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2.1つの点の動く先
彼は、成熟するのが早かった。特に付き人や監視のなくとも、粗方のことは自分で学び自分のものにすることができた。
この物語の主人公、その名をユハという。彼はその器量の良さへの自信からか、一人で行動することを好んだ。彼に与えられた執事は無論、教育係としての役割は果たしたが、それ以上にはなり得なかった。ユハは彼のことを「執事」としか呼ばず、終ぞその名前で呼ぶこともなかったのである。執事はユハに歩み寄ろうと日々試みてはいたが、ユハからの心理的な距離は近づくことをしなかった。当初、ユハの冷たい気質を度々話題に取り上げ、不思議がっていた周りの人間も、いつしか気に留めることはなくなっていた。