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第88話 マーヤさんと話し合う

第88話 マーヤさんと話し合う


 とその懸念はすぐに顕在化した。


「えっと、冒険者ってこういうものでしたっけ?」


「違う、断じて違う」


 お嬢さん二人が俺の出した石の木の家を見て唖然としている。あははははっ。


「うわっ、しっかりしたドアです」


「お風呂がある」


「部屋は二つですね。片方が居間…でもテーブルを片付ければへやですね」


 という感じの小屋だった。


 もとが丸太なので三つの円を重ねたような形になっていて、一つが寝室。一つが居間、一つがお風呂として作られている。

 お風呂は新しく作り直したものだ。


 三メートル弱の円の中にバスタブ、洗い場、脱衣所があって以前の物よりこじんまりしている。


 前は二人が広々と入れる大きさだったが今回のバスタブは二人が入ると密着がうれしい感じ? まあそれでも余裕はあるよ。

 日本の普通の風呂場並みには大きい。


 居間には特注の畳がはめてあって、寝室はふかふかのカーペットが入っている。


「二人は奥の寝室を使ってよ、俺たちは居間でいいよね」


「はい、大丈夫です」


 布団はしまうぞう君に入っている。大きめのやつだから二人でひとつ使えば問題なく寝られる。


「さてと」


 そういうと俺はしまうぞう君から竈や鍋、フライパンなどを出して外に設置していく。


 これも結構いいものだ。


 特に竈…金属製のキャンプできそうなやつだけど…は手の込んだいいものを用意しました。


 いつでも完全なスローライフができそうな準備である。


「じゃあ、とりあえず火を使うのに柴刈りをしましょうか。それとマリオン様、できれは何か獲物をしとめてきてくれますか?

 お肉がいいです」


 わが嫁の指示で狩りの準備を…


「手分けするべき?」


 意外なことにマーヤさんが手を挙げた。


「私がマリオンさんと行く。シアちゃんは柴刈りに、私たちは洗濯に…ぷぷっ」


「洗濯?」


 首をひねる美少女二人(ネムとシアさん)。まあわからんわな。


 とりあえずそんな感じで行動開始。


 ◆・◆・◆


「非常識、あれは規格外」


 少し離れたらマーヤさんがそう言ってきた。


 小屋や(かまど)のことだな。

 だがこれには反論がある。


「そうでもないと思うよ、あの程度は十分に実現できるものだよ」


 確かにしまうぞう君の収納力は桁外れだ。


 だがこの世界にも収納の魔道具はある。収納の魔法袋などはちょっとお高いが買えないほどの物でもない。


 であれば家は無理でもテントのしっかりしたものを運んでくることは難しくない。調理器具なんかも同じ。

 あの小屋は防御力自体が高くて、しかも魔物が寄りたがらないらしいけど、そんな状況だって魔物除けの香があれば十分に実現できる。


「それに竈は魔法を使えば現地であのレベルは再現できる。

 火をつけるのは【着火】でいいし、煮炊きするための水は【取水(ゲットウォーター)】の魔法で作れるでしょ?」


 この世界の魔法というのは想像以上に便利なのだ。

 これから俺たちは野営をするわけだが、整備されたキャンプ場でキャンプする程度の環境は魔法でどうとでもなる。


「それはそう…だったら問題はトイレ?」


「いやいや、それも考えてあるよ。

 気が付かなかった? あのお風呂ユニットバスなんだ」


「あ、脇に置いてあった椅子みたいなやつ」


「そうそう。それそれ。さすがに水洗は無理だったから用を足したらおふろの残り湯を流し込んでください。

 外に排出されます」


「何と!」


 驚いた? 驚いたよね。

 いやー、魔境ってトイレがないでしょ?

