まずは不動産屋へ
自分の住んでいる星を知っている?なんていう星か知っている?
そう、僕たちが住むのは球体の大地。どの国の人もそこを“大地”とか“地面”とか“地”という言葉を用いて呼んでいる。
それは、宇宙のどの星に行っても同じ。
みんな、自分の住む星は“地球”だと知っている。
「大地、か」
俺はため息をつきながら呟いた。
この星のどこに“大地”があるって言うんだ。“土”なんて普通に生活していてお目にかかることはない。
野菜を作るのさえ土を使わない時代。そりゃ、道路に穴をあけて掘って掘って堀まくりゃ土は出てくるさ。だけど、日常生活で穴は掘らないだろ。
公園にだって土はない。そこらへんの道路と区別するための色の付いた“地面”ではあるが、いわゆる土を使っているわけではない。何かと何かを固めて敷いて、子どもたちが公園で遊んでいて転んでも大けがをしないように配慮されている。
ただ、最近は土が良いものだと言う風潮があるらしく、公園の一角に“砂場”と“土場”があるところもある。良い傾向だ。子どもたちよ、土に触れて何かを学んでくれ。
とは思うが、母親や保育士が“汚いから”という理由で、子どもを近づけないらしい。
意味ないダロ!?
「大地、か」
俺の住む惑星は“大地”ホンマカイナ。
なーんか空しくなって、俺は“大地”を踏んづけると、誰もいない公園をあとにして、とりあえず不動産屋へ行った。
懐古趣味とかそういうわけじゃないが、俺はなんだか古臭いものが好きだ。
この科学の発達した宇宙時代、なんでも機械で制御された住みやすい町よりも、多少不便でも、自然の温もりを感じるような暮らしがしたいと思っていた。
そんなことを言ったら嫁に家を追い出された。
なんでだ。
たったそれだけのことで、夫を追い出すって、どういうことだ。まあ、分かっている。彼女の価値観に合わなかったんだろう。
ついでに言うと、彼女だけでなく、世間一般の価値観とも違うってことだ。
不便な生活がしてみたい、なんて言ってみろ。それだけで変人扱いさ。
みんな、王様みたいに機械にかしずかれてラクで、楽しくて、ちょっぴりやりがいのある生活をすることを望んでるんだ。
そんな中で、俺が機械なんか要らないって言ったら、追い出された。良いじゃないか、嫁専用の機械を捨てようとしたんじゃなくて、俺専用の機械を捨てただけなんだから。俺の勝手だろ?だけど、それが気に食わなかったらしい。
機械が始終まとわりついて世話をしてくれるのは良いよ。確かに便利だよ。だけど、そこに温もりってあるか?人間と比べても遜色ない優しい声色で、ひと肌の体温を持つ手で世話してくれるさ。人工知能で学習して、人間みたいだよ。だけど、それで良いのか?
ぐちぐち言ったって仕方がない――
「え、専用の機械、お持ちじゃないんですか?」
・・・お餅じゃねえよ。あ、変換間違えた。どうせ持ってねえんだ。餅でもいっか。
「はい」
「故障したんですか?交換してもらえば良いじゃないですか」
「や、別に要らないかなーって」
「何言ってんですか。機械がないのにどうやって生活するんですか。住民登録もみんな機械がやってくれてるんですよ?どうやってあなたの身分を証明するんですか」
「あ・・・」
「身分証明できなけりゃ、部屋だって買うことも借りることもできませんよ?」
「マジで~?」
そうだった。身分証明も機械でやってたんだ。携帯端末持ってるけど、これじゃダメかなあ。
「不動産屋より先に、役所行ってきてくださいよ」
と、追い払われそうになったが、ここで負けてたまるか。負けるのは嫁だけで十分だ!
「やっ、あのですね!とりあえず携帯あるんで、コレでなんとかならないっすかね?」
「携帯だけじゃダメですよ。ホストコンピューターの情報が欲しいんですってば」
不動産屋、厳しいな。いや、負けない。
「あー、でも、とりあえず今、帰る所ないんで、なんとか!お願いします!」
両手を合わせて不動産屋を拝む。
「そうは言ってもねえ・・・」
不動産屋、困ってるが、手元は機械を操作している。追い払われないってことは、まだ望みはある。押して押して押しまくれ!
「身分証明は、そりゃ、機械が管理しているかもしれませんが、本来そんなもの必要ないでしょ。僕の住民番号分かりますよ。それでわかりませんかね?ね、何かあるでしょう?僕みたいなちょっと訳ありの人間、たまには来るんじゃないですか?」
「ああ、まあねえ・・・」
口は重いが、手は軽やかに動く不動産屋。メガネにコンピューター画面が映っている。明らかに間取りだ。
「情報のない人でも入れる物件がないわけじゃないんですよ。ただね、そんなところだから、事件や事故だってありうるんです。わかるでしょ?管理されていないということは、守られていないということですから」
俺は真面目な顔をして頷いた。こういう態度って大切だよな。
「そんな時に、うちが訴えられたりしたら困るんですよね」
チラリとメガネの下から俺の方を見る不動産屋。
「お客さんに、そんな物件お勧めしたなんて、ウチの信用にもかかわるし」
言いたいことは分かった。結局自分のことだよな。そりゃそうだ。
「大丈夫。ここで斡旋されたって言わないよ。事故があってもお宅を訴えることなんてしないさ。住めるところがあるなら、それだけでありがたいってもんだよ」
「そうですか?」
不動産屋め出し惜しみしやがって、ホントはあるんじゃないか。ていうか、俺みたいな客を待っていたとしか思えん。