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「どちら様?」
私は現れた珍入者に呆然としながらも問いかけた。
珍入者は腕を組んで仁王立ち、秋の夜風になびく黒髪は星空を切り取ったような輝きを帯びていて、怪しげに女の子の身体を包んでいる。
その隙間からたまに見え隠れする顔立ちは、テレビに出てくるモデルにも負けない様な美人さん。
けれどひときわ異様さを放っているのは、おでこより斜め後ろに二つ存在感を示している小麦色のまるで動物のような耳に、体の後ろにあってもなおその存在を主張する大きな黄金色の尻尾。
コスプレの不審者?
というより変質者?
なんにせよ普通の感性をした人間じゃなさそうだ。
私の怪訝な視線を受けて、少女は口を開いた。
「アタシはジューリ星から来たコルだよ。夜夢ちゃんからみたら、宇宙人ってやつ」
「はい?」
「だから、宇宙人」
「ごめんわけわからない」
「ほらほら、アタシの耳と尻尾みてよ。こんなん地球人にはついてないでしょ?」
「コスプレで見たことあるし。そんな指さしてぴくぴく動かしてみても私騙されないし。テレビでそういうの見たことあるから」
「コスプレじゃないし! 本物だし! ほら、触ってよ」
促されるままに自称宇宙人の耳と尻尾を触る。思ったより毛も多い。もふもふだ。それにあったかいし、本物? なのかな。
「はぁ……一応信じるけど。それで、不法侵入の自称宇宙人さんは何で私のところに来たのよ。あ、人間の耳のついてるところは何もないんだ」
「自称じゃないのに。夜夢ちゃんヒデエ、信じてないじゃんか」
「……私もまだ頭ン中こんがらがってるから端的に答えてくれると嬉しいんだけど」
「割と冷静にアタシの耳をいじくりまわしながら言っても説得力無いんよ…………えっと、目的なんだけど、一言で言うなら、ホームステイしに来ました!」
「お帰りください」
「何で!?」
いやだって何も聞いてないしさ。
そもそも。
「こんな得体のしれない人受け入れられるわけないじゃない。というか何で私なのよ」
「日本人全員をサーチして一番平均的な容姿とステータスだったのが夜夢ちゃんだったから。ちなみに、主要先進二十ヵ国ってとこにはアタシと同じように一人ずつ行ってるよ。もちろんホームステイ先は夜夢ちゃんと同じように各国で平均的な容姿とステータスのところだね! よく考えたら普通の人はこんな唐突な話断るだろうから、さっき夜夢ちゃんが断ったのも当然なのかな?」
……平均って言われた。
よく普通といわれるのは私のコンプレックスなのに。
悔しいからこの自称宇宙人には言わないけど。
「各国の政府にもさっき上司たちがお伝えしてきたところだから、明日には夜夢ちゃんの周りはちょっと騒がしいことになると思うけど、よろしく」
この子の中では私のうちにホームステイするのは確定事項らしい
「騒がしいことになるって?」
「多分だけど、公安とやらがこっそりあとつけたりするんじゃないかな? 監視とかもされるだろうし」
「おおごとじゃない!」
「まあでもあんまり余計な事するとおこだよって上司が釘差す予定だし、大丈夫だと思うよ!」
何その不安だらけの発言。
「てなわけで、明日の朝また来るね。バイバイ」
そう宣言すると、少女は来た時と同じように窓辺に足をかけて、とん……と静かに淵を蹴り、落下していくように視界から消えていく。
「落ちた!?」
慌てて駆け寄って窓の下を覗くと、いつもの庭があるだけだ。
「夢……だったのかな」
開いていた窓から流れ込んでいた秋の冷たい風だけが、どことなく現実味を帯びた余韻を私の中に残していた。