119.レンタル
宗谷とシャミルが冒険者ギルドに向かう途中、見知った二人の女性と出会った。
スタイルが良く癖毛の金髪の女性と、細身で艶やかな濡鴉色の髪の女性。
改めて見ると、二人は非常に対照的な雰囲気を持ち合わせているように思えた。
「ソウヤか。元気そうだな」
「セイレンくん。それにフィリスくんか。奇遇だね」
声をかけてきたのは至高神の司祭セイレンである。彼女の隣に居るのは射手のフィリス。
二人とはリンゲンの捜索で同伴したばかりである。奇遇とは言ったが、冒険者ギルドからそう離れていない位置なので、そこまで偶然という訳でもなさそうだった。
むしろ、これまで一度も顔を合わせた事がなかった方が偶然といえるかもしれない。
「お前を探してたんだ。シャミルも一緒なら丁度いい。いい時間だが、昼食は終わったのか?」
「まだ済んでいないよ。これからと思っていた処だ」
「……それなら二人分奢るから、少し話をしようぜ。……今後の冒険に関わる事だ」
セイレンは宗谷が返答をする前に冒険者の酒場の方に向かっていった。フィリスも無言のまま、それに倣うように続く。
「……主。どうします?」
「冒険者の先輩の奢りを無下には出来ないだろう。それに奢りというならば助かるといえば助かるな」
課長になってからは、飲みの席を割と断ったり付き合いが悪くなっていった事を思い出したが、この世界ではそういう訳にもいかない。
魔将殺しの大型新人とはいえ、宗谷はイルシュタットで立場を確立したわけではない。それに、この二人とは赤角討伐で今後も関わる可能性が高かった。
(……そういえば、この二人は共に行動する事が多いと、シャーロットくんが言っていたな)
シャーロット曰く、セイレンとフィリスは同棲していて、とても良い仲との事だった。
良い仲というのはあくまで誘惑のきっかけとして呟いたシャーロットの推測に過ぎないとは思うが、冒険を含め生活を共にしている事は間違いないだろう。
話とは何だろうか。リンゲンや赤角についての事かもしれないが、もし勧誘であれば断わらなくてはならない。
既にミアやメリルゥといった仲間とパーティーを結成している事もあるが、この二人と付き合うとなると、気苦労がとてつもなく高いものになりそうだと感じた。
◇
四人が冒険者の酒場の席に着くと、周囲でざわめきが起きていた。
この二人は白金級が最高位のイルシュタットでは、特に著名な冒険者の筈である。加えて宗谷も魔将殺しとして名が売れているので、実力者同士の集まりと判断されている。今からどのような会話が成されるかを期待しているのかもしれない。
唯一シャミルだけはイルシュタットで見慣れない存在だったが、この三人に混ざって堂々としている時点で、只者ではないと目されていそうだった。
「おい、喧しいぞ、見世物じゃねえんだ」
セイレンは遠慮なく周囲でざわめく冒険者に向けて、騒めきを収めるように促した。
至高神の司祭とは思えないくらいの言葉遣いだが、彼女が神から授かる神聖術のレベルは確かな物であり、外に向ける粗野な態度と、内なる敬虔な信仰心は別物だという事が良くわかる。
「……ったく。二人は好きな物を頼んでくれ。まだ青銅級なんだろ」
「それでは遠慮なく。あと一つの依頼達成で白銀級にはなれると言っていたが」
「ソウヤは今後ストレートで昇級していく。依頼達成回数が足枷になりそうだがな。古い慣習の下らない制度だとは思うが、ルールって事なら仕方がない」
やってきた給仕娘に、それぞれが料理を頼んでいく。
宗谷は色々考えた結果、やや高い中の上のセットを頼んだ。
「それで、セイレンくん。話とは?」
「単刀直入に言う。異次元箱が使える有能な魔術師が欲しい。今までランドってじじいに力を借りてたんだが、そいつは不在なんだよ。こないだ王都の深奥の迷宮の話を少ししたよな。そこから長らく戻ってこない。……くたばっちまったのかもしれないな」
ランドは副ギルド長を務める高レベルの魔術師である。それに匹敵する実力者など早々いない。やはり勧誘をしたいという事だろう。
これについては、あまり色良い返事が出来そうになかった。
「……僕は既にパーティーを組んでいる身だ。もし勧誘なら断りたいが」
「それは知っている。大地母神のミアと組んでるらしいな。仲を引き裂こうなんていうのは私の流儀じゃない。……そこで、この猫の手を借りたい」
セイレンがシャミルを指差した。
物言いからすると、どうやら宗谷ではなく、シャミルの方に目星をつけていたらしい。
「え……私ですか?」
呆気にとられるシャミルに対し、セイレンがギザギザの歯を見せて笑った。
「そうだよ。青銅の魔兵程度なら白兵戦で始末出来るらしいし、魔術と精霊術も中級以上扱える二重術師だ。私とフィリスの足りない技能の隙間を埋められる存在だろ」
そのセイレンの見立ては間違っていない。
確かにシャミルの技能は二人の足りない技能を丁度補うような形となっている。黄金級は堅く、白金級に届いてもおかしくないポテンシャルは持っていた。
そして、丁度シャミルを冒険者ギルドに登録しようと考えていたばかりである。
「報酬は三等分する。レベルの高い依頼になるから、すぐ稼げると思うが。それとは別にソウヤには四パーセントのレンタル料を払ってやる……どうだ?」
報酬的な事を言えばとても魅力的な話だった。セイレンの言う通り、技能的な相性もぴったりだろう。
ただ、技能の取り合わせだけでパーティーが円滑に回る訳ではない。
シャミルがどうか、それと彼女の相方であるフィリスがどう思っているかという問題がある。
「報酬の話は魅力的だが……フィリスくんは、どうなんだ?」
フィリスは急に話を振られた事が予想外だったのか、やや反応が遅れた。
そして、無表情のまま、静かに台詞を紡ぎ出す。
「わたしはセイレンがそうしたいというなら構わないよ」
その反応と声の響きは非常にニュートラルなものに感じられた。
ただ、二人が良い仲とシャーロットに聞いた事が宗谷にはひっかかっている。
セイレンは乗り気のようだが、フィリスがどう思っているのかは今一つ掴めない。彼女に意思決定を委ねているのか、彼女の要望だから渋々従っているのか、どちらとも取れた。
「シャミル。君は?」
「……主はどう思います?」
「正直言えば、稼げるという話は魅力的だ。君の修練にもなるだろう。だが、最終的な判断はシャミルに任せる。決して楽な仕事にはならないだろうね」
その言葉を聞き、シャミルは少しの間、思考を巡らせていたが、やがて意を決したように口を開いた。
「……では、まずお試しという事で一度組んでみてもいいです。もし、実力的についていけないようなら、それ以降は辞退したいですが」
「……よし、交渉成立か。ソウヤ、次の依頼で借りていくことにするぜ。冒険者登録は済んでいるのか?」
「丁度これからしようと考えていた処だ」
色良い返答に大喜びのセイレンに、無表情のままのフィリス。
宗谷はその温度差に一抹の不安を覚えつつも、レンタルが決まった妖精猫の成果を期待したいと思った。
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流石に異世界転移の表紙の壁までは厚そうですが、とても感謝しています!
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