 男はいいんだけど女の人が用を足すのって大変なんだよ。


 際限なく我慢なんかできないし、魔境の中じゃ近くに見張りもないじゃ危ないしってんで、何回かの探索の間結構苦労をしたのだ。

 ネムと夫婦でなかったらとてもとても。


 それでも昼間移動中はどうしようもないとしても、せめて夜ぐらいはね。


「となるとあとほしいのはおしり洗浄」


 いやいや、そこまでは無理、浄化の魔法を使ってくださいな。

 家をしまうときだってちゃんとクリーンの魔法を使ってからしまうよ。


「・・・」

「・・?」


「やっぱりマリオンさんは日本人」


「ということはマーヤさんもだよね」


「ん。本名 倉内摩耶。日本人。S県のセイラン女子高の1年生…だった。ここに来てもう四年」


「なるほど…私は鈴木真理雄だ。まあ、ちょっとふざけているような名前に聞こえるかもだけど、真理にたどり着く男であれという意味らしい」


 意味が分かってからは結構自慢なのだ。わかるまではゲームのやりすぎだ! とか怒ってたけど。


「鈴木さんも勇者なのを隠してる?」


「マリオンでいいよ、間違ってもあれだから、で、質問の答えだけど、別に隠してはいないんだ。何と言うか本当に勇者ではないんだよね。来訪者ではあると思うんだけど」


「どゆこと?」


「うーん、勇者の条件みたいなもの、聞いたことある?」


「勇者の見分け方。ある。そこらへんは結構調べた」


 ①称号に【異世界の××】がある。

 ②加護が主要12神のだれかである。

 ③クラスが【勇者】【聖女】【賢者】などの希少クラスになる。


「私は【異世界の学生】になっている。加護は【叡智神・オードリグル】クラスは【魔法騎士】これも希少職」


 希少職に関してはこの世界の人も持っている場合がある。加護に関しても同じ。一番の決め手はやはり【異世界の××】だろう。

 そのうえであとの二つがそろえば完璧だ。


「俺は実は【異世界の】の称号を持ってないんだよね。これは鑑定してもらったから間違いない。理由は…は何だろ」


「ひょっとして転生者? 日本人にしては髪も目も変。だから確信が持てなかった」


「転生者、生まれ変わりか…違うとは思うが…違うだろう…まあわからんということで」


 しかし俺が世界にとって別の世界の何かではない。と認識されているというのはどういうことなんだろうね。…やはり原因はあの閉鎖空間で起こったことだろう…

 だがその意味なんて分からないからね。


「そう。確かに異世界にわたること自体が非常識。わからないことだらけ」


 まあ、確かにね。


「で俺はこの世界の人間で、来訪者である『隠れ賢者』に育てられた非常識な魔法使いということになっている。みんながそう認識しているわけだ。

 これも間違いじゃないからそれでいいさ」


「??」


「で、摩耶さんの方は?」


 そう呼びかけたらしばらく摩耶さんはじっとたたずんでいた。


「ごめん、そう呼ばれたのは久しぶりだから」


 そうか、感慨深かったか。


 彼女の話によると彼女がこの世界についたのは四年前。

 向こうでの日付を聞いたが確かに俺が転移したと思われる日の四年ほど前だった。


 つまりこちらの一年は地球の一年で大体そろっている。


 そして世界に穴が開く現象は数年ぐらいの幅で、下手をすると十数年という幅で起こる現象かもしれない。

 周期を考えるとそれ以上はないだろうな。


 それはつまりこれからも落ちてくるやつがいるかもしれないということを意味している。どのぐらいの確率なんだろう。


 で彼女が降り立ったのは魔境の中に在る古い遺跡。

 いきなりそんなところに放り出された彼女はパニックに…なる余裕もなかったらしい。なんせ森の中に一人きりだしね。八つ当たりも相手がないんじゃし甲斐がない。


 たくましくもその遺跡を中心にして周辺の探索を始めた彼女だったがすぐに異世界だとあたりをつけることができたそうだ。

 原因はゴブリン。

 地球にはいないしね。

 いないよね?


 まずかったのは火をたいたりしてしまったことだろう。

 ライターを持っていたんだそうだ。雑用で。


 そしてただの森の中だと思っていれば火はつけるだろう。

 で、煙を見て寄ってきたゴブリンと遭遇。

 結構粘って隠れたらしいのだが結局見つかって巣に連行。


「私が運がよかった。連中は斥候だった」


 もし本隊だったらその場で犯されていただろうとあとで言われたらしい。斥候だから仲間の所に連れていこうとしたと。


 結局摩耶さんはゴブリンの巣に連れ込まれ、あわや、という感じだったのだが煙を見てやってきたのはゴブリンだけではなかったのだ。


 その辺りを管理しているマルグレーテ・ラーン女男爵も騎士を引き連れてやってきていたのだ。


 彼女はゴブリンの痕跡と摩耶さんが引きずられた痕跡を見つけて即座にゴブリン殲滅を決定。摩耶さんは何とかぎりぎりで救出されたということのようだ。


「そのあとマルグレーテさまに保護された。でも何をどう話していいのか、どこまで話していいのかわからない。そんな感じているうちに…」


 ゴブリンに襲われてショックを受けたせいだろうという話になったらしく、おそらく家族もいないだろうということでラーン家に居つくことになったようだ。


「持物なんかでばれなかったのかい?」


「・・・」


 この時彼女はほぼ全裸であったらしい。

 なんか服なんかを全部はぎとられて木に括り付けられて、レイプの前の儀式みたいなものが進行していたんだそうな。

 本当に危なかったんだな。


 つまり保護されても彼女は何一つ持っていなかったのだ。


 自分が異世界人だといっていいものかどうか悩んでいた彼女にはこれは好都合で、そのまま知らん顔で女男爵の一人娘のトリンシアと友達になり、一緒に勉強しているうちに『この子には才能がある』ということでシアさんの護衛兼従者に任命された。


 男爵家が貴族とは言いながらそれほど余裕がなかったのも奏功したのだ。

 いい人材が見つかった。ラッキー。みたいな感じだろう。


 で、シアさんにくっついてキルシュに出てきて、現在は十九才なのだが体が小さいことなどもあってシアさんと同じ十六歳扱いになっているらしい。

 本人が言うにはこちらに来てしばらく成長が止まっていたような気がする。といっていた。


「でも加護とかわかっているんなら鑑定は受けたんだろ? それでよくばれなかったね」


「鑑定は自分でやった。鑑定のスキルは持っていた。オードリグル神の加護の中に在る」


 あー、そうか。鑑定は神様の御業だったな。

 だったら勇者が持っていても不思議はないのか…

 ひょっとして勇者ってそんなチートスキルを持っていたりするのかな?

 だったら勇者とか賢者とか言われるのもわからなくもない。


「ん。たぶんなにがしかは持ってる。マリオンさんは?」


「うーん、特にスキルというようなものはないな…」


 魔力回路はスキルじゃないよ、あれは修業で手に入れたものだから。


「やっぱり何かが違うのかもしれない」


 そう言ってマーヤさんは首をひねった。

 この違いがどこから来るのか、わからんから考えても無駄だな。

 気にはなるがそのうちわかるときも来るだろう。


 にしてもこの感じだと結構いろいろな人間が落っこちてきているのかもしれないね。しかも危ないところに落ちてそのままとかもありそう。

 あそこでひどい目にあった。とか思ったけど、こうして生き延びたし、いろいろ手に入れたし、それを考えると俺も運がいい方なのかもしれないな…


 なんて思う。


 まっ、いいや、ネムたちが待っているから何か獲物をとってそろそろ帰ろう。




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