129.情報交換
(……セイレンくんも、フィリスくんも一癖ある。……セランくんも同伴していると言っていたな)
宗谷は使魔のシャミルが、セイレンたちのパーティーで上手くやれているかどうかが不安になっていた。
シャミルはコミュニケーション能力は高かったと思うが、割とお調子者な処がある。文化の違いというものもあり、人間関係の機微が分かるのかどうか。
ただ一応、全員リンゲン救援で顔を合わせた仲で、強さの面は全く心配していない。そして能力的な相性だけ見れば間違いなくマッチする。
ただチームワークは能力の相性だけで決定づけられるものではない。とりあえず、それについては帰ってから聞いてみるしかないだろう。
「ソウヤ。赤角について、もう少し詳しい話を知りたいのだが」
「ベルモントくんの興味をひいたかな」
「……ああ、かなりな。もし仕留める事が出来れば魔銀級に昇級できる数少ないチャンスだ」
そうベルモントは息巻いていたが、リタはそれを白けた様子で見ていた。
「ベルモント。魔銀級なんて勲章でしかないよ」
「リタ。名声を追い求めるのは勇者の血の性だ。それに、ロザリンドに並べるまたとない機会。対等になれた暁には今度こそ『赤い月』に彼女を迎え入れる入れてみせる」
「……それは無理じゃないの。二度もフラれてるのに」
どうやらロザリンドをパーティーに迎え入れたいという考えがあるようだった。
『赤い月』は見た処、精霊使いは居ない。パーティーバランスは良くなりそうである。
「ベルモントくん。僕が目撃した情報で良いならば、明日までにレポートをまとめておこう。王都で情報共有してくれて構わない」
「それは助かる。……ソウヤの質問に答えようか。何が聞きたい」
ベルモントが質問を促した。ここからは宗谷のターンである。
宗谷はまず、何よりもベルモントに聞きたかった事を問いかける事にした。
「ベルモントくんは、普段から黒タイツの格好で活動を?」
「……なんだって?」
「いや、うちのメリルゥくんが気にしていたのでね」
──沈黙。
ベルモントは不意をつかれ、呆気にとられた表情を浮かべている。リタは明後日の方を向いた。
「……ぷぷっ」
そして噴き出した後、笑い顔を隠すように湯の中に潜ってしまった。
「ふふ、あははははは」
数秒ほどして顔を出したリタは、なおも声を出して笑い続けていた。
「……リタ。何故笑う」
「あは、だって。……やっぱりあのタイツ、傍から見たらおかしいよ。……一応ソウヤに説明した方がいい」
「……私は着こなしているつもりだったが。それにステラは褒めてくれたのだが?」
「それはね、ステラが幼馴染である貴方にベタ惚れだから。真に受けたら駄目だと思うよ」
薄笑いを浮かべながら説明するリタに対し、ベルモントは不機嫌そうな顔を浮かべた。
「ソウヤ。……あの衣服はベルモント家に代々伝わる魔法装備だ。着用した者に合わせて肌に張り付き、一切の行動を阻害しない逸品。それでいて強力な魔法が掛かっている。私みたいな魔術戦士にとっては最良の装備と言っていい」
ベルモントは真顔で力説した。どうやら代々伝わる家宝だったらしい。
家に伝わるという事は、彼の親や先祖も身に着けていたという事だろうか。
「なるほど。強化と再生か。……僕の着ているスーツもそうだ。魔術の師匠に当たる人物からの貰いものでね」
宗谷は理解を示したように言った。宗谷が女神エリスから貰ったビジネススーツと同じ性能のようである。
魔法装備に修復能力があれば、消失しない限り半永久的に使える事を約束されている。代々伝わるという点に嘘はないだろう。
「なるほど。あの奇抜な格好はその為か。……ソウヤ、御互い装備には苦労しているようだな」
「いや、あのスーツの恰好を気に入っているよ。僕は苦労してはいない」
宗谷は同意せず、ベルモントに返答した。
「……私も気に入っているのだが?」
「では、ベルモントくんは街中でもあのタイツの格好で行動を」
「……いや。普段は上から外套を羽織っている。今の時期は寒いからな。防寒性能の面からすると一枚では流石に厳しいものがある」
「なるほど。外套で覆い隠しているのであれば、問題はないね」
「問題とはなんだ。……おい、ソウヤ。そんな事が聞きたいのではないだろう」
ベルモントが苦言を呈しつつ、再び宗谷に質問した。
「ああ、すまなかった。……僕が知りたいのは六英雄の事。王都ドルドベルク本部所属、薔薇のロザリンドについて。それと他の六英雄の所在を知りたい」
その質問に対しベルモントが表情を変えた。リタも宗谷に視線を送る。
「それは赤角の対策か? そこまでの強敵か?」
「イルシュタット一つなら飲み込める可能性はあると思う。慎重な悪魔だからまだ力を蓄えるかもしれないが。後は黄金の勇者と白の聖女が行方不明と聞いたが本当なのかな。……そういった事情についてあまり詳しく知らないんだ」
「六英雄の居場所。あたしが知っている話でよければ」
リタが手を挙げた。
「黒騎士ブラド様なら、あたしが連絡取れる」
「……黒のブラドと連絡を取れるのか?」
「一応は。あたしは黒鉄の塔の出身だから」
黒鉄の塔。
闇妖精を中心とした混沌神を崇める宗教結社にして、生活共同体。──と、表向きはなっていたが、少なくとも二〇年前は、莫大な御布施と引き換えに暗殺や特殊工作などの仕事を請け負っていた。
六英雄とは和解にこぎ着けるまで敵対関係にあった事もある。そして六英雄の一人、黒のブラドと縁の深い組織であった。
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