14.冒険者等級について
「ソウヤさん。まず、お話を始める前に。冒険者について、どのくらい御存知ですか?」
「ある程度はミアくんから話を聞いています。冒険者等級に応じて、ここで仕事を斡旋して貰えるらしいですね」
「大まかな流れはそうなりますね。話が早そうで助かります。では、そのつもりで話しますね」
宗谷は二〇年前、冒険者として活動してたので大体冒険者等級のルールを知っていたが、あえて初心者の振りをしてルイーズに聞く事にした。あの頃から二〇年経過しているので、何か規則に変更があるかもしれない。ミアの話だと冒険者ギルドに初回費用が必要になっているらしいので、その辺りも聞いてみる必要がありそうだ。
「最初は白紙級という仮免許の状態。何件か依頼をこなして実力が認められれば、青銅級として正式なギルド員になる事が出来ます。上位の実力を手っ取り早く証明可能な依頼ならば、早ければ一件で終わりますね」
「白紙級。そんな等級が。……いえ、ミアくんが青銅級だったものでね」
早速、二〇年前との変更点が出てきた。ルイーズの言う白紙級というのは、宗谷にとって聞き覚えのない冒険者等級である。二〇年前は青銅が始まりの等級だった筈なので、さらに下の冒険者等級が出来たという事だろう。
「ええ。ごめんなさいね。冒険者も昔と比べて質が落ちてきているので。だからこういう仮免許の等級が必要になってしまって」
「しかし白紙とは。金属類では無いんですね。どうして紙なんでしょうか。もしや、ペーパーとぺーぺーをかけてらっしゃるんですかね」
宗谷は適当に思いついた、親父ギャグを言った。
我ながら下らないと、宗谷は言った事を後悔したが、予想に反してルイーズは、ほんの少しの笑みを浮かべていた。
「あは、やだ、ソウヤさん、勿論違いますよ。まあ、ペーペーというのは確かにそうですね。……冒険を志す新人は五人に二人くらいの割合で、青銅級になる前に冒険者の道を諦めてしまってます」
「──なるほど。数回の依頼で辞めた者は、青銅級に値しないという事かな」
「そうですね。思ってたのと違うとか、命のやり取りが怖くなったとか、実力不足を悟ったとか、理由は様々ですが。いずれも冒険者としての適性が低かったという事に違いはありません。そういった冒険者未満の方々にも、青銅級のギルド証を発行していた事が、色々な点で問題視されていました。それに伴う規約の改正が行われたのが、六年前の事です」
ルイーズは席を立つと、奥にある引き出しから一枚の記入用紙を取り出し、宗谷の目の前に置いた。
「白紙級とは、単純にこういう事なんですよ。ここに切り取り線がありますね。書類記入確認後、ここにギルドの証明印を押すと、この部分が白紙級の冒険者証という扱いになります。切り取って青銅になるまで仮免許として、手元に保管して頂く形になります」
「なるほど、お手軽に作れてコストもかからない。一石二鳥と」
「ええ。青銅のギルド証は名前と番号を刻印するのに時間がかかりますので、こういう形を取っています。そこからは、実力と貢献度に応じて白銀級、黄金級、白金級……あと、一応、最上位に魔銀級という等級がありますが、現在、ギルドに在籍してる魔銀級は本部所属の二名だけです。支部のここにはいません」
「なるほど、伝説な存在だ。と、なると、実質は白金級が最高の等級かもしれませんね」
「ええ。それすら在籍者数十名の狭き門です。実際は黄金級があれば、ほとんどの依頼を受ける事が可能なので、大半の冒険者が目指すのは黄金級ですね」
白紙級以外の説明は、おおよそ昔通りなのを確認し、宗谷はルイーズが手渡した記入用紙に羽根ペンを走らせた。
「ルイーズさん、終わりました」
「確認します……はい……ええ、特に問題は無いかと。ソウヤさん、お疲れ様でした」
ルイーズは一通り記述に目を通すと、宗谷の名前と職業がサインされた部分の上から、冒険者ギルドの証明印を押し、続いて鋏で四角形に切り離した。
「はい、仮免許です。一応、白紙級の内は、そこまで重要な効力は無いですから遺失による再発行も容易ですけど、なるべく無くさないようにお願いしますね」
「了解です。ははは、流石に紙はちゃちですね。一刻も早く青銅の冒険者証を手に入れなくては」
宗谷は紙で出来た仮免許を指で掴み、もてあそぶと、ビジネススーツの胸ポケットにしまいこんだ。
「冒険者等級の説明は大体わかりました。ところで、冒険者ギルドに加入するのに、ミアくんに費用が必要と聞きました。銀貨五〇枚と聞きましたが、さっき話した通り、今持ち合わせがないものでね」
「白紙級は登録無料です。正規会員になる為に必要な、青銅級の冒険者証を発行する際に、銀貨五〇枚の手数料を頂ければ結構です。手持ちがない場合は報酬から天引きにも出来ます」
「ああ、なるほど。わかりました。今すぐ不要なら助かります。また借金を重ねる羽目になる処でした」
宗谷は安堵した。いきなり銀貨五〇枚が必要というのは、ミアの勘違いだったようだ。ただ、必要になる事は間違いないので、その分も費用として頭に計上しておかなくてはならないだろう。
「後は一応、白紙級単独で依頼を受ける事は禁止されています。青銅級以上の冒険者に付き添ってもらう事になりますね」
「まあ、仮免許と聞いて、そうだろうとは思いました。単独での依頼は受けられないと」
白紙級の出来た経緯は、割と単純で分かり易いものだった。冒険者の新人の内、五人に二人も辞めてたのには驚いたが、言われてみれば、そんな物かもしれない。新入社員の離職者が多いというのは現実世界においても例外ではなかった。
「ソウヤさん、青銅級の付き添い、もし良ければ私に手伝わせて下さい」
ソウヤとルイーズの会話を見守っていたミアが、ようやく出番が来たとばかり、二人の会話に入ってきた。
「ミアとソウヤさんが組むのであれば、パーティーとして成立してますね。少人数向けの最低限の依頼は提供出来ます。……ただ、二人でも構わないとは思うけど、パーティーのバランスが問題かしら?」
「……えっと、ルイーズさん、何か問題ありそうでしょうか」
バランスについて言及するルイーズに対し、ミアが不思議そうな表情を浮かべる。
「ミア、貴方は神官で、ソウヤさんは魔術師。二人とも前に出て戦えないのは、バランスが良いとは言い難いわ」
「ルイーズさん、ソウヤさんは前に出ても、とても強いです。野盗の集団のほとんどを素手でやっつけていました」
ルイーズはミアの言葉を耳にすると、一瞬にして笑顔が真顔に変わり、咄嗟に手前に座っているソウヤの手を取った。
「……嘘。私が実力を見誤るなんて。その話、本当なのかしら?」
ルイーズは驚いたような表情で、じっと、宗谷の開いた手のひらを見つめている。その様子を見て、ソウヤは目を細め、薄い笑みを浮かべた。




