表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
77/129

77.霧雨降る山道での遭遇

 霧のような細かい雨が降りしきる最中(さなか)、護衛隊の一行は再び移動を再開した。

 夕日は西に殆ど沈みかけ、ようやく目標の山小屋まで近付いて来た頃、突如強い向かい風が吹き付けた。


『怪物だ。気を付けろ』


 荷馬車の先頭を歩き、警戒に当たっているメリルゥの声が、突然、荷馬車の周囲で反響した。

 前方では、メリルゥが立ち止まっている。


「おお、今のは……メリルゥさんの声が反響しましたが?」

「ペリトンさん、これは風の囁き(ウィンドウィスパー)という、音響範囲を絞って音声を伝える精霊術です。メリルゥくんが何かに遭遇したようだ。……ラムスさん、荷馬車を止めて下さい」


 宗谷は御者のラムスに荷馬車の停止指示を出すと、道端に落ちている大きめの石を両手に拾い上げ、魔術の詠唱を始めた。


「――石塊よ。兵と化し我が命に従え。『石塊兵(ロックゴーレム)』」


 宗谷が詠唱を終え、両手の石を投げつけると、二体の石塊兵(ロックゴーレム)に姿を変えた。


命令(オーダー)石塊兵(ロックゴーレム)A、B共に、荷馬車を守れ」


 宗谷は石塊兵(ロックゴーレム)を護衛に付かせると、魔銀の洋刀(ミスリルサーベル)を抜刀し、立ち止まったメリルゥが居る前方に向かった。


「メリルゥくん、怪物とは?」


 メリルゥが指差した方角、十五メートル程先には、赤黒い剣を手にした、全長二メートル程の青銅色の怪物が山道を塞いでいた。

 その周りには、翼の生えた小悪魔(インプ)が八匹。


「……まさか青銅の魔兵(ブロンズデーモン)とは。これは想定外だな」

「ソーヤ、こないだからどうも悪魔に縁があるな。……野良悪魔(デーモン)なんて早々居る物なのか?」

「いや。……『色付き』が魔界から来るには、何かしらの手段が必要です。しかし、これは……道を塞いでいるのか」


 色付きとは青銅の魔兵(ブロンズデーモン)以上の上級悪魔の事を指していた。青銅の魔兵(ブロンズデーモン)は色付きとしては最下級に当たるが、それでも白銀級(シルバー)以上の冒険者が数名で当たらなければ、確勝と言えないくらいの戦闘力を持っている。

 今の護衛隊は三名が青銅級(ブロンズ)の冒険者であり、それに加え、戦闘力の無い護衛対象も居る現状、決して甘く見れる相手では無かった。戦闘力の高くない小悪魔(インプ)も、これだけ数が揃うと厄介である。


「……ソウヤさん、メリルゥさん、敵ですか?」


 後方からミアが心配そうに声をかけた。アイシャ、タット、ペリトンも荷馬車の傍で警戒態勢に入っている。


青銅の魔兵(ブロンズデーモン)が道を塞いでいる。それと小悪魔(インプ)が八匹。仕掛けてくる様子は無いが……ミアくんは神聖術の準備を。アイシャくん、もし戦闘が始まったら、照明(ライティング)の魔術を中心に投げ込んで貰えるだろうか?」


 宗谷の指示に、凛とした表情で力強く頷くミアに対し、アイシャは眼鏡奥の目を泳がせ、神官の杖(クレリックスタッフ)を握り締める手が、少し震えていた。彼女の方は実戦経験に乏しいのかもしれない。


「タット、小悪魔(インプ)くらいは足止め出来るのか?」

「そっちなら大丈夫だよ。青銅の魔兵(ブロンズデーモン)はちょっと無理かも。……おっかないなぁ。オイラ、色付きなんて初めて見たよ」


 メリルゥの問いかけに、タットは苦笑いを浮かべつつ、スリングショットを構えていた。その動作に緊張した様子は無く、小悪魔(インプ)の足止め役ならば、問題無く務めてくれそうだった。


 ぺリトンも青銅の魔兵(ブロンズデーモン)の名を聞いて、驚きの表情を隠さなかった。色付きは、小鬼(ゴブリン)豚鬼(オーク)と呼ばれる妖魔とは次元が違う存在である。無理もないだろう。


