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非凡なる凡~山月記第四段~

※この作品は二次創作です。苦手な方はお気をつけ下さい。

 私達の一行は息をのんで、くさむら中の声の語る不思議な物語に聞き入ってた。声は続けて言う。




 他でもない自分は元来詩人として名を成すつもりでいた。しかも、すべき事業は未だに成し遂げることなく、このような運命になってしまった。かつて作った詩は数百編にも及ぶ。しかしながら世の中には出回っていない。遺稿の所在ももうわからなくなっているだろう。だが、その中にいまもなお記憶しており、そらんじることができるものが数十ある。これを我が為に伝録していただきたいのだ。何も、これによって一人前の詩人面をしたいのではない。作の上手い下手は知らず、とにかく、産を破り心を狂わせてまで自分が生涯それに執着したところのものを、後代に伝えないでは死んでも死にきれないのだ。




 私は部下に筆を執り、叢中の声に従って書くよう命令した。李徴の声は叢の中から朗々と響いた。長短およそ30編、格調高雅、意趣卓一、一読して作者の才能の非凡を思わせるものばかりである。だが、私は感嘆と共に何か足りないんものを感じていた。詩を吐き終えた李徴の声は、突然調子を変え、自らを罵るような声でこう言った。




 恥ずかしいことだが、今でも、こんな「あさましい」身となり果てた今でも、俺は、俺の詩集が長安の風流人の机上に置かれているさまを、夢に見ることがあるのだ。岩窟の中に横たわって見る夢にだよ。嗤ってくれ。詩人になり損なって虎になった哀れな男を。




 …私はこれをどのような気持ちで聞いていただろうか。昔の自嘲癖があった李徴を懐かしんでいただろうか。それとも、哀しんでいただろうか。今はもう忘れてしまった。しかし、覚えていることはある。そんな、よくわからない感情を持っていた私を気にすることもなく李徴は話を続けていた。




 そうだ、今のおもいを即席の詩に述べてみようか、この虎の中に、まだ、かつての李徴が生きている「しるし」に。




 私はこれも部下に書き取らせた。その詩は要約するとこのようなものだった。






 偶然が精神の疾患で私を人外にしてしまった

 

 災難が内外から続き逃れることが出来ない

 

 虎となった今は自分の鋭い爪や牙に誰が刃向かうだろうか


 昔は自分の名声も業績も共に高かった


 今は虎となって草原の中に身を隠しているが


 君は出世して車に乗り勢いが盛んだ


 今宵照らす月に向かって詩を吟ずることも出来ない





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