第23話 新たな異世界人は二組目の冒険者でした
■ 鈴木真理雄。異世界に落っこちてきた。現在、異世界を探索中。
■ 〝あいつ〟無限炉の中で会った存在。真理雄に魔法を伝授した。
■ ネム。獣族の女の子、ものすごい美少女。白虎の特徴を持つ
■ ミルテア・大地母神ステルアの神官。ハーフエルフ。ものすごい巨乳。司祭様。
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第23話 新たな異世界人は二組目の冒険者でした。
「よう、百花繚乱じゃねえか」
「あら、珍しいわね、二人だけ? クコ達は?」
出会ったのは百花繚乱の知り合いの冒険者パーティーだった。
メンバーは六人。
冒険者パーティーはこれが最大数らしい。
これは六人までをひとまとまりとして機能する魔道具があることに由来するらしい。
まず一人目は俺より頭半分高いガタイのいい戦士の男だ。
金属製の鎧を着ていて背中にでっかい剣を背負っている。
本人の身長に少し及ばないぐらいのでかい剣だ。よくあんな重たそうな物持てるな。
はっ、そうか、これが装備重量軽減スキルというやつか!?
そのすぐ後ろにいるのは魔法使いだと思う。女性で結構露出の多いローブを着ている。ネムちゃんたちと違って大人の女という感じだな。
二十代半ばに見える。
この女性が自分の身長ぐらいの大きな杖を持っていて、材質は木、大きくねじれたもので中に魔法陣のような構造が読み取れる。いかにもな魔法の杖だった。
これが一般的な『触媒』何だろう。
ネムちゃんやミルテアさんは触媒として指輪や小物を使ってたけど、本格的な魔法使いが使うのはこういうものなのかも。
この二人からはベテランぽい余裕を感じるが、後に従う四人はいかにも新人という感じの若者だった。
男二人女二人で見た感じだと『戦士』『斥候』の男、『格闘家』『神官』の女の子かな。みんな十代だろう。
「ロイド君、リリちゃん」
「君付けはやめてくれよ…俺には似合わないからよ…」
「あらかわいいのに」
気心の知れた会話。かなり親しいのかも知れない。
「それでどうしたんだ二人で、と後おまけで」
と思ったら失礼なヤツだね。いきなり人のことおまけはないだろう。
だが文句を言うような雰囲気ではない、聞かれたミルテアさんの雰囲気が一気に曇ったからだ。どんよりどよどよである。
「えっとね…みんな死んじゃった…百花繚乱は壊滅しちゃったの…」
「お…おいおいそりゃなんの…冗談じゃないのかよ…」
ロイドと呼ばれた男は言葉に詰まった。ミルテアさんの雰囲気を見ればそれが冗談でないことは分かるだろう。
「何があったの?」
リリと呼ばれた女性に促されて事情を説明する二人。
場所は近くにあった野営場だ。
森の中なので野営に適した場所というのは限られてくる。
川があって作業できるスペースがあり、見張りのための環境もある。そういうところに自然と人は集まるのだろう。
こういうところが森には何カ所かあるらしい。
「エルダーゴブリンか…マジかよ」
「エルダーゴブリンは大変ね。私たちでもちょっとムリ?」
「最初からエルダーゴブリンがいるのが分かっててちゃんとした準備をして戦陣をしけるならやれる。だが出会い頭だと逃げるのが精一杯かもな…
ましてゴブリン五〇匹?
