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126.獅子魔王殺し

「その魔将殺し(デーモンスレイヤー)の宗谷であっているよ」


 宗谷は王都所属の冒険者三名にそのように伝えた。

 紳士ぶった、という一点が少し気になったが、今は特に言及はしなかった。

 王都では残念ながらそういう広がり方をしてしまったのだろう。伝聞というのは得てして当てにならないものである。


「……なるほど。メリルゥだったかしら。貴女も白銀の魔将(シルバーデーモン)討伐に参加したの?」


 お互い少しの間、沈黙が生まれたが、その中で口を開いたのは闇妖精(ダークエルフ)のリタだった。

 メリルゥとは一発触発の状態になっていたばかりである。

 

「……一応な。居合わせはしたけど倒したのはソーヤ一人だよ。毒虫の群れを召喚されてな。わたしも、そこに居るミアも死なないように持ちこたえるので精一杯だった」


 メリルゥがそう言うと、ミアもそれに応じるように頷いた。


「それでも白銀の魔将(シルバーデーモン)と対峙して死ななかった。……なるほど。侮った事はお詫びするわ。よろしく」


 リタは態度を一転させてメリルゥに握手を求めた。ただの白銀級(シルバー)ではないと判断したのだろう。

 メリルゥもそれに応えた。御互い面持ちは硬く、二人が内心どう思っているかはわからないが、少なくとも表向きは仲直りといった形になり宗谷は安堵した。


(……あの死闘の経験は活きている。メリルゥくんは臆さず立ち向かう事が出来た。絶対的な形勢不利でも諦めず立ち向かえるだけの気概がある)

 

 どのような形にしても一度白銀の魔将(シルバーデーモン)といった規格外の怪物と対峙し生存を果たしたという事は大きな経験となる。

 あの古砦の礼拝堂に居たのは宗谷を含め五名。戦意喪失してしまったレベッカはともかくとして、メリルゥやミア、既に引退してしまったがトーマスといった者も、圧倒的な存在に臆しつつも敢然と立ち向かっていた。

 それはあのレベル以下の怪物ならば、対峙しても臆せずに立ち向かう事が出来るという証明でもある。


「ちょっと待ってくれ。……ソウヤ。貴方は本当に一人で白銀の魔将(シルバーデーモン)を倒したのか」


 赤毛の黒タイツの青年、ベルモントが両腕を広げて宗谷に尋ねた。一々オーバーアクションが目立つ男である。宗谷はわずかに視線を外して会話をする事にした。


「ベルモントくん、一人というのは齟齬があるな。当然ながら仲間の援護は受けている。流石に単独で立ち向かえる相手ではないだろう」

「いや、あれは一人といってもいいんじゃないか。わたしはそう思うけどな。だからこそオマエだけが魔将殺し(デーモンスレイヤー)を名乗っているんだからな」


 メリルゥが横槍を入れた。彼女はあくまでの宗谷の活躍を強調したいようだった。


「召喚され続ける毒虫や小悪魔(インプ)は、君の召喚する風精霊(シルフ)に受け持って貰った。ミアくんの回復や君の弓矢の援護もあった。一人とは言わないさ」

「けど、あのデカい溜め撃ちで、消し飛ばさなきゃどうにもならなかっただろ」


「デカい溜め撃ち……まさか魔装砲撃(ペネトレイト)か?」


 ベルモントの表情が明らかに変わった。今までは魔将殺し(デーモンスレイヤー)と聞いてもまだ何処か下に見ていた雰囲気があったが、今のでそういった空気はなくなったように感じた。


「それが出来るなら屈指の実力者である事は疑いようはない。……なるほど。イルシュタットの冒険者と情報交換をするつもりでこの依頼を受けたが、これはわざわざ王都から来た甲斐があったな」

 

 そう言い終えると、ベルモントが腕を組みながら宗谷を凝視した。

 先ほどの彼はミアやメリルゥに下心込みで目がいっていて、宗谷は眼中になかった様子が窺えたが、優れた魔術戦士と知ってからは、その興味が宗谷に移っていたようだった。


魔将殺し(デーモンスレイヤー)ソウヤ」

「……なにかな、ベルモントくん」

「明日、一度手合わせ願えないだろうか。貴方の魔術戦士としての実力に興味がある。もしやイルシュタット最強とされる鉄槌のランドよりも上なのか」

「さあ、ランドさんはまだ一度も会っていない。今は深奥の迷宮(ディープダンジョン)にいるようだね」

「いや、私がロロアに出発する前に、王都の冒険者ギルドでランド翁に会った。迷宮探索は切り上げてイルシュタットに引き上げると言っていたな。緊急事態とも」


 緊急事態とは赤角(レッドホーン)の事だろう。その件で呼び戻す手筈はついていた。

 この様子だと、まだ赤角(レッドホーン)が出没したことは王都にそこまで広まっていないのかもしれない。


「私も魔将殺し(デーモンスレイヤー)だ。……まあ、単独でって訳ではないが。かれこれ二体屠る機会に恵まれた」

「二体。ベルモントくん、大したものだな」


 宗谷は素直に関心した。二体となれば、少なくともまぐれ当たりの可能性は大きく減る。彼が白金級(プラチナ)でも屈指の実力者である事は疑いようはなかった。

 

「……いや。私が誇れるものではないさ。その内の一体は薔薇が同伴していた。……いかなる屈強な冒険者も、彼女の実力と実績、そして美しさに平伏するしかない」


 宗谷はその称号を聞き、思わず先程から視線を外していたベルモントを直視した。


獅子魔王殺しアークデーモンスレイヤー、薔薇のロザリンド。世界で六名のみに与えられている称号だ。その内の三名は行方を眩ませ、二名は既に冒険者活動をしていない。……彼女こそが唯一無二の、最強の冒険者だ」


     ◇


 初顔合わせは終わり、明日の朝、改めて依頼についてのミーティングを行う事になった。

 話は脱線し、最初に挙がった手合わせの話は結局うやむやのままであるが、依頼とは無関係なのであまりやりたいとは思わなかった。

 部屋は結局、お互いに用意された四人部屋を使う事になり、宗谷は安堵した。ベルモントと二人きりというのは、流石に厳しいものがあると思った。主に腹筋がである。

 

魔勇(まゆう)ベルモントか。……とんでもないヘンタイに見えたが、強いんだろうな」


 四人部屋に着いたメリルゥの第一声はそれだった。やはりそのように見えていたらしい。

 その台詞で宗谷はついに限界を迎えた。

 宗谷はベッドに突っ伏し、布団を被ると、二人に気付かれないように笑いを発散させた。




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