101.援軍の到着
一人奮戦する宗谷の元に駆けつけたのは、白金級の精鋭、顔見知りであった、ルイーズとセランだった。冒険者としては一線を引いているルイーズが、この場に現れたという事は、リンゲンの壊滅という緊急事態はイルシュタットに伝達したのだろう。
崖上に立つ黒髪の女性もおそらくは、イルシュタットに所属する冒険者ギルドの精鋭の一人。宗谷は見覚えが無かったが、その技量に驚嘆していた。
(崖上まで、一五〇メートル以上はある。──こんな狙撃が有り得るものなのか)
絶命した青銅の魔兵は、頭、首、心臓の三点が射貫かれていた。
いずれも弱点部位で間違いないが、驚いたのはそこではなく、一射で三本の矢を同時に放った事だった。
かつて旅を共にした、黄金の勇者アレス、薔薇のロザリンドも弓矢が得意であったし、宗谷も戦術の技能により高い精度の射撃を使いこなせたが、ここまで桁外れの精確射撃を行える射手は、宗谷の記憶になかった。
「遅れました。ソウヤさん、怪我は?」
青銅の魔兵に迫る宗谷に対し、ルイーズが合流し声をかけた。普段の受付嬢の装いとは違い、凛とした、熟練の冒険者の表情。
同じく接敵を試みているセランは、憤怒の形相で青銅の魔兵を睨み付けている。今にも飛びかかりそうな勢いだった。
「今の処は。それより青銅の魔兵の剣に注意を。処理を誤ると、あのようになる」
宗谷は、数十メートル先、まだ消え止む様子が無い炎を片手で示した。
その言葉は『色付き』に対し、強い憎悪を抱いているであろう、セランに冷静さを促す意味もあった。
「厄介ね。赤角が造ったのかしら?」
「おそらくは。鍔競る分には問題ないが、本体の生命力が弱まると起爆を開始する。腕を落としても駄目だ。だが、どうやら凍結させる事によって、起爆は制御出来るらしい」
「──凍結か。ソウヤさん、俺に任せてくれ」
宗谷の忠告を聞いていたセランは、沸き上がる憎悪を抑えながら、ロングコートから氷晶石を取り出すと、精霊術の詠唱を始めた。
「氷雪精霊よ、得物に氷雪の加護を宿せ。『氷雪武器化』」
セランの詠唱が終わると、宗谷の持つ魔銀の洋刀、ルイーズの双剣、セランの片手半剣、計四本の得物が、白い輝きを放った。
武器に氷雪精霊の加護を宿す精霊術。崖上から放たれる矢も、セランが弓に術を施したのかもしれない。実際通じるかはともかくとして、炎を操る赤角に対し、直感的に効果が期待できそうな精霊術の一つである。赤角討伐に彼の力は必要不可欠かもしれない。
「助かる。これで射撃を待たず、炎の剣を封じられそうだ」
宗谷は言い終えると同時に、接敵した一体の青銅の魔兵に斬りかかると、青銅の魔兵も剣で応戦し、鍔競り合いの形勢となった。
斬撃をあえて反応出来る速度に落としていた事には、気づかなかったのだろう。狙い通り、氷雪精霊の加護を得た魔銀の洋刀から冷気が伝播し、炎の剣が氷塊に覆われた。
炎の剣に纏わり付いた氷塊による急激な重みで、青銅の魔兵のバランスが崩れかけたのを、宗谷は見逃さなかった。
「魔力よ。魔弾となり敵を討て。『魔力弾』」
体勢を整えようとする青銅の魔兵に対し、宗谷は三発の魔弾を時間差で飛ばした。
自動追尾が行われず、手動操作が必要な術だったが、それ故に、射線の引き方、発射のタイミング、弾速の調整、使いこなす術者のセンスによって、大きく化ける術でもある。
一発、二発、そして不安定となった状態からの三発目で、青銅の魔兵は弾き飛ばされ、転倒した。
立ち上がり再起を図ろうとする青銅の魔兵に対し、宗谷は内ポケットから手投げ矢の束を掴み、まとめて投げつけた。次の動作までの空きを使った出鱈目なものだったが、その内の一本が青銅の魔兵の眼に上手く突き刺さった。
【ギアアアアアア!】
宗谷は眼を抑えて呻く青銅の魔兵の首に刃を突き刺した。続けて頭、最後に心臓と、弱点部位への刺突を繰り返す。魔銀で打たれた洋刀は、いとも容易く硬い青銅の魔兵の皮膚を貫通した。
「失敬」
脈動の停止から事切れたのを確認し、刃から血を払い落とした宗谷は、再び索敵を開始した。
崖上に陣取っていた、黒髪の女性は姿を眩ませていた。氷雪武器化による強化を確認し、不確かな遠距離からの狙撃は不要と考えたのかもしれない。
近くではルイーズと、一体の青銅の魔兵の決着が付こうとしていた。
後の先。敵の攻撃動作に対応し、最適解の反撃を用意する。その術中に填まり、青銅の魔兵の全身は夥しい数の切傷で刻まれていた。
もし、この青銅の魔兵の勘が良ければ、反撃によって手痛い斬撃を浴び続けている事に気づいているだろう。
手を止める事が出来れば、術中からは逃れられる筈である。だが、手を止める事は、おそらく許されていない。見敵必殺。この呪縛とも呼べる命令に背けば、心臓が鼓動を止め、絶命する。
愚直なまでに挑み、刻まれ続けた哀れな悪魔が、まとわりつく氷塊の重みで、よろめくのを確認すると、ルイーズは一刀を鞘に収めた。そして、もう一刀を両手に構え跳躍すると、青銅の魔兵の首を胴体から切断した。
(手助けする隙すら無い。──残るは、セランくんが対応している一体)
少し離れた場所で一体を相手する、セランの闘い方は荒々しいものだった。目が血走り、力任せに斬撃を叩き込む姿は、鮮やかな二刀による剣舞を披露していたルイーズと対照的に映った。
復讐に心を支配されている。だが、その憎悪に任せた強打が通じる程には剣の技量があり、そして彼の手にした魔剣は、悪魔特攻の力を帯びていた。
「──薄汚い悪魔が。殺してやる」
両手に持ち替えた片手半剣が、青銅の魔兵の胴体にめり込むと、青銅の魔兵の身体が痙攣し、悶え苦しみ始めた。
悪魔特攻は悪魔族にとって猛毒に等しく、刃が刺さり続ける限り、肉体の組織を破壊し続ける特性がある。セランは苦しむ青銅の魔兵を見て薄笑いを浮かべると、めり込んだ片手半剣を手放し、再び氷晶石を取り出した。
「氷雪精霊よ、氷河の槍を以て──」
その精霊術は完成しなかった。セランが詠唱を終える前に、鈍い音と共に青銅の魔兵の頭部が揺れた。同時に青銅の魔兵の脳天に、複雑な装飾の施された、小型の斧が突き刺さっていた。
(──投斧。新たな援軍か)
「……ハッ、随分と綺麗に当たりやがったな。これが最後の一体か?」
宗谷が振り向くと、暗闇の向こう側に、投斧を投擲したであろう、金髪の女性が仁王立ちしていた。
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