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熱なんて初めて出した



 帰り道、オチ君はまただんまり幽霊2号になってしまった。

 あの機械(ロボット)のせいで、彼が養護施設と関係があったということが俺にバレてしまったのが嫌だったのかもしれない。根掘り葉掘り過去のことを聞こうとは思わないが、知っちゃったもんはしょうがないよな。(確かに珍しいとはいえ)たとえ余り子だったとしても、今現在こうして立派に生活してるんだから問題ないじゃないか。むしろ養護施設育ちで、ちゃんとした社会生活をおくることができるというのは珍しいと聞く。

 オチ君はオーナーのことを「僕の恩人」と言っていたのを思い出した。

 なるほど。それはわかる気がした。

 養護施設あがりでうまく社会生活ができなかった彼を、オーナーが晴れ晴れ荘に住めるようにしてくれたんだろう。


 俺たちは黙々と坂を上り、家へ帰った。

「ただいまー」

「おかえりなさい」

 玄関をあがり、居間に行くとサトさんが座っていた。オチ君はぺこりと頭をさげると台所へと入って行った。魚をトコロさんに届けるんだろう。

 俺はサトさんに呼び止められた。

「ダイチ君、ずいぶん赤い顔しているけど、大丈夫か?」

「え?」

 赤い顔?

 そういえば、なんか顔が熱いかもしれない。言われるまで気づかなかった。

「オチ君と外へ行ったんだろ。疲れてるみたいだから休んできたほうが良いよ」

「あー、うん」

 確かにそう言われてみれば、なんかいつもと違う感じで疲れた。運動したときと似てるけど、もっと身体の上の方に倦怠感がある。


 部屋へ戻り、顔を洗った。

 鏡を見ると頬と鼻が真っ赤だった。うわあ、なんだ、これ。

 シャワーを浴びて、ベッドに倒れ込む。うーん・・・

「あだま、いだい」

 なんだ、これ。うーん・・・すごく疲れていて、顔や身体が熱くて不快なのに、頭が痛くて眠れない。なんだ、これ。

「あだま、いだい」

―― トントン

 誰かが俺の部屋の扉を叩いた。まだ夕方だけどベッドに横になっていたから扉を閉めていたんだ。カチャと控えめな音をさせて、サトさんが顔をのぞかせた。

「水と氷、持ってきたよ」

「え」

 サトさんは部屋に入ってくると、氷を口に入れてくれた。

「水も飲めよ」

 そう言いながら、体温計をおでこに向けて熱を測っている。

「38度8分」

 マジで。熱なんて初めて出したよ。今までは俺専用機械が何から何まで世話してくれたから、風邪ひいたことはあったけど、こんな変な熱を出したことなんてなかった。

 ああ、サトさんが口に放り込んでくれた氷がウマい。

 サトさんは無言で、俺に熱さまし用のシートを貼ってくれた。背中や首、鼠蹊部と脇の下は自分で貼った。

「きもちいー」

「熱中症だ。今日はもう、寝るんだな」

 サトさんは甲斐甲斐しいという感じではないけれど、やっぱり世話焼きだ。サトさんが来てくれたら、頭が痛いのが少し治まった。

「ありがと」

 サトさんは頷いて部屋から出て行った。サトさんがいてくれて助かった。

 熱さましの心地よい冷たさを感じながら、俺はすぐに眠りについた。


 熱中症というのを、初めて知った。

 名前もそうだし、体験してしまった。暑いしだるいし、痛いし気持ち悪いし、とにかく不快だ。

 あんまりにも寝苦しくて、夢うつつの真夜中、ゴロゴロと寝台を転がりまくる。

 今までだったら、寝台には安眠装置が付いてるから、一度眠りについたら起床時間まで目を覚まさないようになってたもんだが、今寝ているベッドにそんなもんはない。単なる普通の寝台だ。でもまあ、普段はこの機械っ気のなさが良い。変なブーンという音がしなくて静かで良いんだ。

 だけど、具合の悪い時はダメだな。

 具合の悪さを逃すためか、無意識に転々としてしまう。その自分の動いた音で若干覚醒してしまったりしてな。うーん、そうか、こういうものか。

 しかし、俺が寝苦しくなると、どういうわけかサトさんがそばに来てくれて、扇いで風を送ってくれたり、額に冷たい物を乗せてくれたりした。ぼんやりとだけど、それでホッとして眠れたんだ。ありがたい・・・




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