良く二人とはいえ帰ってこれたな…」
「本当に、良くかえって来てくれたわ…」
二人はミルテアさんの話をかなり深刻に受け止めているらしい。
さすがベテランということなのだろう。
でもベテランでない奴もいる。
「でもこんなところにエルダーゴブリンなんて本当『ばきっ』」
「黙ってろバカが」
軽口を叩いた若い戦士がロイド君に裏拳で殴られた。
「ミルテアちゃんは司祭だもの、嘘は付かないわよ」
「でも勘違いと言う事も…ないですね」
「無いわね。そんな子が長生きできるはずもないもの…でも、信じがたい話なのも確かよね」
「まあな、エルダーゴブリンを倒したってのもそうだし、倒したのがそっちの坊主だってのもびっくりだ」
この世界の常識がないからどの程度信じられないような話なのか実感としては分からないのだよね…
そんなことを思っていたらミルテアさんが魔石を見せてあげたら? みたいなことを言う。
「強い魔物が出て、討伐したら証拠を公表するのいいことだものね」
ふむ、そういうものか…いや、当然か。強力な魔物がちゃんと討伐されたかどうかわからないんじゃ安心できないし、行政だって困るだろう。
俺は背中にしょっていたリュックサックをおろして中から魔石を取り出した。
この二人には俺の収納、しまうぞう君のことはばれているのだが、その二人からあまり大っぴらにしない方がいい、という助言を受けたのだ。
俺が使っているようなものは『宝具』と呼ばれて大変貴重なものらしい。
持っている者が他にいないわけでもないらしいが、目立つことも間違いない。
ほかの人がどんなふうに使ってるのか少し学習するまで隠すことにした。
というわけで生の肉などはともかく、魔石のようなものはリュックサックに入れてあるのだ。
ちょっとデザインが奇抜だが、まあ許容範囲ということで。
「こりゃ凄いな…」
「ええ、こんな立派な魔石…滅多に無いわね…一財産じゃない?」
「それにゴブリンの魔石は五〇は軽く越えてるぞ…本当に良く無事だったな」
仲間の遺体は埋葬したこと、ゴブリンは焼却して処分したことを合わせて伝えておく。
「さて、となるとあまり奥にいくのは得策じゃないな…」
ロイド君は顎をさすりながらそういう。それに斥候の少年が疑問を呈する。
「え、なんでですか? もうたおされたんでしょう?」
「あほか、斥候がそれじゃダメだろうが。
いいか、森の奥から強い魔獣が出てくるというのはなにか理由があんだよ。
もっと強い魔獣に住処を追われたとかだな。
さらに出て来た奴らがそいつらだけとは限らないからな、警戒はしなくちゃダメだ」
「でもせっかくここまで来たんですよ…依頼の月光竜胆だってまだこれからなのに」
彼等は月光竜胆と言うのを取りに来たようだ。
そして森を探索か…あっ!
「そういえば他にも変なの見たんだった」
リンドウではなくゲッコウリュウタンと発音されたので思い出した。
あのワイバーンのこと。ひょっとして関係あるのかな?
俺は二人に、いや、全員に飛竜の話をした。
できるだけ正確に特徴などを…
「そりゃお前さんの言う通りワイバーンだわ」
「するとゴブリンどもはワイバーンに驚いて?」
「うーん、それはどうかしら? ワイバーンは確かに強力な魔物だけど、エルダーゴブリンだってそうそう負けてないわよ?
簡単に追い出されたりしないと思うわ」
「ロイドさんなら勝てますよね?」
拳闘士の女の子がいう。
「ムリだな、上手いことたたき落とせたら何とかなるかも知れねえが、空を飛んでいられちゃ話にならんよ…
攻撃力には自信があるから当てられりゃそれなりにいけると思うが…当てる方法が無ければやられるだけだ」
力関係がわからん。
だがここで根掘り葉掘りは聞けない。
となると連絡事項はこれで終わりだ。
「百花繚乱はこの後、町に戻るんだろ?」
「ええ、勿論ターリの町に戻るわ。ゴブリンの群れのこともワイバーンの事も報告しないといけないから…」
ロイド君はしばらく黙考していた。
そして。
「よし、俺達もやっぱり奥にいくのは中止だ。ここを基点にして周辺で異常がないか二、三日確認し町に戻ることにする。
この周辺でも依頼分の竜胆ぐらいは取れるだろう」
月光竜胆というのは月光魔草と同じで月の魔力で実を結ぶ木の実だそうだ。これは一晩だけではなく月の光を蓄えて実を結ぶ木の実だそうだ。
満月から二、三日が収穫時期、ただし年に二回だけの双月の満月だけの時だけものらしい。
今年は天気がいいので今はかき入れ時だそうだ。
頑張れ、若人よ。
って、いいんだよ、本当は俺の方が年上だから。たぶん。
役割分担としてはミルテアさん達が町に行って急を知らせ、彼等がここを中心に素材を集めながら森の様子を確認する。と言う事のようだ。
