もう一度押してみる
高い壁にはめ込まれるようにして、高さのある大きな門が構えている。華やかな彫刻がしてある、木の門だ。
「木だ」
木製品って高いんだぜ。
こんな大きな門を木で作るって、すっごい金持ちじゃねえの?
お化け屋敷だと思っていたけど、この門を見たら急に興奮した。
機械じゃない。灰色じゃない、俺の求めている、自然味のあるものがすでにここにあったからだ。
もしかして、良いところへ来たんじゃないだろうか。
嬉しくなって、俺はその門を押した。・・・つーか、普通なんかスイッチとかあるだろ。そういうのはない。古いタイプだったら取っ手みたいなのがあるはずだけど、それもない。
この扉、どうやって開けるんだ?
押して開かないから、引いてみたいが、引けるとっかかりなし。
うむ?
「ひらけ~、どあ!」
魔法じゃないか。うむ?どうやって開けるんだ?
体当たりってことはないだろうし、こんな大きな扉、どうやったって飛びこせないし、困ったな。
とりあえず、もう一度押してみる。
開くはずない。
眉間にしわを寄せて、考えたってわからんものはわからん。不動産屋に扉の開け方も聞いておけば良かった。
ていうか、なんかピンポーンみたいなのはないのかね?
俺は壁の方をキョロキョロと眺め、また扉を押して、壁を見て、とウロウロしていた。
「なにしてるんですか?」
突然、俺の後ろから男の声が聞こえた。
「ひえっ?」
ビクったああああ!
あんまり驚いて、他に声が出ない。
振り返ってみれば、そこには警察官が立っていた。俺のことを怪訝そうな顔で見ている。ヤバい、職務質問だ。いや違う、俺は怪しくない。怪しく見えたかもしれないが怪しくない!
って脳内で言っても伝わらないな。
「こ、こここここ」
しかし、声もまともに出ない。
落ち着け―、俺、落ち着けー。
俺が深呼吸をしているのを、警察官は面倒くさそうな顔をして見ていた。
ヤバい。下手なことすると“施設”行きだ。それは嫌だ。
「あのですね、俺、いや、僕、ここ、ここにですね、用があって」
「用?」
警察官、声低~!思いっきり俺のこと怪しんでる。
「そ、そうです!えっと」
不動産屋の名前は出しちゃダメなんだな。なんて言うんだ、えっと・・・
「ここ、あの、ここ、紹介されたって言うか、あのっ、家を探してて」
「もしかして」警察官は俺のデカい鞄を見ながらさらに声を低くした。「入居希望?」
なにその、不吉な声!
ぞぞーっと背中を強張らせながら、俺は頷いた。
「はっ、はいい」
なんとか頷くと、警察官は俺の方へ寄った。俺はよろめくように少し後ろに下がった。すると、警察官は扉の彫刻(のちょっと黒ずんでいるところ)をムンズと掴み、そして左にスライドさせた。
「あ」
そうやって開けるのか。俺はバカみたいに口を開けて見ていた。