78.黄昏時の戦い
山道を封鎖する青銅の魔兵と、残る六体の小悪魔との戦闘が始まった。
「――闇を照らす明かりとなれ。『照明』!」
アイシャが魔石付きの神官の杖から上空に放った照明により、黄昏の暗闇が目映く照らされた。
この明かりにより、夜目が効く悪魔族の視界面でのアドバンテージが失われた。
「メリルゥくん」
「ソーヤ、小悪魔共は、わたし達に任せておけ」
宗谷はメリルゥの声を確認すると、突撃してきた青銅の魔兵の前に立ちはだかった。
「君の相手は僕がしよう。同じ魔術剣士スタイルか。奇遇だね」
宗谷は、直立したまま赤黒い剣を手にした青銅の魔兵に対し、魔銀の洋刀を突き付け、ポーズを取ると不敵に笑った。
◇
六匹の小悪魔は、鍔迫り合いを始めた宗谷と青銅の魔兵の脇をすり抜けていく。
メリルゥが召喚した風精霊が、その内の三匹を阻むが、残りの三匹が、後方で馬車の前方に待機するミア、タット、アイシャ、それぞれに対し強襲を行った。
「わわっ、来た!」
タットは迫る小悪魔に向けてスリングショットを放つが、弾丸はインプの頭をわずかにかすめるに留まった。
小悪魔は勢いのままタットに向かって、手にした鎌を振り下ろした。
「おっと」
タットは鎌の大振りを頭を下げてかわすと、スリングショットを地面に落とし、腰のダガーを引き抜き、空中で弧を描いた。
狙いすました刃の一閃が小悪魔の片翼を斬り落とし、コントロールを失い墜落しかけた処を全力で蹴り飛ばした。
「グギャッ!」
「ふう、危なかった」
片翼になって転がった小悪魔が起き上がれないのを確認したタットは、素早く近寄ると、ダガーで喉を貫いて小悪魔に止めを刺した。そして、すぐ次の標的を探し、少し離れた場所に居るミアの方を見た。
ミアにも鎌を手にした一匹の小悪魔が迫っていた。
攻撃の標的になった事を確認しつつ、ミアは落ち着いて神官の杖を構え、詠唱を始めた。
「――大地母神よ。その慈愛を持って、向かう者の敵意を奪いたまえ。『友好の円環』」
ミアが神官の杖を翳すと、ミアを中心に、半径3メートル程の光輝く法陣が完成し、中に侵入した小悪魔が、惚けて立ち止まった。
敵意解除の神聖術が掛かった事を確認すると、ミアは精神集中を続け、方陣を維持しつつ、周囲の索敵を始めた。
索敵するミアの視線の先では、アイシャが一匹の小悪魔と相対していた。
迫る小悪魔に対し、アイシャは先に魔術による攻撃態勢に入った。
「――魔力よ。魔弾となり敵を討て。『魔力弾』!」
アイシャの杖から直線状に放たれた魔力弾は、小悪魔に直撃したが、詠唱の出来が今一つだったせいか、小悪魔を倒しきるには至らなかった。
「効き目が弱いっ……!」
足が止まり、咄嗟に杖を構えて防御態勢を取ったアイシャに対し、小悪魔の鎌の反撃が迫ろうとしていた。
「ギャッ!」
メリルゥから放たれた短弓の矢が、アイシャを狙っていた小悪魔の心臓を見事に射抜き、一撃で絶命させた。
「……す、すみません、メリルゥさん。助かりました」
「アイシャ、倒す自信がない時は、とにかく足を止めるな。単体相手なら逃げ回ってさえいれば、簡単には追いつかれないからな」
アイシャは頷きつつ、メリルゥの方へ視線を向けると、傍で護衛に当たっていた風精霊が、三匹の小悪魔を全て始末し終えていた処だった。
護衛対象である荷馬車には、宗谷が造り上げた二体の石塊兵が守りを固めていたが、小悪魔がここまで辿り着く事は無かった。
手際良く小悪魔が始末されていく様子を見ていたぺリトンは、構えていた細剣を下ろし、安堵の溜め息を吐いた。
「それっと。……ミア姉ちゃん、大丈夫?」
ミアの神聖術により敵意を奪われ、惚けていた小悪魔を、タットが方陣の外側、背後からダガーによる強襲で斬り捨てた。
「……タットさん、助かりました」
ミアはタットに礼を言うと、方陣を解除し、大地母神に短い祈りを捧げると、回復術を唱えられるよう準備を始めた。
六体全ての小悪魔は護衛隊の活躍により片付き、残るは青銅の魔兵を残すのみ。
◇
「……おや。もう小悪魔は片付いたのか」
宗谷は周辺の状況を確認した後、血達磨になり、荒い呼吸をしながら跪く青銅の魔兵を見下ろした。
宗谷と青銅の魔兵の一騎打ちは、お互い魔術詠唱をする隙を与えず、純粋に剣の技量勝負となった。
結果は、宗谷のワンサイドゲームだった。青銅の魔兵の切傷は二十を超えたが、宗谷が受けた攻撃は、左腕への浅い一撃のみ。
その一撃すら、最上級の防護性能を持つビジネススーツにより、威力は大幅に軽減されていた。
そして小悪魔の始末が終わり、宗谷の援護に駆け付けた風精霊の風刃が、青銅の魔兵の背中を大きく切り裂いた。
後方ではメリルゥやタットが飛び道具を構え、援護射撃を行う隙を伺っている。
「――オオオオオオオオ!」
戦況が多対一に移り変わり、敗北を悟ったのか、青銅の魔兵は、天に向けて吼えた。
「さて……何故ここに居て、封鎖していたか、教えて貰えると助かるな。返答が無ければ、拷問のような事になってしまうかもしれない」
宗谷は魔銀の洋刀をゆっくりと構え、青銅の魔兵の喉に突き付けた。
その時だった。
紅蓮の炎が、宗谷の目の前に居る青銅の魔兵の身体を包み込んだ。
「……炎だと?」
炎の発生源は青銅の魔兵が手にしている赤黒い剣だった。炎は次第に勢いを強め、剣が閃光が放ちながら、崩壊を始めていく。
「自爆攻撃……! 皆、退避を」
宗谷は大声で仲間達に警告しつつ、魔術の詠唱を始めた。
だが、自爆への移行があまりに早い。そして魔術で剣を移動させたとしても、炎を撒き散らした場合、周辺の木々に炎が燃え移り、山火事に繋がる可能性が高かった。
(……女神の祝福による再生がある。爆発を身体で抑え込むべきか?)
「――地精霊よ、大地を砕き大穴を開けろ! 落穴!」
一早く異変に気付いたメリルゥが、精霊術を完成させると、赤く燃え盛る青銅の魔兵の足元の地面が抉れ、大穴が開いた。
崩壊しながら閃光を放つ剣と共に、青銅の魔兵は、紅蓮の炎に包まれたまま、大穴に飲み込まれた。
――そして、爆発音。
地鳴りと共に、精霊術により開いた大穴から、凄まじい火柱が立ち昇った。
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