6.取得―喪失
「驚いたよ。それは副作用として?」
「そう言った方が分かりやすいかと思われます。これは我々の先天的な力―つまり普通の魔法を使うことのできる力―とは異なります。常ならざる力は、常ならざる過程で以てのみ、取得することができるのです」
そう言って、執事はユハを奥の部屋へと通した。その部屋は他の部屋と同じように白一色に染められていて、中央に位置する机の上には5つの瓶が並べられている。ユハは、そのうちの1本の瓶が、中に光を宿していることに気が付いた。
「これは?」
「この瓶は、奪われたものの感覚をとらえています」
「だったら、誰かが何かの感覚を奪われた、その『感覚』がこの中にあるだろうということだろうね。でも一体だれが?」
「私めでございます」
執事は顔をそのままユハの方へ向けずに答えた。
「さらに驚いた。まさか、こんなことって・・・執事、君が言ったのは五感だったよね。視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚。だったら取られたのは視覚、聴覚以外の何かだよね?」
「はい、私の場合ですと、嗅覚が機能しておりません」
自らの鼻を指し示しながら、彼は答える。
「なるほど。でも比較的マシな方なのか?視覚、聴覚以外はなくなっても代償としては許容範囲だ」
「しかしそう簡単にもいきませんで。視覚、聴覚、味覚を犠牲にしたものの方が、残りの2つの感覚よりも魔法の威力を増幅することができます」
「それは例えば、白魔法が使える者同士で戦ったときに、相殺とはならずに前3者が圧倒するわけだ」
「勿論、経験や条件によっては後者が打ち勝つ可能性を残していますけどね」
「でもこの5つだったら、味覚を選ぶよ。モノの味なんて大きすぎる程の犠牲じゃない。嗅覚が残ればまだ風味は感じられるからね」
「残念ながら、そう楽観的になれるものでもありません。もう一つ失うものがあります。この契約をした者は、一切の言葉を話す能力を放棄していただきます」