ネギを渡された
少し時間が遅くなってしまったのもあり、俺たちはトコロさんが調理をするのを手伝うことになった。
しかし、手伝いなんてできるんだろうか。
「邪魔だから、台所に入ってくんな!」
しょっぱなからトコロさんに怒鳴られる俺たち。すごすごと幽霊2号と、サトさんは居間へ行ってしまった。
だけどオバサンは残っていた。根性あるなー。女の人って結構強いよね。俺も出て行こうかと思ったんだけど、食材を見て、つい大声を出してしまった。
「うわあ!これ、なんっすか!?」
ニンジン、玉ねぎはわかる。あとわかんない。けど、野菜って面白い形だなあ。
「これはネギよ?こっちはジャガイモ」
「へえ~、で、これは?」
人間の赤ちゃんみたいなのが出てきて、俺はちょっと顔が引きつった。
肌色の塊で、首はないが手足っぽいものがある。
「鶏肉だ」
「鶏肉!?これ、鶏肉なの?へえ~、へえ~、へえ~」
へえ~、しか言えない。袋から出すと、ぶにゃぶにゃしていた。羽とかは生えてないのか。これ、本当に食べられるのか?
俺が目を丸くして鶏肉にくぎ付けになっていると、トコロさんがニヤニヤしながら俺を見ていた。それから、
「じゃ、これ、切ってみろ」
と言って、ネギを渡された。
どうやって切るんだろ。と思ったら、オバサンがまな板と包丁を準備してくれた。オバサンはトコロさんに聞いた。
「トコロさん、輪切り?白髪?」
「斜め切り。大きめで良いぞ。初心者だからな」
と、指示をしてくれたが・・・斜め切りはどうやるのかもわからない。
だけど、オバサンはわかっているみたいで、いちから切り方を教えてくれた。
「こう持って、こう切るのよ。はい、じゃあやってみて」
「あ、はい」
とにかく言われた通り、切ることにした。
まな板にネギを横たえ、まずは白い端っこを切り落とす。それから包丁を斜め45度に構えて、ザクっと。
「おおー!」
「なんだ、どうした」
「コレ、なんか爽快ですね」
俺が言うと、トコロさんは真面目な顔をして頷いた。ねえねえ、嬉しい顔隠してない?
それから続けて、ザクザクと切っていく。切る幅はこれで良いんだろうか。よくわからないが、とりあえず切る。
「へえ~、ネギってこういう匂いなんだ」
嗅いだことのない匂いがした。ちょっとツンとする、独特の匂い。けど悪い匂いじゃない。むしろ、なんか腹が減る感じがする。
「そうだな」
あれ、トコロさん、嬉しそうじゃね?なのに下を向いてその顔を隠そうとしている。なんでだよー、嬉しかったら嬉しいって言おうよ~、うりうり、ってやりたい。
しかし、そうも言ってられない。
「うっ、目が!」
目が痛い!なんだこれ、涙が出てくる!目が、目が~!
「目が痛いか」
トコロさん、そこで笑顔になる!?
「ネギ類は目が痛くなることがあるからな」
「そういうことは先に教えてくださいよー!」
俺が泣きながら言うと、トコロさんとオバサンは大笑いだった。
トコロさん、機嫌が直ったみたいだし、良かった、良かった。