「山道を塞いでいる。という事は、リンゲンに行くには、ここを押し通る必要がある。……ペリトンさん。どうしますか?」

「えっ? ……ソ、ソウヤさん、悪魔殺し(デーモンスレイヤー)の貴方なら勝てるのでしょう? メリルゥさんも黄金級(ゴールド)に近い実力と仰ってたではないですか。……ここまで来て帰るわけには。……大損になってしまう」


 ぺリトンは狼狽しつつ、宗谷に悪魔殺し(デーモンスレイヤー)としての実力を確認した。頭の中では冒険者に支払うお金と葡萄酒(ワイン)調達の、金勘定が働いているのかもしれない。


「勝てますよ。ですが青銅の魔兵(ブロンズデーモン)が、何者かの命令で山道を塞いでいるとしたら、この先、これ以上の危険がある可能性を否定出来ません。……勿論、気まぐれに塞いでいる野良悪魔(デーモン)という可能性もありますが」


 宗谷はペリトンに説明しつつ、前方の青銅の魔兵(ブロンズデーモン)を睨みつけた。向こうから仕掛けてくる様子はない。かといって、退()く様子も無いようだった。


「ペリトンさん、押し通るなら、わたし達から先制攻撃を仕掛ける。退くならば、わたしの風精霊(シルフ)やソーヤの石塊兵(ロックゴーレム)(デコイ)にしながらこの場から撤退する。……どうするかは、依頼人の貴方が決めて欲しい」


 メリルゥがペリトンに決断を迫った。

 視線は青銅の魔兵(ブロンズデーモン)に向けたまま、精霊術の詠唱を行う体制に入っている。いずれにしろ風精霊(シルフ)は召喚するつもりなのだろう。


「……メリルゥさん。私は葡萄酒(ワイン)を調達する為、リンゲンへ行きたいのです。どういった理由で青銅の魔兵(ブロンズデーモン)が道を塞いでいるか、私には見当が付きませんが……付かないからといって退く理由にはなりません。……貴方達の力で(らち)を明けて貰えるでしょうか?」


 ぺリトンは、先へ進む選択を示した。ならば、依頼人の要望に応える必要があるだろう。

 宗谷とメリルゥは一瞬お互いの顔を見合わせると、小さく頷いた。


 霧雨が降りしきる薄暗がりの中、戦闘が始まった。


「――魔の蛇よ、目標を追尾し喰らい付け。追尾魔力弾(ホーミングミサイル)


 宗谷は魔術の詠唱を完成させ、五指から魔力弾による先制攻撃を、青銅の魔兵(ブロンズデーモン)小悪魔(インプ)の集団に向けて放った。


【――魔ノ蛇ヨ、目標ヲ追尾シ喰ライ付ケ。追尾魔力弾(ホーミングミサイル)


 宗谷にやや遅れる様に青銅の魔兵(ブロンズデーモン)が同術の詠唱を始め、やや遅れる様に空いた手から魔力弾が放たれた。どうやら魔術を行使できる厄介なタイプの青銅の魔兵(ブロンズデーモン)らしい。

 ただ、宗谷が五発の魔力弾を放ったのに対し、青銅の魔兵(ブロンズデーモン)は三発。差し引き二発の差が魔術の実力差とも言えた。そして、相殺出来なかった二発の魔力弾が二匹の小悪魔(インプ)に炸裂し、撃墜した。


「――四方(よも)に吹く風の精霊よ。メリルゥの名の契約を(もっ)て、その姿を顕現しろ。『風霊召喚(サモン・シルフ)』!」


 宗谷に続き、メリルゥが詠唱を完成させると、旋風(つむじかぜ)と共に半透明の乙女の姿をした風精霊(シルフ)が姿を現した。


「悪魔共、死にたいならかかってこい! わたしと風精霊(シルフ)が相手になってやる!」


 風精霊(シルフ)の召喚を終えたメリルゥが、短弓(ショートボウ)に矢を(つが)えて勇ましく叫ぶと、青銅の魔兵(ブロンズデーモン)と、六匹の小悪魔インプが、此方に向かって一斉に飛びかかって来た。




『面白かった』『続きが気になる』と思われましたら、

広告下の☆で応援を頂けると大変励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