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挨拶に行くと


 それから数日をかけて、俺たちはどんな暮らしにしたいかを話し合った。まあ実はお互い、ほとんどわかっていたことではあるが、もう一度確認のために。それから歩み寄りのために、俺たちは時間をかけて聞き、話した。


 キミーは安眠装置は必ず必要だと言った。うん、そうだろう。それが良いと思うよ。

 俺はいらない。安眠装置なんてなくたって、眠れる。逆に、機械の音が耳に付くことがあるんだ。

「ねえ、昔の道具でね、風が吹くとチリリンって鳴るのがあるらしいよ。それはどう?」

 キミーの機械(パソコン)で画像を見ると、それはガラスでできた丸い飾りのようだ。風が吹くと鳴るってことは、耳で風を感じるってことか。風流だな。

 早速、その“風鈴”を取り寄せ、俺の寝室に付けた。換気システムが動き出すとチリリンと軽い音がする。ガラスの音だ。

 これはとても良いアイテムだと思わないか?

 俺たちはこれを晴れ晴れ荘にも持っていくことにした。お世話になったお礼と、報告もかねて。

 あそこを離れるのは惜しいけれど、良いんだ。俺にはキミーがいるからな。そういうけじめも必要だということだ。


 俺たちが晴れ晴れ荘に“風鈴”を持って挨拶に行くと、いたって普通にオーナーが言った。

「良いところに来ました。ダイチ君」

「へ?」

 居間へ行くと、晴れ晴れ荘の面々が揃っている。

「やあ、ダイチ君、キミーさん、こんにちは」

「あらあ、キミーちゃん、いらっしゃい!」

「こんちは、何やってんですか?」

「家族会議よ」

 家族って。まあ、ここは家族だよな。俺も入りてえなあー、くそ!

「新しいアパートの案なんだけどね?ネットワークが使えて、台所を完備するほかに、何を取り入れたら良いかって考えてるのよ」

 はあ、なるほど。

 前々からオーナーが言ってたもんな。ハードがどうのってな。

「台所は絶対必要だよな、ウチなくてすっげえ寂しいもん。必要なのは、安眠装置。なくて良い人もいるだろうけど、ウチのカミさんは絶対に必要派」

「そうね~」

 みんなも頷いている。

「ここと同じでさ、個室は簡単で良いと思うんだよ。ネットワークが繋がっていれば好きなように使うだろうし。だけど、食事はみんなで一緒にとるようにするのが大前提じゃねえ?だから居心地の良い居間が必要だよな」

「それはそのつもりです」オーナーが言った。

「あとは、規則だろうな」

「というと、ソフト面だな」サトさんが言った。

「そう。例えば、食事の準備や片づけは持ち回りでやるとか、居間で携帯端末を操作しないとか、食事はできる限り一緒に、とかそういう決まりは初めからきちんと決めておくべきだ」

「あんまりきちんと決めすぎてもよくないわよ?どんな人が来るかはわからないんだし」

 オーバさんが言った。

 まあ、それは分かる気がする。この家にデヴィが馴染めなかったように、そういう人が来た時に柔軟に対応できなければ意味がない。

「それはそうだけど、大きな決まりだけは作っておかないといけないと思う。それがダメなら入居不可にするんだよ」

「それで上手くいきますかね」

「わからねえけど、なあなあになっちまうよりは良いと思うよ?」

 俺が言うと、トコロさんが大きく頷いた。

「じゃあ、あと必要なものはなんですか?」

 オーナーが聞くと、みんなはまた斜め上を向いて考え始めた。どうでも良いけど、人間って考えるとき、どうして斜め上を見るんだろうな。

 斜め上を見たからかどうかはわからないが、俺はもうひとつ気づいた。

「親しき仲にも礼儀あり、ってとこかな」

 俺が言うと、キミーが俺の方を向いて微笑んだ。

「それはそうですね。でも、誰でも分かってるんじゃないですか?」オーナーが言った。

「まあな。誰でも知ってる言葉だけど、意外とそうでもない気がする。俺は今回キミーともめた事で、親しいからこそ気を使わなければならないことを痛感したよ。これくらい分かってくれるとか、それくらい知ってるとか、我慢しろとか、そういうのは結構多い気がするんだ。家族だからこそ、一番近くに居る人だからこそ、伝えなきゃならないこともあるし、気を使うべきことも多いと思うんだ。それができて初めて、一緒に気持ちよく生活できるような気がする」

「なるほど。経験者の言葉は一味違いますね」

 オチ君に言われると思わなかったぜ。


次回で最終話です~^^

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