裏庭への出入り口
昼食を食べた後、オーバさんに連れられて家の裏側に行った。そういえば、この高台に初めて来た時、かなり長く塀が広がっていた。てことはここの敷地は俺が知っているだけじゃなくて、もっと広いはずだ。俺が知ってるのは外の門からこの建物の門までの小道とこの建物だけだが、どうやら裏手に畑があると言う。
台所の奥の方、いつもトコロさんがいる作業台の向こう側に扉があった。そんなところに扉があるなんて知らなかったが、どうやらここが裏庭への出入り口のようだ。
靴を履き、扉を開けると、灰色い塀が見えた。ここから5メートルくらいか。その塀の中ほどに、もうひとつ扉があって、オーバさんはその扉を開けた。
―― サアー
一瞬風が吹きつけてきて、思わず目をつぶってしまった。そして恐る恐る外を見た。
「うわっ」
俺の目に飛び込んできたのは、緑色の世界。そして涼やかな風と、さっきの葉っぱみたいな爽やかな香り。
これだ。これだよ。
俺が見たかったもの。欲しかったもの。触ってみたかった、感じてみたかったのはこれだよ。
土と植物。水と風。これだよ~。
ドームから一歩も出ていないはずなのに、感じる空気がこんなにも違うなんて信じられない。感じる日の光がこんなにキラキラしているなんて不思議すぎる。
知らなかったはずの、懐かしい土の匂いを嗅ぎわけて、肺がいっぱいになるまで息を吸い込んだ。
「どうしたの、ダイチ君」
オーバさんが怪訝そうな顔をして俺を見ている。泣いてないよな、俺。でも、感動で泣きそうだ。
「いや、すげえ、ていうか、はあー、すげえ」
なんか上手いことが言えない。
「そうでしょ」
だけど、俺の感動はオーバさんに伝わったようだ。嬉しそうに笑ってくれた。
「ほら、あっちの方は木が生えてるでしょ?もう少しすると木の実ができるわ。あっちには少しだけど竹も生えてるし、この辺は毎日採れる野菜、その向こうが苗」
オーバさんは畑に生えてるものを指さして教えてくれた。よく見れば、かなり広い敷地がちゃんと区画整理されていて、木もかなり生えていた。それに植物だけじゃなくて、何かが干してあったりもする。
「今日はもう午後だから、収穫はなし。あっちのほうの手入れをして、それを取り込んだらお終いよ」
「あ、手伝いますよ」
「そう?ありがとう。でも、無理しないで良いわよ」
「うん」
俺はオーバさんに付いて、畑を見て回った。
「オーバさん、土、触っても良いっすか?」
「土?良いわよ」
オーバさんは可笑しそうに笑っているが、これってすごいことだぞ?だって、今まで生きてきて土なんてこの家に来て初めて見たんだから。しかも、野菜だぞ?野菜が土に生ってるのだってたった今初めてお目にかかったんだよ。なんだよ、コレ!小さな花が咲いてるのとか、実が小さかったり青かったり、するんだぞ?すげえだろうが!
興奮しまくっていると、オーバさんが素っ頓狂な声を上げた。
「あら?」
オーバさんが俺より興奮しているとは思えないが・・・オーバさんは向こうの木の方を凝視している。
「んー?」
俺もそっちを見た。
木の陰に・・・誰かがいるのが見えた。
オチ君じゃない。勿論ロボさんでもない。じゃあ、誰だ?この家の誰にも見えない。つまり、不法侵入者ってことだろう。
こんなお化け屋敷みたいなところに、誰かが来るなんて考えられないが、とりあえず知らん人間がいるということは確かだった。