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「おはよー」
翌朝の事。
学校に登校した私は教室の扉を開けながら投げやりに、誰に向けるでもなく声をかけた。
私より先に来ていたクラスの皆が一瞬こちらをむいて、誰が来たのかを知るとまた元やっていたことに戻る。ここまでいつものテンプレ。
だけど今日は違った。
一度各々にもどった皆がまた私の方を向く。それも首が折れるんじゃないかってくらいの速度で振り返る。
「おお、夜夢ちんおはよぉ…………おぉおおお!?」
それは私の小学校来の親友も変わらなくて。
「おはよう瑞希」
「おはようじゃなくて! おはようじゃなくてぇぇ! 昨日テレビで見た!」
「端的にどうぞ」
「宇宙人!」
瑞希は私の後ろに立つコルへと指をさした。
「はろはろ~。宇宙人のコルちゃんでーす」
「本物じゃんよ!」
クラスの皆はぎょっとするも私たちの会話を遠巻きに見つめている。
瑞希はボブカットな髪揺らしながら、興奮したように私たちを見つめている。
てかテンション高い。ワインレッドのフレームの眼鏡をかけた我が親友は黙っていれば文学少女然としているのに常にテンション高めだから台無しだ。
「もうね、今朝からずっとこんな感じ、今の瑞希みたいに。指さされるわ声かけられるわ囲まれるわ。その度に公安の人が制止してくれるから、何人かはもう顔覚えちゃったよ……」
私は成り行きを簡単に説明すると、自分の席にと座る。
クラスメイトはぽかーん顔だ。
「でも何でコルっちは学校までついてきてるん?」
瑞希は既にコルにあだ名をつけて呼んでいる。ためらいないというか、フランクというか。相変わらず自由だなあ。
「アタシのお仕事は夜夢ちゃんの監視だからね。そりゃあどこにでもついてくよ!」
「なにそれ裏山」
「でしょー」
ふふん。とコルは無い胸を張る。
「あんたら一体何の話してんのよ。ついでに瑞希もコルの事受け入れるの早すぎない?」
「まあそりゃあ見た目はほぼ人間だし? ちょっと耳と尻尾がついてるけど、言葉も伝わるし、あとついでに可愛い」
その『ちょっと』が大抵の人間は躊躇うようそなんだけどね。瑞希には関係ないみたい。
「夜夢ちゃんの友達、楽しいね」
「まあ楽しい……のかな? 小学校からずっと友達やってるし、たぶんそうだよ」
「ええー! 夜夢っち冷たいよー。ボクと夜夢っちは友達なんかじゃなくて親友でしょー、いやもっとその先! もう心も身体も繋がってる的な!」
「いや無いわー」
「恋人! 家族! 子供は三人欲しいな」
「ほへー、夜夢ちゃんと瑞希ちゃんはそういう関係だったんだ」
「いや騙されないでね。瑞希が勝手に言ってるだけだから」
「ボクはマジだよ! 本気と書いてマジだよ!」
「アタシの星に同性でも子供作れるようになる薬あるけど、使う?」
「何それ欲しい」
「今度帰ったら次来る時に持ってくるねー」
「ひゃっほう! コルっち神様!」
いえーい。と二人はハイタッチ。
ダメだ、ついてけない。テンション的にも近い二人がいるとこんなにも奇妙な空間が出来上がるのか。
コルと瑞希は混ぜたら危険。
そう私は頭にメモをした。