そして俺たちはそのままここで一泊することにした。
ミルテアさんにしてみるとこのハンター達は信頼できる相手らしく、安心材料のようだった。
俺もあまり気を遣わなくてすむから助かる。
その日の晩飯は結構賑やかになった。
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「どうだ、いっぱいやらんか?」
ロイド君が小さい袋から酒瓶を取り出して掲げてみせる。
ロイド君は二〇代前半と言うところだろう、俺よりも若干若いがほぼ同年代。こういう気のおけない会話は気楽でいい。
彼が差し出したガラスのような瓶で中に琥珀色の液体がたゆたっている。
彼は瓶から直接一口飲むと俺に瓶を放ってよこす。俺もありがたく口をつけ…
「ブーーーーーッ!」
おもいっきり吹いた。
「なんだ酒は苦手か?」
「すっぱ、マジすっぱ。いや、飲むんだが…これワインだよな?」
「そうだぞ」
くそ、だまされた。
「俺ワインはダメなんだよ酸っぱくて…こういうのを蒸留したのが好きなんだが…」
「ああ、ウイスキーとかブランデーとかか、俺はあれは苦手だな、きつすぎる。量を飲むとすぐに酔う」
ウイスキーとかブランデーのような物はあるようだ。
ちなみに俺はウイスキーが好き。
「ばっか、なにやってんだ、あれは香りを楽しむものだぞ。口の中で広がり鼻に抜ける時のあの馥郁たる香り、喉を刺激する複雑なコク。あるいは喉を焼くアルコール。すばらしいじゃないか」
「お前以外とのんべだなあ」
「いやいや、だから酔っ払うほどの飲まないんだってばよ」
と言うか俺はウイスキー以外は美味いと思わない。
それもあまりスモーキーなのではなくマイルドなのが好きだ。
ロイドはワイン好きであるらしく、楽しげにワインの講釈をたれている。
しかもがばがば飲んでいる。
やはり生水はおなかを壊す可能性があるので水は煮沸するか、あるいは酒で代用するかというのが本当らしい。
ただこいつが飲んでいるのはアルコール濃度が高いししかもがばがば飲んでるからただのアル中だと思う。
こいつの話によると、この辺りはブラウンウエアという茶色のブドウが良く採れるそうで、ブドウをベースにしたお酒が多いらしい。
次がビールのような麦芽系の発泡酒だ。
「そうそう、発泡ワインはかろうじて飲めるかな?」
「ほう、最近売り出されたヤツだ。最先端だな」
そんな話をしていると後から声が聞こえてくる。
「いやあねえ、男って、お酒の話になるとすぐ意気投合して…」
リリさんである。まあ男はそういうところがある生き物だ。
「私もお酒を飲む男の人は~苦手かなあ…」
そういったのはミルテアさんだ。そういう女性も多いのだ。
チラリと見るとロイドはなぜか肩を落としている。
わかりやすいが…どっちだ?
「まあいいや、ところで凄い剣だな…というかそのサイズの剣を振り回せるのか?」
「あ? ああ、もちろんだ、俺は重剣士だからな」
「重剣士?」
新しいクラス登場。
名前からしてバカでかい剣を振り回すクラスか?
「わははっ、俺のクラスは剣重量無視八ってのを持っているからな」
「剣の重さを八割無視できるってことか?」
「そうそう、この前ま『六』だったんだけどな、成長したのさ、目標は九だな、そこまで行くと大概の剣は装備できる。
この剣は少し素材を工夫して軽くなってるんだぜ」
「へーそうなんだ…」
俺ロイドが渡してきた剣をぐっと握ってみる。うん、かなり重いな。持つので精一杯…嫌振れるか?
ブォンと音を立てて剣をふるった。
「ものすごい迫力だ。
なるほどこれなら強力な魔物にも有効だろう。エルダーゴブリンとだってやれるんじゃないのか?」
振り向いたらロイド君が目を丸くしていた。
「おめえすごいな? この剣、軽く作ってあるとはいっても二〇Kgはあるんだぞ。それを振れるってのはお前も重戦士系か?」
「いやあ」
俺はあいまいに笑いながらごまかした。
魔法系がこういうのを振り回してはいかんのだろう。
二〇Kgってのは片手で振り回していい重さじゃないからな…
にしてもスキルってのはすごいな。二〇Kgの剣が八割カットだと四キロになるのか…しかも振るう本人以外にはおもさは変わらないようだし、結構な威力だろうな…
俺はそのまま剣を返す。
ロイドはそのまま絡み酒全開で剣のすごさとか、重剣士のすごさとか講釈を始めてしまった。
良くない酒だなこれって。
まあ、追悼という名目で飲んで居たから多少は仕方ないか?
振り向けば女性達はみんなスヤスヤ寝てしまっている。ちゃっかりしている。なので必然的に男が見張りになる。
ロイドは少年二人に胸を張って応える。
「だから女は可愛いのだぜえ~」
嬉しそうに鼻の下を伸ばすロイド。
だから男はバカだっての。




