やって参りました! 2021年!
「さぁ、今年もやってまいりました! ナイスでキュートな”痔”に贈られる大変名誉な賞【ベスト・痔ーニスト賞】の発表ですっ!!」
坂○忍に似てる司会者は魚の鱗でもまとったようなスパンコールの眩しいスーツを着ていた。
彼は意気揚々と俺をカメラ前に紹介する。
「栄えある受賞者は〜…………この方! 栗田テツオさん!」
俺はたどたどしく両足の太ももを寄せて内股で歩き前に出る。
なぜならケツがジンジンと痛いからだ。
司会者はカメラへ話かけた。
「リモートでご覧の皆さん、モニターに映る会場は豪華に見えますが、実際は栗田テツオさんの汚くて狭い部屋をグリーンバックで合成してるんですよ〜」
「言葉を選べよコノヤロウ。仮にも人が見てんだろ?」
「しかも皆さん、彼ね、お尻が痛いのにわざわざパッツン、パッツンのジーパンを履いてきてくれましたよ!」
「テメェが履けって言ったんだろが」
「もぉ〜、普段からカッコつけて履いてるんでしょ? …………ツン」
そう言いながら司会者は俺が履くジーパンを人差し指で軽く突っついた。
指で押されたことによりナノレベルでジーパンの繊維が振動して、俺の尻を締め付けた。
尻の穴を押し上げるような感覚。
まるでフンドシを割れ目に食い込ませて、グイグイ引き上げているような錯覚を覚える。
当然、痛風のごとく痛みに過敏な俺の肛門へ激痛が走る。
「いだだだだだだぁぁああ!!?」
「あははは! それケンシロウのモノマネですか? 上手いなぁ〜」
「ふざけんてんのか!」
「栗田テツオさん。フレンドリーに栗テツさんと呼ばせて頂きます」
「気安く呼ぶな!」
「コレ、受賞した皆さんに聞いているんですけど……今のお気持ちは?」
「ツラいに決まってんだろ?」
「そうなんです! なぜか皆さん口を揃えて同じことをおっしゃる!」
「痔だからな」
「栗テツさんは今回、ステージ5のナイスなイボ痔です!」
痔にステージとかあるのか?
そんな疑問を他所に、やたらハイテンションな司会者はマイペースに進行する。
「ほら? 栗テツさん。恥ずかしがらないで前に出て!」
と、声をかけると微々たる振動でも起爆する、爆弾のような痔を患う俺の尻を、勢いよく叩いた。
まるでエジプトのピラミッドの頂上をケツにぶっ刺すような激痛が走る。
「いだぁぁああああいっっ!!!?」
「あははは!」
司会者はイタズラが成功して大喜びするクソガキのように、腹を抱えて笑った。
も、もうダメだ。
痔が辛すぎ立ってられない。
足から骨を抜かれたように、膝から崩れ落ちて四つん這いになる。
頬を伝う悲しき雫。
アレ? 俺、今泣いてるのか?
悔しくて、無様で、情けなくて。
思い描いていた強い男への憧れを打ち砕かれたことで、俺の心はガラスのように壊れてしまったのだ。
そのまま顔を床にこすりつけるように伏せた。
会場は急に熱を失い。
なにかの敗者となった俺を、空気すらもせせら笑っているようだった。