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第45話 盗賊は早く捕まりたい

第45話 盗賊は早く捕まりたい


【ウイナの宿場にようこそ】


 どどーん!


ちょっと引いた。

入り口に二本の柱、太くて顔とか彫ってあるからトーテムポールみたいなやつた。それのでっかいのが立っていて、それをつなぐように上記の看板が掲げられていた。


すごいインパクトだ。


「まだまだ過渡期だからね、いろいろ変なのもあるのよ」


できて間もない街というのはどこもそういう感じがあるらしい。

どんな街になるか試行錯誤していて、特徴もごった煮で方向性が定まっていない。

ここがどんな街になるかはのちの話というわけだ。


 俺たちが歩いてきた街道を『北ターリ街道』というらしい。

領主が管理する道なので日本でいえば県道にあたるのかもしれない。

 主要街道というのは偉い人の管理下にあって、このキルシュ領というところは領主がまじめなので結構よく管理されているらしい。


 二人の話ではこのキルシュ公爵領はコウ王国の中でもかなり暮らしやすい土地のようだ。

 評判がいいんだって。


 そんなわけでこの街道には二〇kmごとに休憩所があり、六〇kmごとに宿場が作られている。

 人間が一日に普通に歩ける距離は三〇kmぐらいといわれているから二日分というところだろう。

 カーゴを使えば一日の距離。


 短いか長いかと考えれば結構長い。六〇kmというのは日本でいえば小さい県一つ分ぐらいの距離だろう。


「ここはターリに行くための新しい街道で、まだ整備が十分じゃないのよね」

「もっと整備された街道だと一日で歩ける距離に宿場があります」


 地形の関係で、ここは三俣の中心点になるらしい。

 北西に行くと冒険者の町ベクトン。南西に行くと領都キルシュに続く街道に出る。


「ここはターリの開拓がはじまってから整備された街道でね、もともとキルシュとベクトンをつなぐルートはこれとは別に水路を使ったものがあるのよ。

今はまだ少なめだけど、ターリとの流通が盛んになるとここももっと開けてくるわ。

うーん、魔族の討伐の影響とかもあるから、結構整備が進むかも」


三つの都市のバランス考えるとんウイナは少しターリによりすぎているのだが、すぐ西が山脈なのでどうしようもないらしい。


山脈から流れてくる川のおかげで小さな湖があり、それに面した水の豊かな街だ。


 この山も奥に行くと『魔境』と呼ばれる場所になる。


 魔境というのは魔物の生息するエリアだ。

 ただそんな御大層なものではなく、地球でいえば自然の勢力の強い土地、という感じだろうか。地球でもジャングルとは言わず、日本の山の名でも原生林などになれば人間が普通に暮らせる場所ではない。


それと同じように自然がいっぱいの山があって、魔物や獣がいっぱいいて、魔力の濃度が濃くて、時々エリアボスとか呼ばれる強力な魔物が巣食っていたり…ってそれは十分御大層な気がするが…


「いえいえ、かわいいものですよ。こんなとび地のような魔境に住み着く魔物なんてたかが知れてます」


「そういうもんですか…」


「はい、被害だって少ないものですよ」


でもその被害の内容も何年かに一度けが人が出る…なんてかわいいものではないのだろな…


「年に十数人てところでしょうか…」


やっぱ異世界は怖いところだ!

