李微と言う男 ~山月記第一段~
※この作品は二次創作です。苦手な方はお気をつけ下さい。
隴西(現在:中国の甘粛省東南部)の李微は、賢くて博学で、天宝の末年(西暦756年)には虎榜(官吏登用試験合格者)に名を連ね、江南尉(現在:中国の河南省)で役人になったが、周りの人には性格が「頑固で自尊心が高く、人と協調出来ない奴」と言われ、下級役人の身分に甘んずることしか出来ずにいた。いくらも経たないうちに彼は役人を辞め、故郷の山にこもり、人との交流を絶ってひたすら漢詩作りにふけったらしい。おそらく彼には俗悪な役人の前で屈するのは屈辱だったのだろう。それより、詩人として名を死後百年にわたり遺そうとしたのだろうか…。
久し振りに会った李微は容貌が険しく、惨くなっていた。顔の肉は痩けて骨ばり、眼光だけが鋭く光っていた。かつて官吏となったばかりのときの豊頬(肉付きのいい頬)の美少年であった彼の面影はもう無かった。
「ところで、何のために東へ戻って来たのだ?」
「自分の詩人としての才能にがっかりしたからだ。妻子のため、収入が必要だったのだが、ここで下級役人としての職を貰うことになった。お前まで自分を馬鹿にするのか!?」
突然立ち上がり、私に襲いかかろうとする。
「とにかく落ち着け、馬鹿にしてはいない。それより飲もうじゃないか。」
…かつての同輩は既に高位へ上り、彼が歯牙にもかけなかった者も立場が昔と逆転しているはずだ。自尊心の高い彼がいかに傷ついたかは容易に想像できる。
しばらくして彼はふさぎ込み、何にも満足出来ず、狂気が垣間見えるようになっていた。
一年後、彼は公用で旅へ出た。ここからの話は、「李微らしき人を見た」という汝水(中国の川)のほとりの宿屋が一緒であったという旅人の話をまとめたものである。
・李微はその宿屋でついに発狂した。
・厠へ行く途中、急に顔色を変えた彼が何か訳の分からぬことを叫び、闇夜へ駆け出したのを見た。
・朝、宿の主人に彼のことを聞いたらしいが荷物を置いたまま宿をそのまま出て行ったらしい。
・その近くの役人たちは、辺りの山野を捜索したが手がかりが見つからなかった。
…名乗り遅れたが、私の名は、袁傪と言う。