さすがお化け屋敷
警察官は扉を開けると、先に入って行った。
「ついて来てください」
「は、はい」
何、この人。案内してくれるの?
俺は門をくぐって扉を閉めると、警察官の後を追った。
石畳の小道が続き、両脇にはプランターに植物が生えている。って、石だ。本物の石だよ。それに、土じゃん!すげえ!
俺はキョロキョロしながら警察官の後をついていった。すぐ正面には学校みたいな大きな建物がある。しかもアレ、まさかの木造だぞ。
もっとゆっくり歩いて欲しいが、警察官はどんどん歩いて行ってすぐに家の中に入って行った。
ガチャと音をさせて扉を開けると、
「ただいまー」と、言った。
ただいま、って?俺が首をひねっていると、警察官は続けて
「ナオさん、いますかー」
と叫んだ。
「はあい」
奥から声がして、すぐにナオさんと思われる人が出てきた。
で、デカい女。いや、男か?髪の毛長いけど、胸はあるように見えないし、ガリガリだし。しかもこの暗い玄関でサングラスかけてて、昼間なのに何の違和感もなく幽霊に見える。さすがお化け屋敷。
「入居希望だそうですよ」
警察官はそう言い残すと、すぐに玄関をあがり、廊下を通って行ってしまった。
玄関のたたきに残された俺に、その人は言った。
「入居希望?」
「は、はい」
「ここがどんな家か知ってて来たんですか?」
「いやあの、よく知らない、んだけど」
「知らないんだけど?」
その人は、俺の言葉を待った。サングラスの奥の瞳は見えない。何を考えてるのか分かりにくい表情のない人だ。それがボーっと空気に溶けそうなくらい存在感がない。マジで幽霊なんじゃないの。
「俺のロボット捨てたら、嫁に捨てられた。金はある、ここに住ませてくれ」
「家賃は月4万、現金払い」
「あ、はい!こ、これ、前払いで3か月分」
俺が現金の入った封筒を渡すと、その人は封筒を握り、中を改めもしないで、いきなり不気味に笑った。なにこの、凍りつきそうな笑顔。さむっ。
家賃、激安だし。前金のつもりで準備しておいた封筒で3か月分まかなえるってどんなよ。
「じゃ、どうぞ。靴は脱いでくださいね」
どうやら住ませてくれるようだ。俺はホッとして靴を脱ぎ、やっとその家にあがることができた。
「説明とかしますから、とりあえず居間にどうぞ」
「はい」
幽霊、じゃなくて、その人の後ろをついて暗い廊下を歩いた。ギシギシと床が鳴る。って、何この床。もしかして、コレも木?ちょっと、すごくない!?この家、全部木だよ。感動しながら歩いていると、明るい部屋に出た。
居間というか、ダイニング?そこには10人以上がかけられるくらいの、大きな机があった。この机も一枚板の木材でできたものだ。これもすごい。駆け寄って頬ずりしたいのをグッと我慢したが俺の鼻息は確かに荒くなっていた。