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18.赤を背景に白は散る

黒の少年は明らかに狼狽していた。このような陸の果てで、これほどの数と対峙する経験などそうあるはずはない。距離を詰めようと、踏み出すユハの足が止まった。身の危険を感じたのだろうか。と、次には他の兵が倒れていた。次、また次と、まるで見えない力で浄化されていくように、周りの兵が力を失っているのである。彼は観察した。目深の少年だ。そいつはというと、まったく攻撃の手を作った様子もなければ、何か呪文を唱えているといった風でもない。それでもなにがしかの力を感じるのは、黒人形の手によるものなのだろう。その位置が掴めない以上、闇雲に攻撃を仕掛けても仲間に当たるのが関の山だ。多勢が仇となっているのである。それでも、相手の技の出どころだけでも把握しようと注意を払っているその隙に、黒の少年は駆け出した。ユハはもう一人の白魔法使いにその場を任せ、自身は10の兵と共に彼の方を追うことにした。この場にいる敵は、黒人形一つと、少年一人。対する白の軍は、残り80と二人。

ユハは少年の動きを先読みし、その行く手を阻む形で姿を現した。ここで仕留める。

「通してくれないか」

黒の少年は、対話を試みた。無論、その余地はない。

彼は沈黙した。こちらが応じないこの状況を把握したのか、次の手を考えているのか。ユハはそこで初めて、こちらを見つめる両の黒い瞳、黒髪、その黒装束を間近で見た。これが黒魔法に関係する者の姿。あまりにも幼く、またか弱い。年端は丁度白の少年と同程度。

しかし、それ以上の詮索は無用だ。ユハは合図をし、手勢に黒を襲わせた。

ところが、その少年は思っていたより遥かに強かった。9人の兵士は彼らの前にあっけなく片付けられた。動き自体はユハのそれには及ばないが、自国の兵の脆弱性に気付かされた。

「やめた方がいいと思うぜ」相手は話しかけた。

「お前もまだ若いんだろ。今日のところは帰りな」そう言われたとて何よりも王からの命令だ。ユハにも退くことはできない。

黒の少年の自信が滑稽に見える程、ユハは強い。しかし今、その旨を伝えて逆に全力で逃げろと伝える術はない。

ユハはそのまま足を走らせ、この場を収めることにしたようだった。

たたみかける白と、回避を試みる黒。ユハの身体能力、そしてその経験はキツォーというこの相手の少年をはるかに上回ることとなる。障害なく、ユハは少年の胸を目掛けて光の槍を突き刺した。相手は胸から黒い光を流しす。それが血のようにも見えたが、黒の少年は体勢を崩すことをしなかったのである。逆に、血を流してその場に立っていたのはユハの方であった。確かに目深の少年はユハに触れてすらおらず、その機会もユハは与えてもいなかった。

ユハと少年の間のその空間。考えられるとしたらその間から攻撃した者がいるに違いなかった。それは当然、前にユハがひと泡食わされた、例の黒人形だ。だが、この時の彼はその状況が把握できるほど意識をはっきりとさせていなかった。彼は壊れ行く意識と闘いながら、次第に膝から絶えていった。


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