表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/53

問題がいくつか


 夕食後みんなでお茶を飲んでいると、オーナーが言った。朝の話の続きだ。

「じゃあ、反対にこの家の悪い点はズバりなんですか?」

「悪い点ねえ」

 そう言われると難しいな。住みにくさや努力が必要なところはあるかもしれないが、悪いと言われると、それはどうなんだろうか。

 みんな銘々に考えているが、多分俺と同じような考えだと思う。気に入って住んでいるんだ、悪い点と言われてもなかなか出てこない。

「ゴミ」

 オチ君が発言すると、みんながあゝ!と気づいた。

 収穫をして調理をするために、ゴミの量が一般家庭と比べものにならないくらい出るんだ。いわゆる生ごみってやつだな。普通家庭では調理をしないからそんなものは出ない。食事と言えばあの噛みごたえがあるのかないのかわからない、甘ったるいドロっとした栄養食で、だいたい全部飲みきれる。食べ残してしまったら機械がそれを処理してくれるから、イマイチ生ごみがどこへ行くのかわからないが、多分直接下水に流されていると思われる。まあ、とにかくこの家では生ごみという一般家庭ではお目にかかれないゴミが大量に出るということだ。

 で、そのゴミをゴミ集積場に持ってかなけりゃならない。普通ゴミはその家に置いておけば、機械が外に出してくれて、それをまた塵芥車が勝手に持って行ってくれる。人間がわざわざゴミをどこかに出しに行くことはしない。だけどこの家では、ゴミはまとめて坂の下まで持って行かなければならない。それはまあ、面倒っちゃあ面倒だ。



 あとは誰もがどこかで考えているようなこと、つまりネットワークや機械のことが話題になった。

「悪いとは思わないけれど、ネットワークが繋がっていないのは時々不便だな」

「そう?ネットワークが繋がっていないから、メールやコールがあんまりこなくて良いんじゃないの?」

 どっちも考えられるな。

「デヴィみたいな人には機械が極端に少ないことが不便だったんでしょうね」

「でも、それも自分でやったり考えたりできることだから、むしろ良いことのように思えますが」

 そうだな。

 つまりさ、その辺りは、良いとも悪いともとれるってことだ。立場や考え方で変わるだろう。



「なんでいきなり、そんなこと言い出したんですか?」

 トコロさんがオーナーに聞いた。

「デヴィのことがあってからですね・・・この家をより良くするにはどうしたら良いのかってことを考えていたんです」

「へえ~」

 誰ともなく感心したような声を漏らした。

 だって、オーナーってさ、なんとなく薄ぼんやりしているような感じじゃん。いや、もう幽霊みたいだとか思ってないけどさ、性格的にもガツガツ行く感じじゃなくて、ゆったりしているような感じ?

 この家の住人を増やそうとか、そういう企業努力みないなのをしているようには感じられないし、実際そういうことを考えない人だと思っていたんだよね。

 それが、デヴィのことがあって、この家をより良くしたいって思ったってことは、できることならデヴィを受け入れたいって考えたってことだろ?来る者拒まず、去る者は追わないのかと思ったら、意外なところでひっそりと去ったデヴィを追っていたらしいことが判明した。


 俺の考えは、まだオーナーの考えには及んでいなかった。どうやらオーナーはただ単に、デヴィをここに迎えたいと思っているわけではないことも分かった。

 それはこうだ。

「新しいアパートを作ろうと思うんです」

「「 新しいアパート? 」」

 全員が復唱した。

 どういう意味だ?新しいアパートって。このアパートだけでもまだ空室はかなりある。さらに作っても誰も来ない気がするが。

「新しいって言っても、このアパートみたいなのとか、逆に今どきのアパートを作るわけじゃないんです。デヴィみたいな人が住んでくれたら良いなって思うところです。それって、このアパートと同じじゃダメでしょう?だから、新しいタイプの晴れ晴れ荘を作りたいんです」

 みんなの顔もなんかモヤっとしているようだった。だけどオーナーはそんなことはあんまり気にしないで話し続けた。

「この家の良いところを取り入れて、悪いところを改善したアパートを作ろうと思うんです」

 うん、それは聞いた。それが新しいタイプの晴れ晴れ荘ってことだろ?

「悪いところを改善って、つまり、ネットワークを繋げるってことですか?」サトさんが聞いた。

「そうです。でも、この家というか、この場所はどう頑張ってもネットワークは繋がらないので、他の、町の中に作ることになるのですが」

「へえ!」

 つまり、2号棟とかそういう感じか。

「ただ、問題がいくつかありまして」

「問題?」

「実はこのアパート、私の名義じゃないんです」

「ええ!?」

 全員でおったまげた。とんだ爆弾発言だ。だって、オーナーって持ち主って意味じゃないのか?オーナーの名義じゃなかったら、本当のオーナーは一体誰なんだよ。

「それで、とにかくまずはこの晴れ晴れ荘の名義をなんとかしなければならないんです。それから、町の方の土地を手に入れて、そこにこの家の造りを真似た新しいタイプの晴れ晴れ荘を作る計画を練りたいのですが、もろもろの登録や書類がどうなっているのかてんで見当がつかず・・・」

 それって、全然ダメじゃん。

「あらあ、私10年以上住んでるけど、初めて知ったわ」

 オーバさん、結構前からいたんだな。そうじゃなくて、そんな古株のオーバさんすら知らない事実。恐るべし。

 だけどなあ・・・この家の良いところとか悪いところとか聞く前に、やらなきゃならないことがあるだろうが。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