物のほとんどすべてが人間を見つけると『わーい戦おう!』『わーい食わせろー』みたいに寄ってくる。そりゃもう喜び勇んで。


 そう、イメージとしてはゲームの迷宮のイメージだな。魔物がどんどん襲ってくる。


 では人間はいないのかというとそうではない。


 人間の側が見つけなくても魔物の側が見つけて寄ってきてくれるので狩場としてはかなりやりやすいといえるだろう。

 魔物を倒せるだけの実力があれば。


 なので冒険者は普通に活動しているらしい。


 どんな魔物がいるのか興味は尽きないが、今はそこまではいかない方がいいと思う。

 なんといっても学生さん同伴だしね。


 そんなわけで今回は浅層での狩りとなる。


 さて、狩りにおいて一番大変なのは何か。

 それは獲物を見つけることである。


 普通はね。


 だがここは魔法の国だ。

 魔法がある。

 となると当然状況は変わってくる。


 俺たちは一先ずの拠点を決め、前日のように石の木の家を設置して狩りを始めた。

 今は時間としては午後三時ごろだろう。

 ここで数日狩りをしながら過ごす予定だ。


『□□□・□□□□・オブジェクトサーチ』


 シアさんが魔法を行使する。


 これは自分を中心とした周囲の状況を探る魔法だ。

 索敵範囲は熟練度によるらしい。シアさんの索敵範囲は二〇〇mから二五〇mというところみたいだ。

 その範囲内に生き物がいると分かるという大変便利な魔法だった。


 欠点はある程度の大きさがないと反応しないところだろう。小さいけど強力な魔物を探すには向いていないようだ。


「あっちとあっちとあっちで反応があります」


 そしてまだ経験が足りないせいか詳しいところは分からないらしい。


「ええっと、ちょっと待ってください」


 シアさんの指示した方向にネムが顔を向ける。そして獣耳をぴくぴくと動かす。


 ネムと夫婦になって、ネムをいろいろいじれるようになって分かったことなんだが、獣族というのは人間の耳のほかに副耳として獣耳を持っている。

 日常生活で使われているのは普通の耳の方で獣耳は主に索敵に使われている。


 町中でも普通の耳は人間と同じように機能し、獣耳は周囲の声などではなく活動音などを中心にとらえている。

 この獣耳のおかげて彼らは目に見えない位置にあるものの動きも把握できるのだ。


 そしてその機能を意識的に一方に向けるとその精度は舌を巻くほどのものになる。


「こっちにいるのはビロードバイソンです。えっと…四…いえ、五頭。二頭が子供です。

 こっちは…パンサーですかね。木の上で音がします。でも動いてないからよくわかりません。そしてこの方向にいるのが…たぶんアックスバッファローですね。一頭です」


 ネムもそれなりに冒険者をしていてこの辺りで狩りをした経験から見つけた魔物にあたりをつける。


 で、魔力を飛ばして見てみるとビロードバイソンというのはもこもこの毛におおわれたバイソンだ。角が小さくて頭にも毛がある。

 大きさは牛と同じか、少し大きいぐらい。


 パンサーはそのまま豹のような生き物だね。木の上で待ち伏せでもしているのだろう。あまり動かないのであらかじめ魔法で方向が分かって注意していなかったら見つけられなかっただろう。


 アックスバッファローというのはこれも牛なんだが、水牛を大きくしたような生き物だ。

 肩の高さが二mぐらい。そうなると全長は三mにもなる。ちょっとしたトラックなんかより迫力がある。

 しかもこいつ、頭にまっすぐの一本角で、しかもこの角が長くてとがっていて、全体として幅広でまるで槍と斧を融合させたような形になっている。

 アックスとはこの角から来た名前だろう。

 吃驚して注視していると後ろ脚で立ちあがり、その反動で頭を振り下ろして灌木を叩き割っている。

 そして割れた木をむしゃむしゃ…じゃないか、バリバリと食べているからすごい。


 さすが魔境だ。びっくりだ。


「じゃあ、ビロードバイソンに標的を絞っておびき出しましょうか」


「できる?」


「もちろん。こういう時は子供を先に攻撃するんです。そうすると親は子供を守るために向かってきます。

 そこをしとめます」


 いつの間にか女の子三人で戦闘の方針が決定したらしい。狙うのは当然ビロードバイソン。一番近いし他に選択肢はない。というか他は無理でしょ。


 彼女たちはささっと戦闘準備を整える。


 二人ともなかなかかっこいいね。


 もちろんネムは別格だけどね。

 さあ、いよいよ狩りの始まりだ…


 どうやるんだ?


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