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虎の名は~山月記第二段~

※この小説は二次創作です。苦手な方はお気をつけください。

 私は、勅命により嶺南れいなん(現、広東省)に来ていた。商於しょうおの宿に泊まり、次の朝暗いうちに出発しようとしたところ、駅吏(宿駅の役人)が言うには

「ここから先の道は人食い虎が出ます。旅人は白昼でなくては通れません。少し待たれた方がよろしいでしょう。」

とのことだった。しかし、私は供回りが多勢であったので駅吏の言葉を退けて出発した。残月の光を頼りに林中の草木を通っていった時、一匹の猛虎がくさむらの中から躍り出た。虎はもう少しで私に躍りかかるところであったが、たちまち身を翻して元の叢に隠れた。するとそこから人間の声で

「危ないところだった。」

と繰り返し呟くのが聞こえた。私はこの声に聞き覚えがあった恐懼きょうく(驚き、恐れること)のうちに私はその声の持ち主らしき者の名を叫んだ。

「その声は我が友、李徴ではないか!?」

 しばらく忍び泣きかと思われる微かな声が聞こえたが、やや間があって

「いかにも、自分は隴西ろうせいの李徴である。」と低い声が答えた。




 私はそのとき恐怖の気持ちを忘れ、馬から下り、叢に近づいて懐かしげに久闊きゅうかつ(久し振りに友情温め)た。そして、何故叢から出てこないのかを問うた。李徴の声が答えて言う。

「自分は今や異類の身となっている。どうして、おめおめと故人(旧友)の前に浅ましい姿をさらせようか。かつまた、自分が姿を現せば、必ず君に畏怖嫌厭いふけんえん(畏れ)の情を起こさせるに決まっているからだ。しかし、今、図らずも故人に会うことを得て赤面するほどの羞恥心を忘れるほど懐かしい。どうかほんのしばらくでいいから、我が醜悪な今の外見をいとわず、かつての君の友であったこの自分と話を交わしてくれないだろうか。」




 あとで考えると不思議であったが私はこの超自然の怪異を、実に素直に受け入れて少しも怪しもうとしなかった。私は部下に命じて行列の進行をとどめ、自分は叢の傍らに立って見えざる声と対話した。都の噂、旧友の消息、私の現在の地位、それに対する李徴の祝辞。青年時代に親しかった者どうしの、あの隔てのない語調で、それらが語られた後、私は、どうして今の身となるに至ったかを尋ねた。叢中そうちゅうの声は次のように語った。

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