3.王宮―庭園
彼は言葉を覚えたのが早かった。それに加え、人と話すことも好んでいた。その物覚えの良さを指して、執事をはじめとする周りの人間は「ユハは話すために生まれてきた」とさえ噂するほどであった。自分の好奇心を満たすために執事を質問攻めにし、困らせることは日常茶飯で、それどころか、彼が独り言を言うようになると、自分に語りかけられたのかと思い、誤って返事をしてしまう人も数多くいた。
彼は今、ソランと共に王宮の中庭にいた。
「今日も魔法の勉強をしていたの?」
「そうだよ、ソラン。僕の予定は毎日あんまり変わらないよ」
「熱心ね。一体何の為に?」
「それは考えてみたんだけど、分からない。ただ、使えないよりは使える方が便利だと思うし、単純に楽しいんだ。できないことをできるようになるのがさ」
「へえ、羨ましいわ。私はそんなことできないもの」
「君は僕が魔法を勉強している間に政治の勉強をしているんだろ。時間の使い方としては大差ないさ」
「でも全然分からなくって。私バカだから。あなたみたいに頭良くないから」といって彼女は舌を出した。
「思うんだけど、頭が悪いってことは、モノをあんまり深く考えられないってことだろ。ってことは、浅いところで留まってられるってことだ。頭が良い人みたいにいろいろ深く広く考えようとして、もっと深い穴にはまることもない。幸せなことだと思うけどなあ」
「ちょっとそれはフォローになってないんじゃないかしら?」
ユハを小突く。
「いや、実際それはあるんだ。考えれば考える程いろんな考え方が出てきて、結論が出なくて、もうどうでもいいやってなっちゃうとき。そういうとき、そんなもの気にしないで生きてる人達はどれだけ楽なんだろうなって思うよ」
「なんか意外。あなたほどの人でも、悩むときってあるのね。いつも自分で解決して、はい次。って感じかと思ってた」
「だから、魔法の訓練をしているときはもっと気が楽になる。他のことを考えなくても、ただ夢中になっていられるから。考え込む時間を作らなくてもよくなるし」
「悩みって人それぞれなのね。私も何か頑張ろうって気になっちゃった」
「まあほどほどにね。君は姫様なんだから、そんなにいろいろ頑張りすぎなくてもいい。力が必要なら、僕が手にも足にも、頭にもなるよ」
「あらま、頼もしいのね」
ソランはほほ笑んだ。ユハは彼女に別れを告げる。彼は今日、執事と合う約束がある。二人は午前にも会っていたのではあるが。