122.二重の昇級
「ソーヤ様とミアちゃんが追加と。これで三人揃いますね。ソーヤ様が参加してくれるとなると安心感がダントツです。過剰戦力ですかね」
冒険者ギルドのカウンターではシャーロットが待っていた。
普段通りのプラチナブロンドの髪に、胸が強調されたギルドの制服。
彼女とは、逢瀬があって顔を合わせづらかったが、シャーロットは特に気に留める様子もなかったので、宗谷は一安心した。苦手としているのは相変わらずである。
「シャーロットくん、念の為、依頼内容を確認したいな。白銀級以上の案件という事だが」
「はい。白銀級以上というのは先方の指名です。冒険者三名以上、うち戦闘をこなせる者を最低二名。戦力となる白銀級を一名。白紙級はカウントしないと。報酬は金貨六〇枚。経費は出ませんが食事にはただでありつけると思います。理由は後程」
戦闘をこなせる者と二名いう定義には宗谷とメリルゥが該当しそうである。
メリルゥ自身は接近戦はそれほど得意ではないが、弓矢の腕前は確かな物で、なにより切り札である風精霊が高い戦闘力を持っている。
白銀級という条件もメリルゥが満たしている。そしてミアを含めれば参加三名以上という条件もクリアできた。
一見すると最低条件で揃えましたという形だが、魔将殺しが参加しているとなれば要求レベルを高いレベルで満たしていると言えるだろう。
ただ、シャーロットの言う過剰戦力かどうかは、もう少し内容を精査してみる必要がありそうだった。
「街の警備です。王都とイルシュタットの中間辺りにあるロロアって知っていますか? 収穫祭で有名な小さな街ですが、その最中の護衛にと。……毎年恒例の依頼なので信用して良いと思います。催しの最中はどうしても警戒が緩みますからね」
「なるほど。食事にありつけるとはそれか。内容がわかりやすいのは良いな。……毎年恒例という事だが、どういった事が想定されそうかな」
「祭り最中の野盗なり怪物なり外部からの襲撃の警戒。最優先がそれです。あと食い逃げとかありましたら取り押さえて下さい。酔っ払いの喧嘩も酷いようでしたら対処をお願いします。それらは優先順位は低くなりますね。何事もなければそれでよしです」
話を聞く限り、依頼内容は非常にシンプルなものである。
小さな街の周辺の警戒となれば、自らの魔術が活かしやすいかもしれない。
「三人で足りるのかな。先方が三人で良いと言ったのなら構わないが」
「王都の冒険者ギルド本部にも依頼が行っています。リスク分散なのでしょうね。本部の冒険者と顔合わせすると思うので、上手く連携して貰えれば効率よく仕事が出来ると思います」
どうやら王都ドルドベルクとイルシュタットの両方に依頼しているらしい。中間地点の街ならではだろう。
王都に何名要請しているかは不明だが、合わせて六人以上は見込めそうである。
「……王都の冒険者か。ちゃんとしたヤツだといいけどな」
メリルゥが警戒心をあらわにした。
頂点から最下層まで居るのが王都本部のギルドである。メリルゥは玉石混交の石を引いた時の事を考えているのだろう。
「僕の予想だと、毎年の依頼となれば王都の方も悪い人選はしないと思うな。しくじれば来年以降の依頼に関わってくるだろう」
「そうですね。あえて競わせる形にしているフシがあります。使えない人選をしたら来年からはもう片方のギルドに百パーセントの割合で頼みますと。あたしもソーヤ様を送り出せてほっとしています。……あ、まだ迷い中ですか」
「いや、シャーロットくん。この依頼、受けさせて貰おう。ミアくんもいいかな」
ソウヤは依頼を承諾しつつミアに問いかけた。
「はい。ソウヤさんがそのように判断するのであれば賛成します」
ミアも承諾する。これで決まりだろう。
内容が明確なのはありがたかった。気になるのは王都側の冒険者である。こればかりは現地にいかなくてはわからない。
「メリルゥくん、仲良くするように努めよう。目的は一緒なんだ。王都の冒険者にライバル意識を持つ必要はない」
「だといいがな。今回はソーヤの昇級がかかってるんだろ。絶対成功させるぞ」
「あっ。メリルゥちゃんもこれが達成出来れば昇級査定ですよ。
黄金級になれば、あたしとお揃いになりますね」
シャーロットが引き出しから書類を取り出し、用紙を確認していた。メリルゥのデータが記載されているのだろう。
「本当か?」
「断定までは出来ませんけど、メリルゥちゃんなら昇級審査はほぼ間違いなく通りますね。風精霊召喚が出来るのに、これ以上白銀級に留めておく理由がないですから」
「そうか、黄金級か。……まあ、なれるっていうなら嬉しいけどよ」
メリルゥが何とも言えない表情を浮かべていた。照れているのかもしれない。
「メリルゥちゃん、黄金級になったら、引退した時ギルド職員になりませんか。この街を支えるお仕事です」
イルシュタットでは黄金級以上が、ギルド職員として登用される為の条件だった。現場経験を重んじた考えといえるだろう。
現場を離れ現役時代の力を出せない者もいるが、黄金級昇りつめた経験と知見が仕事に活きてくるのは間違いない。頭が良いだけでは務まらない仕事である。
「ん……まあ、考えておくよ。でも、わたしみたいなので職員が務まるのかよ」
「務まります。むしろ森妖精はイルシュタットではあまり見ませんから。重宝されると思いますよ。第三受付嬢の席も空いてますから。メリルゥちゃんは可愛いからすぐ人気出ます」
「受付嬢って流石にそれは無理だろ。わたしにそんな制服が似合うかよ」
「似合うと思いますよ。仕事は少しずつ覚えればいいです。あたしも最初の頃は全然ダメでしたから。ルイーズさんに叩き込まれて今のあたしがあります」
メリルゥとシャーロットの二人は和気あいあいとした様子だった。
黄金級まで登り詰めれば、故郷の森を離れ根無し草となった彼女の将来に一つの道筋が出来るかもしれない。
後は依頼の成功を願うばかりである。
「ソーヤ様」
突然、シャーロットが声をかけた。
「シャーロットくん、なにか?」
「無事帰ってきたら、この間の続きをお願いしたいです」
シャーロットは唇に指をあて、妖艶に微笑んだ。
それを目の当たりにした、メリルゥの何かを察したような表情。
「……続き。ソーヤ、オマエあれか。ついにシャーロットとエッチなこと……むぐっ」
宗谷は咄嗟にメリルゥの口を塞ぐと、小声で囁いた。
「メリルゥくん、静かに。人目がある」
「おい……否定しないんだな。その慌てっぷりはイイコトして貰ったのか。抱き心地はどうだった?」
「魔術指導だ。……内密な事だから騒がないでくれ」
宗谷が顔をしかめて辺りを見回すと、頬を膨らませたミアの冷たい視線が刺さった。
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