125.王都の冒険者たち
残り二日の道中も何事もなく、宗谷たちはロロアの街に到着した。
空は夕焼けに染まりつつあり、何処からか鴉の鳴き声が聞こえてきた。
「お疲れ様です。収穫祭は明後日となりますので、明日は王都の冒険者と打ち合わせなどをしつつ、ゆっくりして頂ければ。私は町長宅にいますので、何かあれば来訪して下さい」
宗谷、ミア、メリルゥの三名はゴードンに『水鳥亭』と呼ばれる宿屋兼食堂に案内された。
依頼人のゴードンは町長の使用人で町長宅に住み込みとの事。王都ドルドベルクやイルシュタットの情報が入る立場というのも頷けなくはない。
町長宅は歩いてほんの数分の近場であり、その為にこの宿屋が選ばれたようだった。言った通り、何か用があればすぐ呼びに行くことが出来るだろう。
「四人部屋を一部屋確保してあります。男女共用になりますが……もし問題があれば、王都からの冒険者と話し合って、男女で分かれるのがよいでしょう」
「わたしは問題ないよ。なあ、ソウヤもいいだろ」
メリルゥに尋ねられ、宗谷は頷いた。
「王都の冒険者次第だけど、僕はそれで構わない。……ゴードンさん、王都から派遣された冒険者は来ていますか? 打ち合わせが必要でしょう」
「ええ。予定通りならば今日到着するはずです。確認をしてきましょう」
カウンターの奥にいる、水鳥亭の主人の元にゴードンが向かった。
やがて数十秒ほどすると、ゴードンが戻ってきて頷いた。
「どうやら一足先に到着しているようですね。ここに呼びましょう」
◇
宿屋の上階から三人組の男女が姿を見せた。おそらくは彼らが王都所属の冒険者だろう。
奇しくも宗谷たちと同じ人数、そして男女比だった。
一人目。中央に居るリーダーらしき青年。
燃えるようなルビーのような長髪と同じ色の瞳に、腰には長剣を下げている。体格が良くなかなかハンサムな顔立ちといっていい。
だが、それ以上に目を引く点がある。青年は顔を除いた全身を黒いタイツのような薄手の布でぴっちりと覆っていた。全身の筋肉がタイトな生地越しに浮かび上がっているのがよくわかる。鎧も身に着けていなかったが、股間にカップのような物が入っているのが幸いだった。
宗谷の頭の中に『変態』という二文字が一瞬浮かんだが、なんとか真顔のまま堪えていた。
ここで絶対に笑ってはいけない。対面早々、いきなりこのような試練が訪れたのは想定外である。
二人目。黒髪黒目ショートカットの女性。目尻に小さな泣きぼくろがあった。
鎖鎧を着込み、腰にはメイスと小型のバックラーを下げている。きりっとした顔立ちで、体格もそれなりに良い。
首には戦神の聖印。非常に分かりやすいスタイルだった。ほぼ間違いなく神官戦士だろう。
三人目。銀髪のツインテールの少女。
彼女には珍しい特徴があった。褐色の肌に長く尖った耳。闇妖精である。
腰には長さの異なるダガーを差し、軽装で小柄な体格も相俟って身のこなしが軽そうである。
宗谷は二〇年前、とある組織との抗争があり、構成員となっている闇妖精に苦手意識を持っていた。もしかすると彼女はその組織の出身者かもしれない。
「君たちがイルシュタットの冒険者か。……なかなか素敵な女性が二人。ロロアまで来た甲斐があったな」
顔を除いた全身黒タイツの赤髪の青年はミアとメリルゥにウィンクしたが、ミアは視線を僅かに反らしていた。ともすれば青年の恰好を直視出来なかったのかもしれない。メリルゥはドン引きしたような表情である。
「お、おう……初めましてだな。わたしは精霊使いのメリルゥ。パーティーリーダーで白銀級の冒険者だよ」
「リーダーで白銀級。……流石イルシュタットの冒険者。最低限で揃えてきた。共同依頼なのに」
闇妖精の少女が呟いた。その挑発的とも取れる言葉を聞き、顔をしかめながら無言で睨むメリルゥ。
早くも火花が散りそうな予感がした。
「リタ、止さないか。この依頼は最低一人が白銀級以上という条件だった筈だ。……仲間が失礼を言ってすまない」
全身黒タイツの赤髪の青年が、リタと呼ばれた闇妖精を諫め、頭を下げた。
「自己紹介をしよう。私は『赤い月』のリーダー、ベルモントだ。『魔勇』と呼ぶ者も居る。白金級の冒険者だ」
ベルモントという名前を聞き、ドン引き気味だったメリルゥは、目を見開き驚いた表情を浮かべた。
「魔勇ベルモント……あの有名な魔術戦士か? こんな格好をしたヤツだったのか」
「……メリルゥさん、私の名を知っているとは光栄だな。その有名な魔術戦士のベルモントで間違いない」
メリルゥの質問にベルモントはどや顔で肯定した。こんな格好と言われた事については特に言及はしていない。
(魔勇ベルモント……確か初対面の頃、ルイーズさんが名を挙げていたな)
記憶が正しければ、王都所属の著名な魔術戦士である。魔術寄りとも言っていた気がした。
いずれにしろ白金級という等級からしても、名うての冒険者と考えて間違いないだろう。
「私はステラ。見ての通り戦神の神官戦士だ。よろしく頼む。黄金級の冒険者だ」
「リタ。盗賊。あと混沌神の信者。等級はステラと一緒」
控えていた王都側の二人も自己紹介した。女性陣は二人とも黄金級の手練れらしい。宗谷たちよりそれぞれ二等級上という事になる。
もしかすると二つのギルドの共同依頼という事で、対抗意識の為に本部が手練れを派遣してきたのかもしれない。あるいは、たまたま人材が足りなかった可能性もある。
事情はわからなかったが、とにかく戦力としては非常に頼れそうで、ありがたかった。
「ミアと申します。大地母神の神官です。青銅級ですが、よろしくお願いします」
「ミアか。美しい名前だ。……もし良ければ『赤い月』に」
「ベルモント。その誘い文句を止めなさい」
冷徹な声色でステラに叱責されると、ベルモントはびくっと反応して意気消沈するように顔を落とし沈黙した。リタからも軽蔑の視線を送られている。
リーダーで冒険者等級は一つ上、そして名だたる称号を持っているが、パーティー内の立場は低いのかもしれない。
何とも言い難い格好をしたベルモントと、先ほどのメリルゥとリタの睨み合いが気にはなったが、第一印象としてはそこまで悪くはなかった。実力でいえば手練れだった事は感謝すべきだろう。
「最後になるね。僕はソウヤという。魔術師だ。等級は……」
「今、ソウヤと言ったのか」
宗谷が自己紹介を言い終える前に、ベルモントが反応を示し、言葉を遮った。
「……その奇妙な眼鏡。紳士気取りな雰囲気。まさか悪魔殺しの新人の」
その言葉を聞いたステラとリタも、御互い顔を見合わせた後、訝しげに宗谷の方を見た。




