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102.目付きの悪い女司祭

 仁王立ちをしている金髪の女性は、深いスリットの入った戦闘仕様の司祭衣を纏っていた。おそらく彼女も救援にかけつけたイルシュタット冒険者ギルドの精鋭なのだろう。

 長い金髪を靡かせた聖職者の女性。一部の特徴はミアと共通している。異なる点は、一回り大柄で、金髪は強いウェーブのかかった癖毛、瞳は赤の三白眼、そして、吸血鬼(ヴァンパイア)のようにギザギザとした歯が、表情に強烈な印象(インパクト)を与えていた。


「セラン。何恨みがましく睨んでやがる。誰がトドメ刺そうが、どうでもいいだろうが」


 金髪の女性は刺々しい口調で、セランに吐き捨てるように言い放った。彼が金髪の女性を睨んでいたかはわからないが、普段の冷たそうな眼つきから、そう見えても不思議ではなそうだった。


「──別に睨んでない。それに、とどめを刺したかった訳でもない」


 セランは小声で呟きながら、青銅の魔兵(ブロンズデーモン)の胴体にめり込んだ片手半剣(バスタードソード)を引き抜くと、横一文字に薙ぎ払い、青銅の魔兵(ブロンズデーモン)の首を念入りに切断した。


「どうだか。……聖斧ネメシスよ。聖なる誓約を(もっ)て、我が手の中に帰れ」


 切断された青銅の魔兵(ブロンズデーモン)の頭に突き刺さった投斧(ハチェット)──聖斧ネメシスが、金髪の女性の右手に空間転移すると、そのまま手のひらの中に吸い込まれた。

 手の甲には、至高神(ルミナス)聖印(ホーリーシンボル)の紋様が光を帯びて輝いている。先程の台詞からすると、何かしらの誓約と代償をもって、彼女専用の武器になっている可能性が高い。


「……酷い有様だな。夜が明けたら、死者の鎮魂と土地の浄化が必要だ。……と、忘れてた」


 金髪の女性が、宗谷に向かって歩み寄ると、目の前で再び仁王立ちした。本当に目前、と言っていい距離まで、遠慮もなく迫って来ている。あと半歩進めば、彼女の張りつめた胸が接触しそうな立ち位置だった。

 視線が合う。直立状態で、宗谷と殆ど変わらない高さの目線であった。


「挨拶がまだだったな。黒眼鏡の魔術戦士、魔将殺し(デーモンスレイヤー)のソウヤか」

「ええ。以後お見知りおきを。貴方は?」

至高神(ルミナス)の司祭、セイレン(・・・・)。あの根暗と名前が紛らわしいから気を付けろ」


 セイレンと名乗った女性は、うんざりしたような表情で、セランの方を親指で示した。自分が間違える事はまず無いと思うが、言われてみると、名前が少し被る発音があった。

 宗谷はセイレンという名をイルシュタットで既に耳にしていた。記憶に間違いがなければ、彼女は白金級(プラチナ)の冒険者の筈である。

 

赤角(レッドホーン)を見たのか」

「今日の昼頃、南方に飛び立ったのを確認した。今はリンゲンに居ない筈だ」

「怪我は」

「僕は無傷だが、軽傷者が一人居る。生存者の女の子だ」


 爆風を浴びて、微かに首筋の皮膚に痛みがあったが、その事はあえて言わなかった。これから彼女は多くの神聖術を行使しなくてはいけない筈である。怪我と呼べない程度の火傷に力を割く必要はない。

 そして、青銅の魔兵(ブロンズデーモン)の群れと交戦する前に逃した少女の事を思い出していた。彼女は足を怪我している。リンゲンから安全に退避する為に、少女の足の治療が必要になるだろう。


「負傷した子供は安全な状態なのか?」

使魔(ファミリア)猫妖精(ケットシー)に保護させた。ここに戻るよう命令しよう」


 セイレンの矢継ぎ早の質問に対し、宗谷は淡々とした様子で返答した。


「ソウヤさん、いつの間に猫妖精(ケットシー)使魔(ファミリア)なんて」

「ルイーズさん、それについても後程」


 昨夜、成り行きで契約したばかりなので、その事については、特に隠していたわけではない。偶然居合わせた結果としか言いようがないが、経緯も含めて、後でまとめて話そうと宗谷は考えていた。

 

「……青銅の魔兵(ブロンズデーモン)の群れに囲まれて無傷とは、魔将殺し(デーモンスレイヤー)は伊達じゃなさそうだな。治療がてら、先輩風でも吹かせてやろうと思ったが、あてが外れたか」


 セイレンは肩を竦めると、薄く笑いながら、ルイーズの方を振り向いた。


「黒眼鏡の中年と聞いていたが。想像してたのと大分違うじゃねえか。──ルイーズが熱心にいれ込むわけだ」

「え……ちょっと、セイレン、貴方、こんなところで何言ってるの……斬るわよ」

「おい、無駄に愛想振り撒きまくってる癖に、急に乙女ぶってんじゃねえよ」


「ところで、ルイーズさん。タットくん、それとぺリトンさん達は無事ですか?」


 宗谷は険悪な空気になりそうな二人の会話に横槍を入れた。自らが起点となったのが嫌だったというのもあったが、仲間が無事イルシュタットに戻れたかどうかは気がかりな事だった。


「……タットくんは大丈夫。擦り傷だらけで疲労も激しかったけど、命に別状はないわ。ぺリトンさん達も道すがら会いました。山小屋からは、特に何事もなかったと報告を受けています」


 ルイーズの言葉に、宗谷は安堵の表情を浮かべた。目の前にある問題は山積みとなっているが、今日一日、心に引っかかっていた懸念の一つがようやく晴れた。

 

「タットくんには、本当に無理をさせてしまった。申し訳ないな」

「無理をしたのは貴方もです。ミアとメリルゥ、アイシャ、ペリトンさん、疲れ果てていたタットくんも、皆、ソウヤさんを心配していました」


 ルイーズは少し怒っているようだった。危険を伴う行動だったのは承知している。だが、一人の生存者を見つけ出す事が出来た。無謀ではあったが、無駄だったとは言えない筈だった。


「本当に無理をする事が出来れば、討ち果たせた可能性も僅かにあったのだが。実際に、赤角(レッドホーン)を目の当たりにして、身動きが出来なかった」


 宗谷は落胆の表情を見せた。あの場で選んだ、安全策の後悔が全く無いわけではない。災害とも呼べる神出鬼没の悪魔を狩る、千載一遇の機会でもあった。

 女神の祝福(ブレスオブゴッデス)の効力によって、宗谷は一度だけなら肉体の完全回復が可能であり、ある程度の無理は利かなくはなかった。

 一撃必殺の魔装砲撃(ペネトレイト)を撃つ為の、使い捨ての魔石も調達してあった。上手く直撃させれば、魔王化(エレクトラム)が進んでいる赤角(レッドホーン)とはいえ、消滅させられる可能性はあったかもしれない。


「ソウヤさん、一人で抱え込まないで下さい。目にした事を詳しく聞かせて貰えると助かります。……全員揃うまで、一旦この場で小休止しましょう」




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