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誰も近寄らない古めかしい建物



 不動産屋は俺の携帯に、地図と物件の名前と住所を仕込んでくれた。どうやらわりと近いところだな、と思いながら歩いて行くと見慣れた高台が目に入った。

「すげえ坂」

 思わずひとり言が出てしまうくらいの急こう配が俺の前にデンと構えている。これを登るのか。ていうかさ、この先にあるのはあの高台の上のお化け屋敷だろ。

 周辺に住む人間たちはそれを“お化け屋敷”と呼んでいる。

 今の時代に似つかわしくない、古めかしい建物がそこだけ異様な雰囲気を放って建ってるんだ。しかもそこに至るまでにあるこの坂道。そして誰も近寄らない古めかしい建物。子どもたちにも「危ないから近づいちゃいけません」と教え込むが、それ以前に子どももそこだけは肝試しとかしようと思わないような、本物志向。そりゃ、お化け屋敷って呼ばれるさ。

「誰か住んでるのかなあ」

 ヒト、住めんのかなあ。

 ちょっと心配になってきたぞ。

 俺ですら、そこに建物があるという事実をなるたけ見ないようにしていたほどの、あの建物に行こうってんだから。

 幸い、俺がこの坂道を上っているところを誰も見ていない。

 まあ、あそこに人間が向かっていくなんて、誰も信じられないだろう。俺だってこの坂道歩きながら、まだ半信半疑だ。

 とはいえ、不動産屋の地図と、そこに記された住所はこの坂の上を指していた。


 携帯の地図と住所をにらめっこして、たどり着いた坂の上で今度は建物の壁とにらめっこだ。

「入口、どこだよ」

 壁しかないし。

 遠くから見りゃ、それは建物だってわかるものだったが、近くまできたら壁なんだよ。それが、左右に延々と続いているが、入口らしい凹みとかが見当たらない。

 とりあえず右のほうへ100メートルほど歩いて入口を探した。

 うん。壁。

「ない!」

 どうしようか。あっちに戻って反対側を見るか、このまま壁伝いに行けるところまで行ってみるか。

 若干途方に暮れながら、高台から下界を眺めた。

 灰色い街が広がっているのが見える。四角い高い建物がひしめき合っている街並み。全てを機械に頼って生きる人間たち。

 こうして見ると、死んでいるみたいだ。

 うすら寒い感じがして、俺は視線を壁に戻した。

 このまま歩こう。壁伝いに行けば、どこかに入口があるだろ。

 あの灰色の町にいるより、こっちの方がきっと、きっと、生きてる感じがするはずだ。


 左に壁を見ながら、俺は歩いた。

 ふと、音がないことに気づいた。音がないというか、町に居た時とは違う音が聞こえるんだ。町ではある一定の機械音がいくつも重なって聞こえていたが、それがない。だから静かに感じるけれど、ここはここの音がある。

 町とは違う、もっと静かで優しい音だ。

「なんの音だろ」

 機械の音じゃないことは確かだけど、スーっと言うか、カサカサというか、なんか軽い音だ。良く聞けば、ひとつの音じゃなくて、数種類の音が聞こえるようだった。

「ああ、」

 この音は知ってる。水の音だ。水が流れる音だ。

 機械から流れてくる「流水」の音に似ている音だけど、もっとずっと静かな音が、耳にしみ込んできた。

 その音に誘われるように歩いて行くと、壁は左に曲がり、そこに大きな門が建っていた。


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