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また来るね


 子どもは「また来るね」と言って帰って行った。

 彼は家に帰ってから、両親と話し合うのだろう。そして離婚していく両親のどちらかについて新しい暮らしを始めることだろう。

 その時、別れた親のことを思い出してまた泣くだろう。あのガキは泣き虫だからな。だけど、きっと捨てないはずだ。それができれば、傷ついた心を覆い尽くすほどの優しさが芽生えるだろう。

「また来るね、か」

 俺は寝台に横になり、一連のことを思いめぐらせていた。

 あの子がまた来たら、今度は泣かせないように、楽しいことでも話したいもんだ。

 無理かな、とフッと笑って天井を見る。窓の外はもう暗い。空はドームに作り物の星がひとつ、見えるだけだ。

 ゴロゴロしながら、オーナーの言葉を思い出す。

「捨てたくても捨てられないもの」

 そうだろうか。家族を捨てる、そんな姿はよく見かけるものだ。

 離婚に始まり、子どもを捨てる親もいれば、親を捨てる子どももいる。だから施設があって、そこには身よりのない人たちが機械と一緒に生活をしてるんじゃないか。自分から捨てられてそこに行く人すらいるんだ。

 釈然としない。

 覆い尽くされた大地のように、何かが不自然だ。

 人と居るのが嫌だから、施設に行く。機械に世話をされる。

 誰かに捨てられたから、施設に行く。機械に世話をされる。

 それで良いのか・・・?釈然としない。


 ああ、そう考えれば、オーナーの言葉の方が理に適っている。家族は捨ててはいけないものなんだ。そうすれば、どれだけ人間が人間的でいられるだろう。

 たとえ捨てたいほどイヤな相手でも、人として接すること、嫌なことから逃げずに違う道を探したり考えたりすることは人間的だ。

 覆われた大地のように、人に対しても覆いを作って安易にそこに逃げ込むなんてそんなことをしていて良いんだろうか。

 だからあの子どもがちゃんと家に帰って良かった。

 彼は逃げずに家族と向き合うだろう。悲しくても自分の中に家族を持ち続けることができる。悲しみを乗り越えて、人間らしく優しくなるんだ。


 俺は、嫁に捨てられた身だけど・・・

 おいてきた彼女を想う。捨てられたのは俺の方だけど、追い出されたんだけど、だけどさ、置いてきちゃったんだよな。

 どうしているだろうか。

 どうしているだろうか。

 勿論生きてるだろうさ。普通に生活しているはずさ。機械が生活を管理して、何もかもをやってくれるんだ。少しの遣り甲斐のある仕事をして、機械や人間と接することで心の健康も保っているだろう。

 彼女の心に、夫だった俺はいるのだろうか。

 俺は彼女を捨てられない。いまでも家族でいたいと思っている。そのことがこんなに辛いなんて、今まで忘れていた。

 彼女はどうしているだろうか。

 そう思いながら、俺は眠りにつくのだった。



 あの子どもの後日談なんて、だれか知りたいだろうか。

 あれから3日後、あの子どもはまた晴れ晴れ荘に現れた。今度は泣いてなくて、ちゃんと堂々と玄関から「ごめんください」と挨拶をしてやってきたらしい。

 俺は仕事でいなかったから、その話しを夕飯の時に聞いた。

「ちゃんとご両親とお話しをして、家族は捨てちゃダメだって話したんですって。偉かったわねえ」

 どうやらオーバさんは事細かに聞き出したらしい。

「ご両親はね、本当は嫌いじゃないんですって。だけど、顔を見るとどうしてもケンカしちゃうから、子どものために、別れようってことに決めたんですって。そしたらあの子が、自分のために別れることを決めないで欲しかったって怒っていたわ。だけどね、ケンカばかりしている空気を見せたくないって気持ちは分かったから、ちゃんと納得して、お父さんについていくことにしたみたい。あの子の提案で、週に一度はみんなで会うことと、近所に住むことが決まったみたい」

「へえ、提案なんてできたんですね」

 偉いな、子ども。

「自分はご両親のことを家族だと思っている、って伝えたら、ご両親もそうだって言ってくれたって、喜んでいたわ」

「そうですか、良かったです」

「良かったわねえ」

「良かったです」

「良かったですね」

 皆が良かった良かったと頷き合っていた。こんなところで、俺たちが良かった良かったと言ってるなんて、ご両親は知らないだろうけど、これが人の付き合いってものかもしれないな。



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