思い出蛍の遠い光
そろそろ夏かと思う6月上旬の休み時間のこと。
笹田先生が、いきなり話し出す。
「この季節になると僕の実家の座間では、蛍が見られます。夜、田んぼの脇の細い道をたどってくとね…」
「先生、はっきり言わせてもらいます。…興味が、ない‼︎」
「コォラ、それは失礼だろ?」
川田先生が満面の笑みで、私をコツンと叩く。
「いいからいいから、でね…15の時なんだけど。夜、田んぼの細い道を自転車押しながら歩いてくんだよ女の子と。暗くて何も見えないからヘッドライトしてね。」
「…スマホ片手に自転車押してたんですか?」
「違うわい!ちゃんと三次元です!その頃スマホねーしなぁ!」
後ろで川田先生が大笑いしていた。
「オホン!それで、蛍のいる湧き水があるんだよ。そこの前にはベンチがあってさ。そこにその子と言って座ってんの。なーんも喋んないでさ。」
「彼女ですか?」
「いや、ただの友達。それでね、僕が言うんだよ。『綺麗だよねぇ。これからさ、いつまでこの自然があるかわからないじゃん。だから、俺らが守ってこうぜ』って、その子は『そだねー』って言ってさ、その子高校は東京のとこ行くことなってたんだけど、俺がさ、言うんだよ。『お前なんかどうせ都会行ってもいい男捕まえらんねーからさ、35まで結婚出来なかったら、しょーがねーから俺が貰ってやるよ』って。」
「うぅわ、痛々しいな!まず、そのセリフから溢れるナルシズムな!」
半笑いで、答えた。
「それでね、こないだその子から結婚式の招待状が届きました!」
笹田先生は、結婚式に行き礼儀正しくおめでとうを言ってビールを飲んだそうです。