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使ったお皿を重ねて運ぶ


 食事の片づけは他の人たちで、ということだったので、初日から俺も片づけをすることになった。

「今日はサトさんの当番の日なんですけど、ダイチ君は慣れるために、今週はみんなの手伝いをしてくださいね」

 オーナーはそう言うと、テレビをつけた。

 居間だからな。テレビがある。今まで気づかなかったけど。


「お皿、運んでください」

 サトさんって誰かと思ったら、どうやら警察官の名前だった。

「はい」

 言われた通り、使ったお皿を重ねて運ぶ。

 さっきの旧式ロボットも、皿を運ぶのを手伝ってくれた。

 台所に持っていくと、ステンレスの大きな流し台があった。うお~、すげえ!初めて見たぜ。

 今までの食事はボトルに入ってる流動食を飲むだけだったから、あんまり皿洗いなんて見たことがないが、一応食洗機くらいは見たことがある。ウチの食洗機は大小のボトルを入れられるスリムタイプだったが、皿を洗えるものも普通にある。

 だけど、この家は食洗機はない。手動で洗うらしい。

 流しの中に食器を入れると、サトさんがスポンジを持って泡を付けていた。それを大きなカゴに入れている。

「石鹸で洗ったのを、水で流してください」

「はい」

 おう。こういうのなら、だいたいやり方も分かる。カランの前に皿を掲げると温水が出てきた。それで洗い流せばいいんだな。

 かちゃかちゃと音を立てて食器を洗う。

 爽快感あるなあ。

 水遊びしているみたいだ。

 それを左側のカゴに入れると、旧式ロボットが布で拭き拭きして、食器棚にしまっていた。こいつ、働き者で可愛いなあ。ブサイクだけど、俺が持ってた機械よりずっと人間味がある。


 食器の片づけは、一通りサトさんが教えてくれた。この人は言葉数が少ないけれど、わりと世話焼きな気がする。まあ、警察官だしな。信用できるし、良い人だと思う。

「このロボットは誰のなんですか?」

 俺専用でないことはわかるが、俺のことも手伝ってくれて、主人は大丈夫なんだろうか。

「一応オーナーのだけど、この家に住んでる家族みたいなもんだ。名前はロボさん」

「ロボさん」

― ピローン ―

 俺の声に反応してロボさんが鳴った。

「旧式でネットワークに接続されてないけど、AIがよく育ってるから一通りのことはできる」

「ふうん」

 ネットワークに接続されてないロボットの存在価値ってなんだろう。俺の持ってた機械はいつでもネットワークに接続されていて、たくさんの情報を扱っていた。朝起きて、生活をして仕事をして、夜寝るまで一緒に居て、俺の生活の全てを管理していたのが専用の機械だ。それなのに、ロボさんはネットワークに接続されていない。自分で考えて住人の手伝いをしてくれる、この家の住人の一人のようだ。

 ああ、それで「家族みたいなもんだ」って言ったのか。

 俺は屈んでロボさんの顔部分に目線を合わせた。

「ロボさん、よろしく。ダイチだよ」

― ピローン ―

『ダイチさん、よろしくおねがいします』

 音声ではなくて画面に文字が出て挨拶を返してくれた。

 なるほど。ロボさんは、俺の先輩住人なんだな。奇妙な住人はここにもいたんだと、俺はなんだか嬉しくなった。


 俺が住むことになった新しい家は「晴れ晴れ荘」というアパートだと言うことだ。夕飯の後(片付けの後)、みんなでテレビを見ている時にオーナーが教えてくれた。

 せっかくテレビがついてるのに、オーナーはお喋りしてばかりだ。そんなにペラペラ喋る人ではないみたいだけど、静かにずっとこの晴れ晴れ荘の説明をしてくれた。

 機械類はあまりないこととか、古い時代の機械が残っているとか。とにかくネットワークが繋がっていないということ。だけど、電話は繋がってるんだって。それってネットワークじゃないのか?と思うが、まあ、ちょっと感覚が違うんだろうな。

「ダイチ君、パッと現金が出ましたが、よく引き出せましたね」

 オーナーは俺の封筒をまだ持っていた。

「はあ、自分専用機械捨てちゃったんで、逆に現金じゃないと生きていけないっていうか」

「そういえば、そんなこと言ってましたね」

 オーナーは笑っている。へえ、笑うとこの人ちゃんと人間っぽい。って失礼だけど、もう夕方だし室内だし、サングラスはそのままなのか?

「でも、現金引き出すの大変でしたよ。銀行に役所の人が来ちゃって、現金を引き出すのを止められたんで」

「ああ、そうなんですよ。あれはコツがあるんです。まあ、もう現金をお持ちになれたようですから、あとは現金での買い物ですね。ここらへんだと、坂を下りたところにある丸屋さん、駅前商店街の三角屋さん、電気関係は四角屋さん辺りなら、現金でも対応してくれますよ」

「あ、はい」

 って、そんな口で言われても覚えきれん。

「おいおい慣れますから、頑張ってくださいね。この家の人なら何でも聞いてくれて大丈夫ですよ」

「はい、ありがとうございます」

 そんな風に、色んな事を教えてもらった。

 テレビでニュースを見てみんなで感想を言ったり、バラエティ番組を見て笑ったりして、9時になると、ロボさんが ― ピローン ― と音を鳴らした。

 それで住人たちは立ち上がり

「じゃあ、おやすみなさい」

 と言って部屋に戻って行った。


 食事は一人で、夫婦の会話は最小限の連絡のみ。

 そんな生活をしていた俺には新鮮な驚きだった。小学校時代みたいだ。子どもの頃、学校では一緒に給食を食べて(飲んで?)、お昼休みにみんなで運動場で遊んだりした。そんなのを思い出した。

 あれは楽しかったよな。

 お喋りって、楽しいんだな。

 仕事でも、色んな人に会うけど、こんな風に他愛もない会話なんてしない。必要なことしか口にしないで、場合に寄っちゃそんな最小限の会話すら画面越しだったりする。

 それなのに、この家の食後のこの数時間は、何の時間でもない、交流の時間だった。なんとも言えず楽しかった。ヒマつぶしにやるゲームなんかよりずっと頭を使うし、気も遣うけど、それこそが人と接することがやっぱり自然なんだって思わされた。それに何より楽しかった。

 これ、毎日やってんのかな。仕事で遅くなる人とかいないのかな。

 俺もお休みなさいを言って、サトさんと一緒に階段を上って部屋に戻った。


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