そういうのを笑いながら話さないで欲しい。


「あっ、見えてきました冒険者ギルドです」


「よかった~、これで盗賊を引き渡せますね」


「うううっ、よかった…死なずに済んだ…」


 ミルテアさんと盗賊が似たようなセリフを吐いた。


 ◆・◆・◆


 で、ギルドでは盗賊の引き渡しになったわけだけど、あっという間に処理が終わった。

 ミルテアさんの強権発動である。


 盗賊家業をしていたのはやはり正規の冒険者だった。本業が冒険者で副業が盗賊。困ったものである。

 そして冒険者ギルドの人たちは頭を抱えた。

人の暮らしを守るのが冒険者であり、盗賊の討伐というクエストもあるぐらいだ。

事実盗賊狩りの依頼なども何度かあったらしい。


受けているのが盗賊なんだからそりゃ効果なんかあるはずない。

ギルドの大失態である。


 となるとギルド職員といえども人間だ。まず考えることは『本当なのか?』ということだろう。平たく言えば信じたくないである。


 捕まえた盗賊は素直に話をしたが、というかよほど怖かったのか聞かれもしないことまでペラペーラ喋ったがそれで万事解決とはいかないのだ。


 事実確認という名もとに俺たちに厳しい聞き取りのようなものも行われる…可能性があった。だがそこでミルテアの強権が発動した。

というか神殿勢力の強権だな。


 この世界で神官というのはかなり信用があるらしい。なぜなら。


「神官は神様の名のもとに宣誓したことに対して嘘はつけないのよ」


 というのがあるらしい。

 この誓いを破るとしばらくの間ペナルティーとして神聖魔法が使えなくなるのだそうだ。

 神官が神の名のもとに誓いを立て、証言をし、その後【真実の証明】という神聖魔法を使って見せたらそれは間違いなく真実である。


 神様の信用は大きい。

 それゆえに神官は神官たるのだ。


 そして彼女の位階は『司祭』である。これは結構高い地位らしい。


 【祭祀王】【大司教】【司教】【司祭】【助祭】【侍祭】という順番で位階が定められていて、司祭というのは神殿を一つまかされてもおかしくない位らしい。

 司祭様の語る真実に異を唱えることなど貴族でもできない。


 やれば神殿勢力に対する宣戦布告に等しい行為だ。うーん。組織というのはなかなか怖い。


 それに回復魔法というのは神殿勢力の独壇場に近い。

常に危険と隣り合わせの冒険者たちは基本的に信心深いものが多いし、回復してもらう都合もあるので神殿にケンカなど売れないのだ。


おかげで盗賊の処理は極めて簡単に進んだ。といっていいだろう。

 平たく言うと捕まえておいた盗賊を引き渡し、あとはよろしく。と、それだけの話になるわけだ。うん、簡単。


 ちなみに盗賊の持ちものはすべて討伐者のものになった…りはしない。

 いったん全部御上に収めるんだってさ、そのあとで評価額の半分が討伐者の報酬になるらしい。これは故意のそして作為的な盗賊狩りが横行しないようにするための措置だそうだ。うん、残念。


 ◆・◆・◆


 さて、ここまでくるとあとは宿探しだ。


「らっしゃいませ。旅の宿『山際』ですよ~、ご飯美味しいですよ~」

「いらっしゃい、今なら6名様、あきがありますよ~うちは安いッすよ~」

「いらっしゃい、ガモガモ亭にようこそ。風呂が自慢だよ~」


 もろもろやっていたら時間はすでに夕方だ。呼び込みが賑やかで道行く人の袖を引いている。時間的に最後の呼び込みという感じか。

 

 しかしお風呂か、お風呂があるのは…すばらしいな。


 ついふらふらっと引き寄せられたら呼び込みの兄ちゃんがすぐに寄ってきた。


「おっ、にいさんお泊まりかい、うちはいい娘が揃っているよ。器量よしで床上手だ。きっと満足…」


 両手で女の人のボディーラインなんかなぞってなかなか下品な手付きだ。

 うーん。この手の呼び込みの『いい子がいるよ』はなかなか怪しい。

 だがこの世界のありようを考えれば確かに…


「ダメです!」


 がしっとネムちゃんにつかまった。


「あー、ここはやめましょうか」


 ミルテアさんが苦笑する脇でネムちゃんが俺の腕をつかむ。


「行きつけの宿屋がありますからそこに行きましょうか~、少しお高いですけど、マリオンさんも大丈夫ですよね、割り勘で。

 大丈夫ですよ~ちゃんとお風呂はありますから」


 ずるずると引きずられる宇宙人な私。あり?


 二人に引っ張られてたどり着いたのは少し奥まったところにある閑静な宿屋だった。

 まあ、お風呂があるからいいか…


 ということにしておく。






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